053 超えてはならない一線のこと。その24
大衆料理こそ。

日本の料理がどんどん甘くなっている‥‥、
という話をちょっと前にしました

人の舌は、甘いということを
おいしいと勘違いするクセがある。
そのクセを悪用して、
現在では安価な調味料のひとつの
砂糖に代表される甘味料を使った料理が
増えてきている‥‥、という話でした。

実は甘味料を安易に使うようになるずっと前から、
甘みを好む地方があった。
九州の料理は昔から全体的に甘かったのです。



なにしろ料理の基本になる醤油がそもそも甘かったりする。

甘さの源の砂糖が手軽に手に入る、
歴史的な背景もあったのでしょう。
かつてボクの父が、うなぎの専門店を経営していたとき、
子供にもおいしくたべてもらおうと作ったタレは甘かった。
飲食店を経営するだけでなく、
そのタレを販売することで事業拡大をしようと、
甘いモノが好きな九州に売りにいき、
それでも「これじゃぁ、甘みが足りない」
と断られてビックリしたほど。

ちなみにそのタレを売りに行った先が「ロイヤルホスト」。
洋食レストランでお客様の層が広がらないからと、
うなぎや肉の照り焼きのようなモノを導入したいと
調味料を検討していたときのこと。
結局、しばらくはロイヤルホストらしい
料理で突き進もうと、
日本料理的な料理の導入は先送りになりましたが、
九州風の甘い料理は他の地方でも
徐々に人気を獲得していった。
日本の人たちに「甘い=おいしい」という
味覚のあり方を広めた張本人は
もしかしたらロイヤルホストだったのかもしれないと
業界の人たちは今でも思っていたりする。

ロイヤルホストの本社は福岡。
その福岡でもひときわ「甘いのがおいしい」
と言われているのが「うどん」の出汁。
日本で初めてうどんという料理が生まれた街、福岡。
おそらく中国から伝わったやわらかな麺がお手本で、
だから今でもやわらかいのが特徴として伝えられてる。
けれど、福岡のうどん最大の特徴は
出汁が甘くて旨みが強いというところ。
ときに「これほど甘くなくてもいいのに」と思ってしまう。
つまり「甘すぎ」。
味醂や砂糖をさぞかし沢山使って
甘みを出しているんだろう‥‥、
だって大衆料理だから安く売るには
そういう工夫をしなくちゃいけないに違いない。
そう思って、先日、「牧のうどん」という
福岡のうどんの最大手の会社に行って社長に話を聞いた。
どうして、ココのうどんは
あんなに甘くておいしいんですか?
普通の出汁だと思って食べると、甘すぎるのだけど、
それはどうして? ‥‥、とも聞いてみた。
答えは驚くべきモノでした。



もともと博多のうどんの出汁の甘みは昆布の甘み。
東京の蕎麦のツユが甘みが少なく酸っぱく感じるのは、
鰹節を使った出汁がメインで味を作っているから。
昆布はコストがかかるから、徐々に福岡でも
昆布以外の調味料で甘みをつけるところが
増えてきて入るけど、うちは正真正銘昆布だけ。
甘味料は使わず甘みを出すために、
大量の昆布を使っているんですよ‥‥、と。

たしかに社長に合う前に出汁工場を見せてもらったら、
とんでもない分量の昆布を使って出汁をとってた。
昆布の出汁と鰹節や雑節を使った出汁を
ブレンドすることで、甘みの強い出汁ができているという、
その光景を思い出しつつ
続く話を聞いて再びビックリします。

牧のうどんはおそらく日本で一番
大量の昆布を仕入れて使っている会社。
おそらく日本全国の使用料の
8%くらいは使っているんじゃないでしょうか。
コストはかかるけれど、調味料では出せない
旨みと甘みがあればこそ、
ゴクゴク飲んでも喉が渇かず
飽きない出汁になるんですよと。
そして一言。
大衆料理こそコストをかけないと、
食べ続けていただくことができないんです。
うちのお店の人たちは、
毎日うちのうどんを食べても飽きず、元気に働けている。
それこそ本物の証明じゃないかと思いませんか‥‥、と。

過ぎてなお、おいしく味わい深く感じるオイシサこそが
ほんものなのかもしれないなぁ‥‥、と思ったわけです。
スゴいこと。


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東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
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博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
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グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
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2016-03-31-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN