おいしい店とのつきあい方。

050  食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その15
これから10年、ニッポンの外食は変わる?

海外ではキャッシュレス化が
おどろくほどの勢いで進んでいると言われます。
そのきっかけはスマートフォンで
モバイル決済が簡単にできるようになったから、
といわれています。
じっさいアメリカで50%ほど、中国では60%が
すでにキャッシュレスで決済されているんだという。
スウェーデンに至ってはほぼ現金が消えちゃったって
報道があったほどで、
それに比べて日本はすごく遅れてるんだ‥‥、
と言われもします。


そもそもアメリカでは、
昔からクレジットカードで決済するのが一般的でした。
現金で支払おうとすると面倒臭がられたり、
高額紙幣が本物かどうかライトにかざして
透かしを確かめたりと時間がかかったりした。

ずいぶん前のこと、
飲食店の人たちとアメリカ研修旅行をして、
とあるシーフードレストランで
ダンジネスクラブやロブスターを
みんなでむしゃむしゃ食べたことがありました。

お勘定は割り勘、
ひとり200ドルほどで、
日本だったらその倍を出しても
これだけのものは食べられないよね‥‥、
ってみんな大喜び。
ところでグループは30人ほど。
割り勘ですからみんな現金です。
中にはトラベラーズチェックの人もいて、
総額5000ドル以上の現金が集まったのです。

レジの担当は大騒ぎ。
まず、お釣りにあてる現金が足りなくなった。
高単価のレストランでは現金決済の人が少なく、
レジの中に釣り銭なんてほとんど置かないのが当たり前。
それでもお釣りはボクらが
互いに融通しあってなんとかしました。

けれどお店の人は困り顔です。
5000ドルもの現金を
レジの中に置くなんて不用心でしょうがない‥‥、と。

治安の悪かった当時のアメリカでのことです。
それがキャッシュレス化をすすめた理由の
ひとつでもあったんでしょう。
それにキャッシュレス決済された売上は
自動的に計上されて、管理も簡単。
飲食店の仕事の中で、レジのお金を数え、
売上実績と照らし合わせて
過不足がないか確かめる手間は非常に大きいのでした。

そんな事情もあって、アメリカでは昔から
キャッシュレス決済に伴うコストを
十分、吸収できるような売価を設定することが
当たり前になっていたのです。
アメリカだけじゃないですネ。
ヨーロッパに行っても、
オーストラリアやアジアに行っても
ちょっとしたレストランに行くと、
「高いなぁ」ってたいてい思いましたから。

テーブルサービスを受けることができるレストランで
食事をすることは
ほとんどの国で、非日常的なたのしみです。
だから単価が高くて当然。
そういう店はほとんどが中小規模の会社がやっているか、
オーナーシェフがやっている店です。

もちろん、気軽な値段の店もあります。
日本のファミレスみたいな店や
ファストフードの店がそういうお店で、
それはほとんどがチェーン店。
大企業ですからキャッシュレス決済で発生する
手数料自体が低く、売上高も多いから
企業全体として考えるなら気にならない。
使う人には当然便利。
お店の人にも便利な上に、
それが経営を圧迫することもない。
だからキャッシュレスに向かって当然‥‥、
というのが世界的な流れなのです。

その点、日本の外食産業はかなり独特。
アメリカならば大企業が経営しているであろう
日常的で気軽な価格の飲食店を、
個人が経営、営業している。
家族営業だからたくさん儲ける必要がなかった‥‥、
であるとか、ただただ日本人のお客様思いの気質と
工夫上手な資質が安く売ることを可能にしたんだ‥‥、
とか、日本独特な事情があって、
上等なレストラン並のフルサービスを
安価にたのしむことが日本では当たり前になった。
日本という国は、
外食が日常生活の中に自然に寄り添う外食天国なのでした。

お店は当然増えていきます。
店が増えるとお店同士の競争が激しくなって、
それは値段を一層下げる努力につながる。
価格が下がれば外食はもっと日常的なモノになり
お店を増やす──の連鎖反応。
一人あたりの飲食店の数を
日本とアメリカで比べると、
日本は3倍!
ほとんどのお店が値上げを必死に我慢して、
利益をお客様に還元することでなんとか営業を続けてる。

日本のお客様はシアワセです。
そのシアワセのおすそ分けをと
世界中から日本にごちそうを食べに来る人たちが
みんなこう言う。

「日本の料理はおいしい上に
おどろくほどに安いよネ‥‥」と。

でもそんなシアワセも10年経ったらなくなっちゃうかも。
日本の外食産業は今、大きな変化の真っ只中にある。
個人営業の店が続かなくなり、
大企業のお店に次々置き換わっていく‥‥、という変化。
その変化のきっかけのひとつが、
「ポイントがたまるといいなぁ」
と思ってなにげなく差し出した
クレジットカードが作ってしまうかもしれないと、
ボクはこのごろ、思っているのでした。
だからボクは個人営業のお店で食事をするとき
「でかけるときに忘れずに」はカードではなく現金であり、
「プライスレス」な経験を
持続的に味わおうと思えば現金決済を、
と考えるようになりました。

来週は、スマートな現金決済の仕方を考えてみましょうか。

2018-10-18-THU