先週から続く、
「儲けるために仕入れるべき食材を考えましょう」
という授業。
ちょっと復習をいたしましょう。
答えは3つ。

まず、値段が安定した食材を選ぶこと。
そして、ロスがでないよう長持ちする食材を選ぶこと。
それが3つの答えの中の2つでしたネ。
つまり市場行ったって、
儲けのタネは転がっていないんだよ‥‥、
ってなことを先週、説明したわけです。

確かに、外食産業が本格的に成長しはじめた当初。
凍らせた肉を上手に料理して、
お客様のお腹を満たすコトに成功した人が、
儲かる会社を手に入れた。
ハンバーガーショップがそうでした。
ファミリーレストランも主力商品はハンバーグ。
どちらも厨房の中では凍ってる。
しかもほとんどアメリカ産で、つまり大量に肥育された
まるで工業製品みたいな肉を使って調理される。
仕入れ価格も安定していて、仕入れ値が変わるとしたら
円安、円高という要素ぐらいと
言われることさえあったほど。

ただ、値段が安定している上に腐らないとなれば、
安心して大量に仕入れることができる。
大体、世の中のモノは大量に仕入れれば
安くなるようにできていて、
だからこういう仕入ればかりをしていると、
絶対大きな会社には勝てなくなっちゃうから
気をつけましょうネ‥‥、って
ひと言添えることも忘れませんでした。

つい最近、レストランの経営者の頭を悩ませた安売り合戦。
どういう人たちが起こしたかと言えば、
まずハンバーガー屋さんたち。
凍った牛肉を主力食材に売る人たちで、
それに続いて牛丼屋さんたち。
彼らの肉もみんな凍ってた。
ファミレスチェーンも加わって、日本では
「安くなくちゃ売れないんじゃないか」
って思わせるほどの安売り合戦。
どの会社も、儲けやすいからはじめたビジネスモデル故、
その儲けをギリギリまで吐き出すことでしか
戦うコトができないシステムに
なってしまっていたからなんでしょう。

さぁ、それでは最後の答えを
そろそろお教えいたしましょう。


飲食店の食材の中には、
「そもそも安いもの」があるのです。
代表的なモノが2つある。
穀物と水。
このふたつ。

お米や小麦、とうもろこしのような穀物は、そもそも安い。
しかも比較的値段が安定していて、
世界中の人たちが主食としている食品ですから、
所得水準の高い日本人にとっては圧倒的に安く感じる。
日本において、水はただ同然ってずっと言われていて安い。
そのどちらか。
あるいは両方を使った商売をすれば
絶対、儲かるんだというのが
「食べ物商売」の昔からの常識だったりするのです。

あるファミリーレストランの
チェーンストアにスカウトされて、
ファミリーレストランを超えるビジネスモデルを
開発することを託された人がかつていました。
もともとレストランビジネスで育った人ではない人で、
ながらくジャーナリストをしていた人。
当時、日本を代表するレストランチェーンを超える
規模と内容にするためには、
儲かる上に何百軒もの店を作らなくちゃいけなくなる。
そのためには、安い食材を安定的に、
しかも大量に仕入れることが必要になる。
さて、何がいい? と、この人、半年ほど、
世界の食糧事情を視察して回ったのです。
スカウトされていきなり世界一周旅行を申し出る、
その大胆さもビックリだけど、
いいよ、分かったとそのまま世界に送り出した、
そのチェーン店の経営者の度量の広さもまたビックリ。
時代は1980年台の後半。
つまり世界が夢を見ていた時代でありますからして、
そういうこともできたのでしょう。

世界旅行から帰ってしばらくして、その人にあったとき。
彼は目をキラキラさせてこういいました。
「ボクはね、これから小麦と水で魅力的な商品を作って
 商売はじめるからネ」と。
だって、小麦と水ほど安定して安い食材はないから、
というのが彼の結論で、それから試行錯誤をしながら
結局、彼がはじめたのはどうしたことか
ハンバーガーの店だった。
そのとき彼はこんな言い訳。
「小麦粉に最大の付加価値をつけて提供できるのが、
 今の時代ではハンバーガー。
 しかもソーダやコーヒーなんかの水が大量に売れるんだ。
 マクドナルドが世界で一番の外食チェーンになった理由が
 わかったよ」‥‥、と。
彼の夢がついぞ叶うことはなく、
けれど彼が言ったことは
決して間違いではなかったのだろうと今でも思う。



今、外食産業のチェーン店で
家賃を払う力が一番あるとされているチェーン。
つまり、一番儲かる体質にある会社、
というコトになりますけれど、
それは、スターバックスにおいて他にない。
だって、彼らのメインの食材といえば「水」ですから。
しかもその水に最大限の付加価値をつけて、値段をつける。
砕いたコーヒー豆で色をつけ、
沸騰させたミルクで泡をつけるといった
付加価値だけじゃなく、技術や笑顔、
気持ちのいい空間を総動員して、水を高く売る。

マクドナルドが一生懸命、
飲み物付きのセットを売ろうとするのも、
すべて、水を売ればそれがそのまま利益になるから。
その飲み物だけを売ることができるスターバックスって、
儲けるコトに関しては最強システム。
だからみんなも「飲み物」を売れるように努力をしよう。
食後のコーヒーを飲んでもらうように工夫をしたり、
夜にはワインを売る努力。
独立をしたシェフが成功する確率よりも、
ソムリエが独立して成功する確率の方が高い、
としばしば言われるのも、
「水で儲ける」儲け方をよくしってるから。
だからみんなも料理ばかりじゃなく、
ワインの勉強もしようよね‥‥、って、
それがボクの講義のひとつのしめくくり。

そういえば、ここ数年。
みんながこぞって売ろうとする料理。
それを売るのに成功すれば、
もうウハウハで笑いがとまらぬほどに
儲かる料理があるのですけど、さて、それは何?
答えは来週。
ごきげんよう。


2014-04-24-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN