ロック・ジャパニーズ
の作り方。


#1 ライブ制作って、どうなってるの?



↑宣伝を観たかたもいらっしゃるかもしれません。
 9月2日にこんなライブが行われるんです!豪華!!


奥田民生、ギターウルフ、THE COLLECTORS、
Sads、少年ナイフ、ズボンズ、
THE NEATBEATS、THE HIGH-LOWS・・・。


 こんなハイレベルかつワガママそうなバンドたちが、
 「一同に会して何かをしよう」と決めた事実だけでも、
 音楽業界では、話題のマトなわけでして・・・。

 このたび「ほぼ日刊イトイ新聞」は、
 本ライブの「名儀主催」を
 させていただくことになりました。

 つまり、ライブ関係者のかたがたの
 ご厚意で、さまざまな取材を、
 オフィシャルにさせていただけるのです。

 本番に向けて、ほかでは読めない特集を、
 じわりじわりとさせていただきますので、
 みなさま、どうかこのコーナーの今後を、
 楽しみにしていてくださいね。



[● ライブの作られかたを特集したい]

「コレは、伝説のライブだ!」
奇跡のような一夜だった・・・」
そのように言われるコンサートって、
節目節目に必ず存在していますよね。

ただ、雑誌媒体などのライブ特集においては、
おもに「アーティスト本人や評論家たちだけ」が、
そのナマのすごさを語ってきているような気がします。

もちろん、その方たちが
すごさを語ることには意味がありますし、
そういう特集もおもしろいとは思うのです。

しかし、そういった、
「従来から、意見を聞かれつづけている人たち」
ではないんだけれども、
ライブのスゴさやおもしろさを、
正確に語ることのできる人がいると思いませんか?

「マネージャー・ディレクターや
 コンサートの舞台監督といった
 制作者にあたる人たちが、そうなんじゃないか」


このたび「ほぼ日」は、そう考えたのでした。

ライブを好きな人なら、
一度や二度はコンサート会場の
「関係者以外立入禁止ゾーン」の向こう側に、
誇りを持った顔で立っている制作者さんたちを、
うらやましく思ったことがあるかもしれません。

情熱や感動をライブに託したり、
いかに弾けたステージにできるかを演出しながらも、
同時に、ビジネス面のシビアな戦略も
きちんと考えつづけて、当日を迎える人たち。

アーティストが充分に暴れることのできる土俵を、
彼らは、どうやって作り出しているのでしょうか。

スゴいメンバーが集まりすぎている
今回のイベントだからこそ、
この「異種格闘技戦」のようなコンサートが
どうやってできていくのかを、
「ほぼ日」は見つめたいと思っているんです。

つまり、
「収容人数」
「ミュージシャンの名前」
「チケット売り切れまでの時間」
といった断片的な事実だけでしか
語られにくかったライブというものを、
「ライブプロデュースって、何だろう?」
という視点で、眺めようと考えています。


(奥田民生)

音楽好きな人にはもちろんのこと、
イベントプロデュースというものに
興味を抱いてくださったかたにも、
刺激たっぷりなコーナーになる予定です。

初回である今回は、
ライブがおこなわれるきっかけを作った
矢沢永吉トリビュートCD『JOY RIDE』(東芝EMI)
のディレクションを担当したかたがたに、
お話を伺いました。

話を聞かせていただいたのは、
矢沢永吉さんのマネージャーのTさん、
東芝EMIのIさん、Mさん、Fさんです。



[● ヤザワさんの存在感は?]

----CDやライブの制作者側にスポットをあてて
  インタビューをさせていただいているんですが、
  もともと、CDを作ったかたがたは、
  ヤザワさんというアーティストに対して、
  どういうスタンスをとっているのかを、
  教えていただけますか。


I(東芝EMI)
「ぼくは3年前くらいからのおつきあいです。
 ディレクターとしてヤザワさんを担当することに
 なってからですね。
 音楽もすごいと思いますが、
 ぼくの場合はまずそれよりも先に、
 人としてヤザワさんを好きになりました。
 人として好きになったうえで、
 ヤザワさんの音楽をどういう風に伝えようかな、
 みたいなところで関わりを持ちはじめたんですけど」


M(EMI)
「ぼくはもともと、会社に入るまでは
 邦楽をほとんど聴いていなかったので、
 ヤザワさんの代表的な曲を聴いたことがある程度で、
 それほどディープには知っていなかったのですが、
 実際にお会いして話してみると、
 あんなに背が高いし、魅力的だし。
 テレビとかウワサで聞くよりもずっと
 ヤザワさんにはオーラを感じますね。
 『理屈抜き』って言うか、
 ナイアガラの滝を
 見た時にすごいと思う
と言うか、
 『ヤザワさん』というジャンルになっているのを
 感じられるので、それがすごいと感じまして」


