ボクらもお店を作るとき、迷いました。
コストのことも気になった。
なにより「ココは高級なお店なのか」と
ただ思われるのがちょっと心配で、
けれどボクは自分でもし
レストランを経営することがあったら絶対、
テーブルクロスレストランにしたいとずっと思っていた。
理由はこんな母の思い出ばなしが、
ずっとココロに残っていたから。
横浜に母が大好きだった喫茶店がありました。
四角い小さなテーブルにテーブルクロスがかかっている、
ちょっとパリのカフェ風の店。
一杯一杯サイフォンで入れるコーヒーがおいしくて、
何時間でもいられそうな
のどかな雰囲気が心地良くはある。
けれど値段もたかくて、全体的に古臭く、
それでかいつも空いてた。
そのお店の近所には、もっと新しくて気軽で
その分、安いお店がいっぱいあるのに、
なぜだか母はその店ばかりを贔屓する。
なんでそんなにこのお店のコトがすきなの‥‥、
って聞いたら
「テーブルクロスのあるお店って
ロマンティックだから好きなの」と。
そしてこんな昔話をはなしてくれた。
母と父が、まだ恋人だった頃のコト。
高校生の頃からずっと交際していた父と母。
デートといえば、映画を見て、
喫茶店でお茶を飲んでそれでおしまい。
でもたのしかった。
昔から、男のくせにおしゃべりで
いろんな話をしてくれて、私はニコニコ、うなずくだけ。
それからあの人は、かならず
小さなプレゼントを一個、もってくるの。
大したものじゃなかったの。
読み終わった本だとか、
卓球のラケットのラバーだとかを持ってきて、
テーブルの上にそっとおくのよ。
白いレースのテーブルクロスの上に置かれた、
大したものじゃないモノが、本当にステキに見えた。
私のコトを大切に、
思ってくれているんだなぁ‥‥、って。
そんなある日。
いつものように、いつもの店にやってきて、
けれどなぜだかお父さんがソワソワしてる。
いつものようにおしゃべりじゃなく、
何かあったのかなぁと思ったら、
彼、前のめりになって小さな声で‥‥。
テーブルクロスの下で
手をちょっと伸ばしてみて、っていうの。
そっと手を伸ばしたら、
紙切れのようなモノが手にふれる。
取ってって言われてそれを掴んでみたら、封筒だった。
そっけのない茶封筒。
中にはこれまた普通の便箋一枚に、
「ボクと一緒にしあわせな家庭を作ってくれませんか」
と大きな文字が書かれてた。
プロポーズの手紙だったの。
断られるかもしれないって、不安な気持ちが
テーブルの上にこれを置かせなかったのでしょう。
でもなんだかとてもうれしかった。
他のお客様がいる中で、
その手紙のコトをしっているのは
私とお父さんとふたりきり。
だから今でもテーブルクロスをみるとなんだか、
ロマンティックな気持ちになるのよ‥‥、
乙女でしょう。
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