みんなに同じ働き方を押し付けるような
教育を拒んだ経営者がいらっしゃった。
数あるチェーン店の中でも最も、
サービスのよいファミリーレストラン、
と呼ばれたお店を作り出した人。
仕事のお手伝いをさせて頂いたコトをきっかけに、
懇意にさせていただく栄誉をいただいた。
飲食店をよりよくすることに対する情熱はすばらしく、
まだ20代のボクにいろいろ教えてくれたものでした。
「よいサービス」は教育で作り出すコトができる。
けれど「すばらしいサービス」は
その人の資質を引き出すコトでしか
手に入れることができない、
というのがその経営者の持論でした。
例えば二人連れのお客様がいらっしゃるとしましょう。
食後のコーヒーをたのしみながら、
打ち合わせのような話をされている。
コーヒーのおかわりが自由のお店です。
そのお代わりのタイミングを、そのお店では
「コーヒーカップの傾く角度」で見極めようと、
そうマニュアルには書いてあります。
カップの中の飲み物の残りの量が減ってくると、
カップの傾く角度が急になっていく。
大体何度くらいになったらそろそろ、
お客様がコーヒーをお代わりしたいと
おっしゃるタイミングだから、
そっと近づいて「いかがですか?」と聞きましょうと。
そう教育されたスタッフが、
そのお二人のテーブルに近づいていく。
そして「おかわりはいかがですか?」と聞くと、
大事な会話を中断させる無粋な邪魔になってしまう。
‥‥、コトもあるのが、
レストランでのよいサービスのむつかしいとこ。
いつ呼ばれてもいいように、そのテーブルに気を配る。
呼ばれたら、すぐにコーヒーの入ったポットを手にして、
テーブルに近づいていく。
そのタイミングでお願いされることと言えば、
大抵はコーヒーのおかわり。
そのとおりだったら、コーヒーを注いでおしまい。
もし、追加注文のようなコトであれば
その注文を聞きながら、
一緒にコーヒーのおかわりなどはいかがでしょうか?
と聞けば良い。
それが気の利いた人のする
「すばらしいサービス」なんだよ。
ついでに一緒に食事をしている人の
コーヒーカップの中を見る。
まだ半分ほど残っていたといたしましょう。
おそらく中のコーヒーは冷え始めていて、
もしそこにお替わりのコーヒーを注ぐと
すべてがぬるくなる。
ぬるいコーヒーは
香り、風味に味わいとすべてを損なうモノであります。
だから一言。
「お客様にもコーヒーのお替わりをお持ちしましょうか?」 と聞いて、
一旦立ち去り、 新しいカップにコーヒーを注いで持ってこれたら最高。
「とてもすばらしいサービス」が
提供できたということになる。
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