撮影:朝日新聞出版・東川哲也
糸井
自分がちゃんと使える言葉でしゃべるっていうのは、
30代になってから身につけたのかな。
40の前の段階では、もう、そうなってたでしょ。
宮沢
うーん、30歳ぐらいからなんですかね‥‥。
糸井
芝居をやりはじめてからかな?
宮沢
どうでしょう?
糸井
舞台のスタートって?
宮沢
のめりこんだのは、30のときです。
糸井
やっぱりそこは関係があるのかもね。
宮沢
それまでにもちょこっと舞台には出てたんですが、
本当にものを作り上げていく演劇というものに
携わったそれは、
『透明人間の蒸気(ゆげ)』という演目でした。
※『透明人間の蒸気(ゆげ)』2004年・新国立劇場
作・演出:野田秀樹
糸井
野田さんのお芝居ですね。
宮沢
ええ。
阿部サダヲさんとか、
すばらしい役者さんたちとご一緒したときに、
自分のできなさ加減に驚きました。
みんなは、
「今日はこうやってみよう」
「次はこうやってみよう」
と、いろんな引き出しで‥‥。
表現力の、「力(りょく)」が違うんですよ。
糸井
はい。
宮沢
がく然として、落ち込みました。
それで、
あんまりわたし、
人生の計画性もなく生きてきたんですけど、
初めて目標を持ったんです。
「40になったとき、
ちゃんと舞台に立っていられる人になろう」と。
糸井
‥‥そうかぁ。
それは‥‥よかったねぇ。
宮沢
「舞台の仕事がきたらぜんぶ受けよう。
映像はちょっと休憩」
そう言って、去年40歳になったときに、
まあまあ、
そうですね、まあまあ、立ってはいられるね、
って思えるようになりました。
糸井
40になったとき舞台にちゃんと立っているために
何をすればいいんだろうって、
誰も教えてくれないじゃないですか。
それ、どうやって覚えたんですか。
宮沢
とにかく経験ですね。
わたし、声の出し方も
先生に習ったことはないんですよ。
最初のころは出し方がわからなくて、
声を枯らしたりしながら、
「これだったらいけるのかな」
「こういうこと?」
「違う。じゃあこういうこと?」
とやって、ちょっとずつわかってきて、
いまは、けっこう量が多いセリフでも
大丈夫になりました。
糸井
発声が、底響きするようになってるよね。
宮沢
「これだけ実践だけでやってきてる人いない」
って、このまえ共演の段田安則さんに
言っていただきました。
すばらしい舞台人のかたに、
そんなふうに言っていただけて‥‥。
糸井
実践のチャンスがちゃんとくるということも、
やっぱりすごいですよ。
宮沢
はい。それはもう、すごいです。
出会いの神様に感謝したい。
糸井
りえちゃんは、
「自分はできてない」と思っているけど、
いっしょにやってほしい人がいるということは、
60点だと思っている自分の評価が
人からはもっと魅力的に見えたんじゃない?
100点じゃなくたって、
魅力的なことってあるから。
宮沢
うーーん‥‥そうですかねー。
糸井
あ、褒めたら、また疑われちゃった(笑)。
宮沢
‥‥チャンスがあることには、感謝しています。
でも、毎回オーディションだから。
糸井
え? あ、そうなの?
宮沢
もう、毎っ回、オーディションですよ。
糸井
おおーー。そっかぁ。
宮沢
今回の芝居もそうだし。
ずーっとそうなんです。
「わたし、一生オーディションするんだな」
って思ったのが、30代の中旬くらい。
糸井
覚悟したわけだ。
宮沢
そうですね。
だって約束なんて何ひとつないわけだから。
糸井
要するにフリーランスなんだね。
宮沢
フリーなんですよ。
毎回オーディション。
糸井
それも、みんなは知らないと思うよ。
「宮沢りえだから」って、
どんどん呼ばれてると思っているかもしれない。
宮沢
とんでもないですよ。
糸井
とんでもない。そんなんじゃない。
宮沢
毎回の、努力のみですよ。
10年後に、ぜったいこの仕事があります、
というのはないわけで。
今やってることを
できる限りの努力で表現しないと次がなくなる
っていう恐怖は、ずーっとありますから。
糸井
‥‥あのさ、
もっとせつないことを言ってあげようか。
宮沢
はい。
糸井
クリント・イーストウッドは、
今でもプレゼンテーションしているんですよ。
宮沢
ああーー。
糸井
「こういう映画の企画があって、
こういうキャストで、
こういうスタッフを集められ、
お金はこれくらいあります」
で、映画にしてOKかどうかっていうのは‥‥
オーディションなんですよ。
プレゼンテーションを通さなきゃならない。
あの年で、あの存在が、ですよ?
宮沢
すごいことですね‥‥。
あんなに経験を積んでも‥‥。
でも、それでも経験を重ねるしかない。
糸井
うん。
宮沢
やっぱり経験にかなうものはないじゃないですか。
1000個つくった人と
10個しかつくっていない人とは、
いろんなことがちがうと思います。
糸井
打席に立てるよろこびというのは、すごいよね。
宮沢
はい。
何度立っても、答えが出ないし。
糸井
ぼくの年になると、打席を作れる人になりたい。
若い人であろうがベテランであろうが、
打席がなくて力が出せるはずがないので。
それは自分の仕事だと思うから、
打席を作れない自分というのは、
「おれはサボっている」と思うんです。
(つづきます)
2014-11-10-MON
©2014「紙の月」製作委員会
宮沢りえさん主演映画のおしらせ
「紙の月」
直木賞作家・角田光代さんのベストセラー小説、
『紙の月』を宮沢りえさん主演で映画化。
11月15日(土)より全国ロードショーされます。