儲けるために適した食材という話を
しばらくしてまいりました。
その復習。
3つのポイントがありました。

【1】価格が安定していて
【2】品質が変わらず、長持ちするもの
【3】そして、やっぱり圧倒的に安いもの

そしてこういう食材は、大抵
「たくさん買えば買うほど安くなる」
モノでもあったりするのです。

飲食店も会社や企業である以上、大きくなろう。
できるならば一軒でも多くのお店を出してやろうと、
努力するもの。
その拡大意欲には、いくつかの理由があります。


ほとんどの経営者が思うのが、
今、働いている人たちをシアワセにしてあげるために
店を増やさなくてはならないというコト。
見習いとしてスタートした従業員が、
経験を積んで一人前になっていく。
最初は徐々に給料は上がります。
経験を積んだ分だけいいサービスや、
調理が上手にできるようになり、
生産性があがったりすれば、それが給料に反映される。
けれどそういう堅実な努力の積み重ねで得られる昇給には
限界がある。
次の見習いの若者にチャンスを与えながら、
同時に給料を増やし続けるためには
売上を飛躍的に伸ばす必要があるのです。
その一番、よい方法が、もう一軒、店を出すこと。

飲食店で働きながら、結婚をして子供を作り、
子供を育て自分の老後の蓄えをする。
そのために飲食店を経営する会社は
絶えず、店を増やす努力をしなくちゃいけないワケです。

お店が増えれば認知が高まる。
それも飲食店が大きくなりたい理由のひとつ。
常連さんだけで成り立っているお店ならば、
新しいお客様にアピールすることを
考えなくてもいいのでしょうけど、
ほとんどのお店にとって、はじめてのお客様に
いかに振り向いてもらえるかというコトは大きな課題。
1軒よりも2軒。
2軒よりも3軒。
1軒でも多くお店を作れば、街の人たちの目に入る。
それに一軒しかないお店よりも、
安心感とか信頼感を覚えてくれるに違いないと、
それでお店を作る努力をするのです。


ただ、お店が増えていくことに対するお客様の目は
ときに厳しい。
お店が増えすぎると
「あのお店はチェーン店みたいになっちゃった」
って、言われたりする。
それが何店からチェーン店のようと言われるのかというと、
それは様々。
小さいお店。
お店の人が一生懸命、汗して働いているお店なんかだと、
2店目を作っただけで
「最近、商品の品質が下がったわよね」
と噂されたりすることがある。

お店で働いている人を、もっとシアワセにしてあげたい。
一人でも多くのお客様に、
自分のお店の商品やサービスをたのしんでもらいたい、
と思う一心で、お金を借りてまで作った支店のために
お店の評判が落ちてしまう。
だから慎重に。
そして細心の注意を払い、不退転の決意をもって、
ほとんどの人は支店を作る。

けれど、もうすでに十分な認知を得るだけの店を
持っているにもかかわらず、
それでもなおも店を出し続ける会社もある。
それこそが俗にいう「チェーン店」というもので、
もういいだろうって思うくらい、次々お店を出していく。
理由はいくつかあるでしょう。
使命感とか名誉欲とか、
あるいは経営の本筋とは違った理由がまず考えられる。
どんどん会社を大きくして、
もし運良く上場できたりすれば、
市場からかきあつめたお金で借金を全部返してしまえる。
飲食店を経営している人たちのそのほとんどが
金融機関からお金を借りるにあたって、
自らを保証人にしてしまう。
だから何か失敗すると、お店がなくなるだけじゃなく
自分の人生自体も台無しにしてしまうことが多いのですね。
そういう苦労をした人にとって、
大きくなれば借金から自由になれると夢見て
大きくしたりする。
まぁ、そういう夢は大きくすることよりも、
実直にお金を返すことでこそ
達成できる夢でもあったりするのですけど‥‥。


とは言え、大きくなると
「いろんなものを格安に仕入れることができるようになる」
という日々の営業の中で目に見えるメリットがある。
その代表が食材で、だから彼らは
「たくさん買えば安くなる食材」
で料理をつくろうとするようになる。
スケールメリットというやつですね。
牛丼だったりハンバーガーだったり、
うどんだったりといったモノが
大量仕入れで安く作れる料理の代表。
お酒もそういう食材のひとつで、
だから居酒屋にチェーン店が多かったりする。

だからね、安く仕入れることができる食材や、
儲かることばかり考えてメニューを作ると
チェーンストアに負けちゃうんだよ。
だから、ボクが言ったようなコトに溺れないで
料理作りをしましょうネと、
逆説的な結論でその講義を終えることにしていました。

また来週。


2014-05-08-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN