035 超えてはならない一線のこと。その7
フレンドリーの本質とは?

フレンドリー。そういう言葉に象徴されるような、
堅苦しくなく、気軽なムードでサービスをすることが
アメリカならではのサービスで、
日本の外食産業の人たちは、それを目指した。
そして前述のチェーンストアは、
「自分のファーストネームをお客様に伝える」
というコトで果たそうとし、見事に玉砕しました。

日本人にはむつかしいことなのです。
いろんな会社が、いろんな挨拶や仕草、スタイルで
フレンドリーなムードを醸し出そうとしました。
中には「フレンドリー」と、ズバリお店の名前をつけて、
フレンドリーを心がけようとしたのだけれど、
成功したとはいえない店も。
どうしてなんだろう‥‥、と、
日本の外食産業の人たちのアメリカ詣では
ますます続いた時代がありました。



ボクもお付きあいをする機会がありました。
現地でのコーディネーター兼通訳として
外食企業の経営者さんたち20人ほどの
グループツアーに同行したのです。
ロサンゼルスを振り出しに、
ラスベガス、そして
サンフランシスコを回ります。

ラスベガスではエンターテーメントと、
人によっては運試し。
サンフランシスコでは美食を味わい、
ロサンゼルスではフレンドリーなサービスのあり方を
勉強しようというのが、コースの趣旨でした。

ロサンゼルスといえば、アメリカの中でも
もっとも外食ニーズが活発で、
そのニーズに合わせて
多彩なレストランチェーンが生まれて、
切磋琢磨していた街。
しかも、陽気でカジュアルな人付き合いが
当たり前のロサンゼルス。
サービスがいいと評判のお店も数多く、
当時、日本の外食産業の人たちが視察に行くといえば
まずロサンゼルスが一般的な時代でした。

中でもサービスが良いというので有名な店。
なによりウェイトレスがキレイで
スタイル抜群というので話題のお店を訪ねます。
たしかに、ウェイトレスがみんなチャーミング。
サービスもとても自然でキビキビしている。
特に笑顔がキレイなんですね。
すべてのサービスが笑顔からはじまって、笑顔で終わる。
しかも表情豊かで、彼女たちのふるまいを見ているだけで、
シアワセな気持ちになるのです。



どうして、そんなにステキな笑顔のサービスができるの?

訊いてみました。
答えが意外で、一同、あっけにとられます。

「だってみなさんの笑顔がとてもステキだから、
 つられて私たちも笑顔になっちゃうんですもの」
‥‥、って。

そう、参加者の人たちに通訳します。
そんなにオレたちって、笑ってるかい‥‥?
メンバーのひとりが怪訝げにそういって、
それでみんなで互いの表情を観察しあう。
たしかに、みんなウェイトレスが近づいてくると
ニコニコします。
何か言われるとまず笑顔。
そして大きな身振りで答えて、
それにつられて彼女たちも笑顔になる。
理由がうっすらわかります。

英語が堪能ではない人たちばかり。
コミュニケーションの手段といえば、身振り手振り。
それから笑顔。
日本では、おそらく作らないような笑顔を
みんなは会話の手段にしていたのです。
それにつられてサービスをする彼女たちも
いつも以上の笑顔になって、
よい雰囲気をつくりだしていたのでしょうネ。
食事を終えてチップを渡すと、
私たちも実力以上のサービスをさせていただいたような
気持ちになりました、
ミスターグッドスマイルズ、
どうもありがとうございます‥‥、って、
まるで友達みたいになってお店を後にしたのです。

フレンドリー。
堅苦しくなく、気軽なムードでサービスをする。
そう、この章の一番最初に書きました。
ただ本当の意味はそうじゃない。
フレンドリーとは、堅苦しくなく気軽なムードで
サービスすることで、
お客様も堅苦しくなく気軽なムードになってもらうこと。
この後半部分が実は大切。
なのに、自分たちばかりがフレンドリーになろうとした。
それが日本のレストランチェーンが失敗をした原因だった。

さて、いまだにこの「フレンドリー」の意味が
うまく咬み合わなくて
へんてこりんなサービスをしちゃうお店が結構あります。
立場違いを勘違い。
来週につづきます。


2015-11-12-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN