|
今の世の中。
くちどけのよい食べ物があふれています。
特にスイーツ。
スイーツにくちどけの良さを求める
キッカケになった食べ物って、
一体、何だったんだろう‥‥、
って思い返してみると
おそらくそれは「ティラミス」。
|
|
時は1990年の後半のコト。
ちょうど高級イタリア料理が
ブームになった時期でもあります。
「イタメシブーム」なんて言われました。
それまでイタリア料理といえば、
スパゲティーやピザが代表的な料理で、
けれどそれらはあくまでも
豊かなイタリア料理文化のほんの一部。
例えば、うどんや蕎麦、お好み焼きだけを取り上げて、
それを日本料理と思い込むのはあまりに極端。
他にもさまざまな料理があるから‥‥、と、
コース仕立てでイタリア料理をたのしむコトが
ブームになった。
コースとなれば当然、
食後の甘いものでしめくくられる。
イタリアらしい甘いものを‥‥、と、
さまざまなモノが試されました。
シチリアの有名なお菓子のカンノーリとかババ。
ノッチョーラなんてヘーゼルナッツを使った焼き菓子。
イタリアの地方、地方には
独特なお菓子がたくさんあって、
けれどそれらのほとんどが、飾り気がなく、
しかも容赦なく甘かったりする。
ゴツゴツとした素朴な食感のものも多くて、
結局お菓子はフランス菓子に尽きるよねぇ‥‥、
とイタリア系のものは不人気。
そのときさっそうと登場したのが「ティラミス」でした。
|
|
お皿の上にあって、すでに崩れるようなやわらか。
ナイフなんて必要なくて、
フォークやスプーンですくいあげて食べるお菓子で、
そのなめらかなとろける食感に、日本中が熱狂しました。
イタ飯ブームはそのうち、
ティラミスブームへと変化して、
ティラミスを売らないイタリア料理のお店なんて、
イタリア料理の店じゃない‥‥、って言われる始末。
ついにはフランス料理のレストランや、
ファミレスですらティラミスが売られるようになったほど。
その翌年にはクレームブリュレ。
タピオカ、ナタデココと
クニュクニュ系が続きはするけど、
パンナコッタのくちどけの良いなめらか感が、
スイーツブームの最後を飾るモノだと言われる。
それからしばらく。
1990年台の後半はスイーツ不振の時代と言われ、
当時、お菓子業界が仕掛けたスイーツが
カヌレ、ベルギーワッフル、クイニーアマンと
ガッシリとして顎を使わないといけないお菓子が
不思議と続いた。
ここ数年、流行っているスイーツも
マカロン、チョコレート、パンケーキと
やはりくちどけのよいモノが主流になってる。
|
|
口の中のバブル。
それが「口どけ」。
おそらく「贅沢感」を口が感じる、
そのキッカケが「とろけてなめらか」という
食感に行き着くのかもしれません。
マスカルポーネチーズだったり、
カスタードクリームだったり。
あるいはメレンゲをたっぷり含ませ焼き上げた
ふわふわのパンケーキとかが
口溶けよくてやわらかいのは当然として、
本来、これほどやわらかいはずがなかったものまで
なめらかに、とろけるようになってきている。
例えばパンが代表でしょうか。
くちどけの良さを売り物にしている
量販品を食べるとトロリととろけて
口の中がクリーミーになる。
それもすべて乳化剤ゆえ。
あぁ、自然の食感じゃないんだよなぁ‥‥、
って体や頭が身構える。
|
|
その不自然に、本当にいろんな場所で出会えます。
例えば飲み物。
緑茶系の飲み物を、飲んだ直後にネットリ、
喉の奥に感じるとろみ。
乳化剤です。
だって、お茶の粉はどんなに細かく粉砕しても
水に溶かしただけでは
いつかは必ず分離して沈殿しちゃう。
水に溶けないはずのものを、
溶けたかのようにふるまわせる効果を
乳化剤はもっているから。
ゆすらなくても、砂糖をそこに混ぜなくても
安定している無糖缶コーヒーも乳化剤があればこそ。
油を使っていないはずなのに、
クリーミーなノンオイルドレッシングも
乳化剤の産物だったりするこの不自然。
体をいたわりたいと思って選んだ
やさしい食感の食品こそが、
乳化剤のたっぷりはいったモノだったりする。
かなりなやましい日本の食。
その一方で、「これは過ぎているんじゃないか」
と訝しさすら覚える料理が、
実は昔ながらの正直の塊だったりすることがある。
来週そういう、日本が誇れる食の話をいたしましょう。
|
|
2016-03-24-THU |