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今日は、ふだん、ぼくたち乗組員が
「どんなふうに、はたらいているか」について
業務上、そのことをウォッチしている‥‥。
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篠田 |
私の場合「趣味」という噂もありますが(笑)。
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はい(笑)、そんな噂のCFO・シノダさんと
「糸井事務所の人事といえば」の趙さんに
本日は、ざっくばらんに話していただけたらと。
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趙 |
はい、よろしくお願いします。
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CFO・人事担当という職務上の観点から
なるべく客観的というか
ある程度「距離感」のある目で話していただけると
おもしろいかなあと思いました。
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篠田 |
わかりました。
ではまず、話のとっかかりとして、
むかし、糸井さんがおっしゃっていた言葉に
「おもつらい」というのがあります。
釣りに関しての文脈だったと思うんですが
「おもしろいんだけど、つらい‥‥」という。
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趙 |
糸井事務所の「はたらきかた」を考えるとき、
その感じは、ちょっとありますよね。
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人事担当・趙
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篠田 |
そうそう、そうなんです。
まる15年とちょっと、
毎日、ある一定以上の水準のコンテンツを
更新し続けているのは
つくってる本人たちがおもしろがってるからに
決まってるんですが、
相当「つらい」ことでもあると思うんです。
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趙 |
それはもう‥‥本当に。
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── |
シノダさんは、うちに来る前、ほぼ日のことは‥‥。
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篠田 |
はい、ずっと見てました。
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── |
そのときは、どう思ってたんですか。
「毎日、休まず更新している」ことについては?
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篠田 |
まったく思いを馳せないですよね。
だって、ひとりの読者として、
お客さんとして、楽しんでいるわけですから、
思いを馳せなくて当然。
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── |
まあ、そりゃそうですよね。
では、CFOという立場で入社してみて?
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篠田 |
乗組員のみなさんの「はたらきかた」を
見ていたら
「どうやってお客さまをよろこばせ、
どうやって周囲の役に立てるか」
ということを、
それぞれの持ち場で真剣に考えているなあと。
ああ、創刊から15年間、
このテンションでやってきたのか‥‥とは
思いました。
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CFO・篠田
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── |
糸井事務所では
自分たちの「はたらきかた」について
そのときどきで
「キーワード」があったと思うんです。
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篠田 |
ええ。
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── |
今とこれからの糸井事務所について
それらを並べるとすると、どのようになりますか?
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篠田 |
そうですね‥‥
「当事者意識」「動機と技術」
「責任感と約束」
「強い個が集まってチームをつくる」
「企業人と生活者、両方であること」
あたりでしょうか。
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趙 |
あの‥‥わたしの経験のお話を
させていただいてもいいですか?
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── |
はい、ぜひ。
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趙 |
わたしは、2004年に
「ほぼ日ストア」のお客さま対応のアルバイトで
糸井事務所に入ったんです。
その後、うちでは「乗組員」と言ってますけど、
正社員として採用されて、
そして、いったん、産休をいただいたんですね。
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── |
ええ。
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趙 |
で、お休みから復帰するときに、
糸井さんから
「人事をやりませんか」って言われたんです。
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── |
ちなみに、それまでの糸井事務所には
「人事」という役職の人はいませんでしたね。
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趙 |
わたし、糸井さんが
復帰後のことを考えていてくださったことが
すごく、うれしくて。
ですから「よろしくおねがいします!」って
お返事をしたんです。
で、復帰してすぐに
そのためのミーティングをやったんですね。
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── |
さて、どうやっていこうか‥‥という。
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趙 |
わたし、人事の仕事ってはじめてでしたし、
どういうお話になるのかなって
すっごくワクワクしながら部屋に入ったら
いきなり糸井さんに
「で、何やるの?」って言われて‥‥(笑)。
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篠田 |
ああー‥‥(笑)。
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趙 |
「え?」と思って。
「あ、そこからはじまるんだ」みたいな。
そのときは、とてもあせったのですが、
今になって振り返ってみると
「糸井事務所で仕事をするって
そういうことだよな」と思いますね。
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── |
さっきのキーワードで言うと
まさしく「当事者意識」の話ですね。
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趙 |
つまり糸井事務所の「当事者意識」って
ただ「担当として、がんばります」以上の何かが
求められているんだなあと思いました。
