儲けるために爪を磨いた料理。
今、利益を出したいと一生懸命な人たちが
こぞって扱おうとしている料理が実は、パンケーキ。
主原料は小麦粉、水、砂糖に玉子、ふくらし粉。
どれも価格が安定している上に、価格自体が安いもの。
水を牛乳にかえればリッチなレシピになるけれど、
それでも原価がそれほど変わるわけじゃない。
普通に作れば一枚、10円くらいで作れるでしょう。
3枚ワンセットで四角く形を整えたバターに
シロップをつけてもだいたい50円ほど。
喫茶店ならそれを500円くらいで売るでしょう。
卵やバター、あるいはシロップを上等なモノにすることで、
ホテルのコーヒーショップ辺りでは
それを700円くらいで売ります。
それでも多分、原価は100円程度でしょうね。
十分儲かる。
というか、一般的な飲食店の原料費は、
率にして30%ほど。
だから100円の原価のものを700円で売れば
原価は15%弱。
かなり儲かります。
それにパンケーキというモノは
コーヒーをおいしくさせてくれるもの。
だから昔は喫茶店で食べるモノでもあったのだけど、
ホテルの高価なコーヒーと一緒に食べると、
1000円超える。
ホテルの飲食店の中でも、
儲け頭のひとつと言われる料理の所以。

そのホテルのパンケーキよりも
高い値段をつけたレストランが
東京に続々登場したのがここ数年の出来事です。
ただわけもなく高い値段をつけると
お客様にもわかってしまう。
あの店の料理って、高いよネ‥‥、
って不人気の理由になっちゃう。
そこで彼らはとある魔法をパンケーキの上にふりかける。



ハワイの名店。
ホノルルで一番おいしいと言われたパンケーキ。
ハワイという場所が日本人にとって身近な憧れの場所。
憧れの場所で人気のある食べ物は、
さぞかしおいしいに違いなく、
だから行列してまで食べてみたい料理として
受けとめられるのでしょう。
ニューヨークだとかカリフォルニアだとかからも
パンケーキがおいしいお店がやってはくるけど、
行列の出来具合はどこもハワイにかなわない。

「あら、あなたが作るパンケーキ、おいしいわねぇ‥‥。
 店を作れば日本人が高いお金で
 権利を買いに来てくれるわよ」
って、ハワイの人たちの間で
流行っているジョークのように、
確かに日本の外食産業の人たちは、
次の行列ブランドはないかとハワイを駆けまわっている。
人気パンケーキショップを成功させて、
それまでの借金を一掃して優良企業になった会社が
いくつも実際誕生したのも、
儲かる食材でお客様を喜ばせることに成功したから。

同じ小麦粉と水、玉子で作ったお好み焼き。
粉だけじゃなく肉やエビ、イカ、野菜をたっぷり入れた上、
時間をかけて焼いてくれたのに
パンケーキより大抵、安い値段で売られる。
だから安い食材を使うだけじゃなく、
高く買ってもらえるイメージにも
こだわらなくちゃいけないんだよ‥‥、
っていうのがその講義の大体の結論でした。



ところでボクの父。
外食産業の黎明期には飲食店を経営し、
そのあと、コンサルタントとして
外食産業の急成長を作った人。
特に経営数値のプロを自認している人で、
だからでしょうね。
飲食店に行くとすべてを数字で置き換えてしまう
クセがある。
家賃がいくら。
お店の大きさがこのくらいだから、
改装費にかかったのはこのくらい。
働いている人の人数や様子をながめて、
人件費がこのくらいはかかっているんだろうなと、
料理がやってくるまでずっと数字の話をしたりする。

特に原価のコトには敏感で、一皿一皿、このくらい。
それをこんな値段で売るとは儲けてるなぁ‥‥、
ともううるさいコト。
母に何度もたしなめられる。
だってわかるんだからしょうがないじゃないか‥‥、
とそのたび、子供みたいに口を突き出し言い訳をする。
でもある日。
すばらしい眺望と、エレガントなサービスで
人気のレストランに家族そろっていったときのコトでした。
おそらくそのお店の最大の売り物は雰囲気で、
だからでしょう。
料理はちょっと貧弱でした。
そこに行きたいと言ったのは母。
父はまるで鬼の首を取ったような勢いで、
「ここは原価を20%も使ってないぞ。
 まるで客をだますような料理ばかりだ」
とはしゃいで言った。

たまりかねて母が父にこういいました。

私はね、原価何円の料理を
ココに食べに来ているわけじゃないの。
東京をまるで自分のモノにしたみたいな、この景色。
厨房の調理人も、サービスの人たちも、
みんなが私たちのためだけに
働いてくれているんじゃないかしらっていうこの雰囲気。
それも含んでのこの値段なら、
安いとあなたも思うでしょう?

人生をたのしむためには、
自らすすんでダマされてやろうという寛容と、
多少のことには鈍感でいられる才能が必要なのよ。
あなたなんか、銀座に行ったら
すすんでたのしく騙されるでしょう!
クラブで飲むお酒の原価に比べれば、
ここの料理の値段なんて良心的だと私は思うわ。
それでも嫌なら、家に帰ってニンジン齧って
一人でテレビでもご覧あそばせ‥‥、と。

ボクはずっと騙され上手。

さて本題にもどりましょう。
儲けるための3つのポイント。
そのメリットを最大限に享受しようと思ったら、
とあることを心がけなくちゃいけなくなります。
原価シリーズもそろそろ次回でエンディング。


2014-05-01-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN