大量に仕入れれば安くなるという先週までの話。
実は落とし穴があるのです。
会社が大きくなってしまったがばかりに、
原料を調達することに大変苦労したチェーンがありました。
フライドチキンを売っている大手企業です。
創業の当初は、鶏の唐揚げとはまるで違った
フライドチキンという商品が、
なかなか日本の市場で受け入れられず苦労をしました。
何より、おいしいフライドチキンになってくれる
「種類」「大きさ」「育ち方」の鶏を
調達するのが大変だった。
なかなかコストが下がらず、
普通ならば食材の仕入れのあり方を
あっさり変えてしまうところ、
彼らはその品質にこだわった。
だから仕入れ値が高くても、
品質を守るためにあえて高いものを仕入れ続けた。
ほとんど利益が出ない状態にあっても
必死に歯を食いしばり、
ある程度、まとまった仕入れができるようになったら
価格交渉もできるだろうと、お店を次々作り続けた。

努力の甲斐あって徐々に
チキンの仕入れが安定しはじめるのです。
スケールメリット、といわれる状態です。
仕入れ値も確実にさがりはじめて、
利益が順調にでるようになる。

さぁ、これから積極的に出店しよう。
もともと経営の母体が大企業で、
開業資金はふんだんにある。
ライバルになるような会社やお店もほとんどなくて、
だから店は順調に増えていきます。
よし、これである程度の規模のチェーンになったら
もっと安く原料を仕入れることができるようになる。
そしたら値段を下げて、もっと多くのお客様に来て、
たのしんでもらうことができるに違いない、
と出店のペースが加速していったのです。

ところが‥‥。


あるところで突然、
主原料の鶏肉を仕入れることがむつかしくなった。
指定されたクオリティーの鶏ならば、
どの部分でもいいというわけではない仕入れ。
だから仕入れれば仕入れるほど、
このチェーンが使わない肉が増えていく。
最初はそれを他のお店に売ることで、
つじつまを合わせていたのだけれど、
そのチェーンの使用する量があまりに増えて、
他に売り先をなくしてしまった。
それでもうこれ以上、仕入れの値段を
下げることができなくなった‥‥、と、
そのためしばらくお店を増やすことが
できない状態に陥るのです。

仕入れが有利にできるだろうと、
会社の規模を大きくしたら、
それが足かせになって仕入れが高くなってしまう。
つまり、自分で自分の首をしめるようなコトになる。
何事においても、独り占めや行き過ぎるということは
ろくでもないことになるっていうことなんでしょう。

で、そのチェーン店。
今でも鶏の仕入れには昔ながらのこだわりを持ち、
極端な安売りをすることなくがんばっている。
その当初の苦労のコトをみんな知っているからでしょう。
飲食店はヒットすると
必ずそれを真似する人がでてくるのが世の常なのに、
フラインドチキンのチェーン店を
あらためてやろうとする人が出ないというのも、
オモシロイ。
他に類を見ないブランドとして
認知されたということもあるに違いない。


ところでブランド。
飲食店の人たちを勉強をしていると、
彼らは一様に「ブランドイメージを高めたい」と言う。
ならば「ブランドの本質って一体、
どういうものだと思いますか?」と聞くと、
なかなかスパッと答えがでない。
ボクはそんなとき、こう答えることにしています。

ブランドっていうものは、
自分の売りたい値段で売り切るコトができると
いうコトなんだよ。
値引き販売をしなくていい店。
あるいは会社。
つまり「定価でお客様をよろこばせる」ように
努力しつづけている人たちが、
その努力の結果手にするコトができる栄誉がブランドで、
有名だとか、高価だとかで線引することができない言葉。
なのに中には一生懸命、有名になりたくって
値引き販売をしたりする人がいるのです。
見当違いだし、とてももったいないと思う。

そもそも飲食店というのは、ちょっと変わった商売で、
値付けする人と、製造する人、そして販売する人が同じ人。
他の人が決めた値段で仕入れて
そのまま売るような商売じゃなく、
ある意味、値付けが自由にできる。
自分で決めた値段を自分であっさり下げる。
それなら最初からもっと慎重に
値段を決めればいいのになぁ‥‥、
と値段をつけた人の誠意を疑ってしまう。

何割引という言葉のうつろなコト。
限定何食というのにもかすかな嘘の香りがします。
高級を名乗る立派なレストランが、
始終、何割引きかのクーポンを出して、
お客様を呼び込もうとする。
その一方で、大衆的なビストロだけど、
決して値引きをすることなく
この何十年もお客様をもてなしている。
どちらにブランド価値が有るかといえば、
絶対それは後者に違いない。
信用するに足りるお店のひとつの指針。
さまざまなリスクを考えて、
長くひとつの値段で商売できるように、
価格設定には命をかけましょう‥‥、
とボクはレストランの人たちに言う。

ただ、抜け道が一つだけある。
コンサルタントとは時に
悪知恵を働かせるコトも仕事のひとつ‥‥、
自虐的に過ぎますけれど(笑)。
さて、その抜け道とは一体なにでありましょう?



2014-05-15-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN