夏のレストラン。
お店の中でただひとり、
際立って薄着の女性にこう言われたスタッフは
ハムレットの心境です。
レストランで働く人は、
お客様から言われたことを
叶えるように働かなくちゃいけない。
けれど同時に、そこにいらっしゃる
すべての人が快適であるように
働かなくちゃいけなくもある。
だから、困ります。
そのご婦人に「他のお客様の御迷惑になりますので、
温度を上げるわけにはまいりません」
と答えるコトはできません。
と言って、冷房を緩めてしまうと
「暑いからなんとかしてよ」
と必ず不満がでるでしょう。
To make room warmer, or not to make room warmer,
this is the question!
困ります。
レストランのスタッフを困らせるお客様は
決して得をしない人。
こういうリクエストをする前に、
こう考えるコトができるとステキです。
寒いのだけど‥‥。
私だけが寒いのか。
それともみんな寒いのか。
周りの様子を見れば大抵わかります。
自分だけが寒いんだなぁ‥‥、と思ったら、
こう言いましょう。
「なんだかちょっと寒いのですけど」。
ただそれだけを、ちょっと困った表情で。
レストランでお客様が困ったときに、
今までの経験をフル動員して
解決方法を提案するのがスタッフの腕の見せ所。
もしかしたら、冷房の冷気が当たらぬ
ちょっと温かい席が運良くあいているかもしれない。
そちらにお席を移しますか?
と、あっさり解決したらばシアワセ。
ボクの店では、そう言うお客様のために
薄手のウールのストールを何枚か用意していて、
いかがですかとお貸ししていた。
あるいは、隣に座ったハンサムな紳士から
「よろしければ、私のジャケットを
お貸ししましょうか?」
と申し出を受けるコトがあるかもしれない。
そんなステキな助け合い。
お手洗いで見事な衣替えを果たした彼女。
あの目の覚めるような出来事も、
まず同席の紳士が言い出して、
ボクというお店の人の力を借りて
はじめて成立したモノだった。
例えば首尾よく、一人で脱いだジャケットを、
一体どこに置けばいいのか。
椅子の背中ではくつろげない。
おいしい料理とたのしい会話に熱中して
ジャケットの襟が背中で潰れてしまっては、
そのジャケットを羽織り直して家路につく、
後ろ姿が台なしになる。
ベンチシートに座ったからと、
脱いでたたんで横に置いたらシワになる。
お店の人に一声かけて、脱がせてもらえば
そのジャケットはそのままお店の
クローゼットの中に収まる。
大切なお客様の、大切な分身として、
大切に扱ってもらえるジャケット。
それもステキなおもてなし。
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