実は当時、ボクは100kg超えの
おデブちゃんだったのでありまして、
その愛らしい体を一層、愛らしくみせる装い。
真っ白なドレスシャツに
レジメンタルストライプの蝶ネクタイ。
その日、お店に穿いてきていた
七分丈のショートパンツに、赤いソックス、黒い革靴。
そしてその日は、ほとんどボクは
サービスらしいサービスをせず、
ニコニコしながら客席の間を行ったり来たりする。
ニコニコ顔それ自体には、なんの役目も働きもない。
けれどニコニコしている人に、
人はなぜだか話しかけたくなるもの。
お客様はボクに聞きます。
あなたはなぜ、そんなズボンを穿いているの?
太りすぎちゃって今までのズボンが
入らなくなっちゃったんです‥‥、
とかって言いつつニコッとしながら
「お飲み物は何をご用意いたしましょう?」。
すんなりお客様の懐の中にしのんでいける。
ニコニコしている人は、
話しかけられたくてしょうがないんだ。
ボクは今でもそう思ってます。
だからレストランでニコニコしている人をみつけると、
何か話をするキッカケはないものか?
って声をかけるためのヒントを探す。
サロンエプロンの前がちょっと汚れていたら、
「今日は忙しかったんですか?」。
ちょっと独特の髪型をしている人を見つけたら
「それ、表参道のカリスマ美容師の仕業です?」とか。
お店の人と、お客様である私たちの間にある、
目に見えぬ壁をとりはらい
友達付き合いをするための挨拶がわり。
ニコニコ顔の他にヒントは多ければ多いだろう‥‥、
ってそう思ってついでにボクは、
大きな名札を作って胸にぶら下げた。
そこには大きく「ロバート・サカキ」と書いてみた。
アメリカ時代、ボクはロバートと呼ばれていたのです。
ルールばかりで、人の生活や生き方に干渉したがる
日本の人間関係に息が詰まる様な気がしてボクは、
アメリカにまで逃げてった。
そのアメリカで、最初、
ボクが住んだエリアが日本企業の駐在員が多く住む街。
そこはまるで日本の小さな田舎町を煮詰めて
凝縮したような、うわさ話が渦巻くところで、
ボクはすぐさま、這々の体でそこを去る。
たまたま学校の友だちが、
中国人のコミュニティーに住んでいて
ボクは彼らをたよってそこに移り住む。
ここが住み心地がよかったのです。
細かなコトには干渉しない。
困ったコトがあると親身に相談にのってくれるし、
力を貸してくれたりもする。
なによりみんな食べることを大切にする。
どんな家にも大きな鍋が置かれてて、そこでクツクツ、
料理やスープが炊けていて、
誰かの家を尋ねるとまず第一声が
「お腹はすいてない?」って質問。
「おなかが空くと人は悪いことを考えるから」、
だからまずはお腹を満たして、
それからたのしい話をしましょ!
調子にのって、ボクはいろんなおいしいモノを
ゴチソウになった。
中でも一番好きだったのが、豚の醤油煮。
中華スパイスと醤油とお酒でコトコト煮込んで、
ホロホロになったその煮豚がありさえすれば
ご飯を何杯でもお替りできた。
その食べっぷりが良いからと、
しばらくたってそのコミュニティーの
人気者になったボク。
シンイチロウという名前が彼らに呼びづらく、
アメリカンネームを付けたらどう?
って彼らがいつしか言い始め、
そうだ、それならロバートはどう?
ボクが大好きな豚の煮込みの中国名が
「ローバー」といい、
日本から来たローバーが好きな
子豚みたいな男の子‥‥、って、
ボクのイメージにぴったりだからと、
ボクの名前が決まった次第。
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