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── |
基本的には「自分で仕事をつくらないと、ない」
という糸井事務所の考え方は
管理部門にも、とうぜん求められている‥‥と。
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篠田 |
さっき並べたキーワードって、
それぞれ、独立して存在しているわけじゃなくて、
たがいに関連しているんです。
で、今の「当事者意識」についていうと
「動機と技術」の話が、くっついてくると思う。
つまり、糸井事務所では
なにかプロジェクトを立ち上げるときをはじめ
「個々人の動機が、いちばん大事です」
ということを、ずっと言ってきましたよね。
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── |
僕ら乗組員のなかに、
いちばん共有されているといってもいい、
基本の考えですよね。
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篠田 |
ただ、それと同時に、
「動機」をうまく実現させるための「技術」も
当たり前ですけど、同時に大事なんです。
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── |
つまり「動機」だけしかないのは、ダメ。
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篠田 |
糸井さんが「ほぼ日」をはじめた当初はともかく、
いまは、ある程度
個々の乗組員の力もついてきて、
やれることの幅も
広がってきていると思うんですが、
もっともっと
読者やお客さまによろこんでもらうためには、
個々の乗組員が
自分の得意なところを「自分の持ち場」として
日々、磨いていく必要がありますよね。
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── |
はい。
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篠田 |
だから「動機さえあれば、ヘタでもいいんだ」
とか
「自分が好きなことだけをやっていれば
成り立つ職場なんです」
と言い切っちゃうのは、ちがうと思うんです。
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── |
動機には責任がともなう‥‥とも言えますね。
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趙 |
さっきの、わたしの話なんかも、まさにそう。
糸井さんの申し出を「意気に感じ」て、
「よしっ、人事のこと、
よくわからないけどがんばろう!」
という「動機」は、満々だったんですよね。
でも、その時点では「技術ゼロ」の状態。
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篠田 |
しかも、糸井さんも含めた周囲のわたしたちって
ある意味、趙さんの「お客さん」だから
技術を含めたアウトプットを
容赦なく、趙さんに期待するわけですよ。
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趙 |
そこは「妥協がない」ですよね。
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篠田 |
遊びじゃなくて仕事なんだから
それは、「妥協できない」ですよね。
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── |
僕(奥野)も、読み物チームの一員として
入社して2年くらいの間、
提案する企画が、徹底的に通りませんでした。
今から思えば、それはつまり、
「技術」が足りずに
一定の水準をクリアできていなかったんです。
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趙 |
それが「通るようになった」きっかけって、
何か思いつきますか?
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── |
たぶん、それまでは
どこか「練習試合」気分だったんだと思います。
僕じゃない誰かが
可否を決めてくれるだろう‥‥みたいな。
でも、糸井事務所って
「自分で提案したプロジェクトは
自分で責任をとる」のが基本じゃないですか。
つまり、すべての提案が「本番」なんだぞって
思えるようになったら、
だんだん、提案する企画にたいして
「やってみれば?」って
言ってもらえるようになった気がしますね。
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篠田 |
「レギュラー選手だからね、控えとかいないから」
みたいな感じはありますよね。
ただ一方で、
理想の期待値については「妥協がない」んだけど、
それを「今日明日でやってくれ」とは言われない。
時間的な猶予は、もちろん見てくれます。
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── |
僕なんか「2年」も‥‥。
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篠田 |
つまり、その間は
「ああ、期待する水準に達していないのは
まだ技術を高めているところなんだな」
ということを
まわりの先輩は、わかっていたんですよね。
じゃあそのとき、どこを見てるかというと
やっぱり
当事者意識を持って、
ひとりで閉じず、前向きに動いてるか‥‥。
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趙 |
そういう部分は、厳しく見られている気がする。
前向きなアクションについては
誰も邪魔をしないし、
きちんと拍手をもらえるんですけどね。
だから「結局、最後は自分なんだ」ってことが
何度も身にしみてわかる職場かなとは思います。
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── |
そのかわり、「達成感」はありますよね。
ちっちゃなことでも、ダイレクトだから。
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篠田 |
そうそう。
みんなが、それぞれ自分のテーマを抱えて、
毎日毎日、ちょっと喜んだり、
がっつりヘコんだりしてるってことを
お互いわかってるから、
七転八倒しながら隘路を抜けて、
きちんとフィニッシュまで持っていったときの
同僚からの拍手って、
ほんと、惜しみないものがあると思う。
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── |
そうですね、それはもう、ほんとに。
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篠田 |
当事者意識を持って、
自分でテーマを構えて仕事をするということが
できるようになったときには、
本当にやりがいがあり、かつ、やりやすい会社。
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趙 |
で、そうなったときには
「足の引っ張り合い」なんてまったくないし、
逆に「応援の声が、どんどん大きくなる」感じ。
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篠田 |
そこが「おもつらい」の「おも」の部分ですよね。
毎日、絶対にいくつもコンテンツを更新すること、
自分のコンテンツに責任を持つこと、
お客さまに、ダイレクトに直面してるということ、
毎日、打席が回ってくること。
その、ブルっとくるほどの「おもしろさ」が
「おもつらい」の「つらい」を
乗り越えやすくしてるんじゃないかと思います。 |
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<後編につづきます> |