F(EMI)
「あのう、プロモーションで
 ヤザワさんとお会いして話すんですけど、
 LAから日本に来ている時のホテルの一室とかで
 『今年一年の打ちあわせ』をするじゃないですか。
 だけど、プロモーションの話しあいなのに、
 いかんせん、あんなオーラを発している人は
 ぼくにとってはじめてなので、
 打ちあわせ中に、言葉が出ないんですよ。

 ヤザワさんにはこうなってもらえると嬉しいとか、
 ぼくなりにいろいろ考えていることはあるのに。

 言いたいことを言えなくさせてしまうほどの何かが
 わたしを一切しゃべらせなくさせてしまう
ので、
 今後プロモーションをどうしていこうかなあ、
 と悩んでいるんですけど(笑)」


I(EMI)
「(笑)しゃべれないんかい!


----・・・プロモーション担当なのに(笑)。
 
I(EMI)
「こいつ、ふだんは誰に会っても
 ぜんぜん緊張しないヤツなんですけどね」


F(EMI)
「いやあ、ヤザワさんには、
 そりゃ、それくらいの雰囲気がありますよ。
 『この人に生半可なことを言ったら、大変だ』
 みたいな・・・」


----あのう、そもそもCDのディレクターって、
  どういうことをするのですか?


T(EMI)
「ミュージシャンにレコーディングを呼びかけたり、
 あるいはアレンジまで手がけたりしますよね。
 あとはだいたい、全体の
 コントロールタワー的な役割が多いです。
 販売をとりまとめたり」


I(EMI)
「アーティストによっても
 関わりかたはぜんぜん違ってきますけど、
 今回ぼくはもっぱら、企画づくりに
 専念させてもらったところがあります。
 宣伝に関してはMがどこで何をどう広げて、
 というのをやって、お店関係は
 営業のスタッフにお願いして、
 という三人のチームでやってました」


----企画は、どう考えましたか。

I(EMI)
「ヤザワさんの存在って、
 日本の音楽業界のなかでもすごく大きくて、
 しかも独特なポジションにいるじゃないですか。
 『ヤザワさんのライブは、一度は観たほうがいいよ』
 みたいなことを、
 必ずしも音楽的には後継者ではないような、
 いろいろな種類のミュージシャンたちが
 さかんに言っている
んです。

 『それは何だろうなあ?』と考えたのが、
 今回のトリビュートアルバムの作りはじめでした。
 
 ヤザワさんの何がそうやって
 語り継がれているのかというと・・・。


(ギターウルフ)

 曲の進行や音楽性がいいというのもあるけど、
 たぶん、もっとこう、スピリチュアルなところが
 尊敬されている
んじゃないかと思ったんです。

 ヤザワさんの生きてきた流れだとか経緯を
 すべて含めて、みんなはそこに
 ロックを感じているんじゃないかなあ、と。
 だからそうなると、ロックというのが、
 8ビートというジャンルのものではないかもしれない。
 ヤザワさんがやりさえすれば、
 16ビートでも、そりゃ間違いなくロックだろうと」



[● アーティストたちに伝えたこと]

I(EMI)
「トリビュートアルバム企画者としては、
 どうやって『ロック』の精神性みたいなものを、
 いろんなアーティストに体現してもらおうかと。
 アルバム全体を通して聞いた時に、
 『こういういろいろなロックっていうのも、
  ありなんじゃないかなあ』と提示できていたら、
 それがいちばんやりたいことだな、と考えてました。
 そう考えながら、どのアーティストに
 やってもらうかを練っていて」


----アーティストのチョイスは、
  Iさんがやったんですか。


I(EMI)
「だいたい、そうですね。
 でもたぶん、ふつうにこのアルバムを聞くと、
 『人選、脈絡ねえなぁ!』
 って感じると思うんですよ。
 『奥田民生、ギターウルフ、
  sads、少年ナイフ、ハイロウズまで・・・。
  他にも、ぜんぜん知らねえヤツまで
  混ざってるじゃねえか!』
って。

 音楽性みたいなものも、
 ぼくは意図して広く選んだつもりです。
 ただ、共通するものとしては
 ロックとして、何かひとつ持っている人ばかりで。

 有名な人ももちろん入ってくれていますけど、
 アマチュアでやっているかただとか、
 活動の拠点そのものが外国にある人たちだとか、

 そういう知名度以外でも評価されるべきな人にも、
 ぜひやってもらいたかったし。

 レコード会社や事務所のなわばりを超えて
 いろんなアーティストにやってもらいたかったので、
 それぞれのアーティストの電話番号を調べて、
 オファーをすることにしました。
 電話でお願いをすると、みなさん驚かれましたけど、
 意外とすんなり話が進むっていうか。
 それは、たぶん、ヤザワさんの存在感が
 評価されているからだと思うんですけど」


----オファーする時、アーティストには
  この企画について、どう説明しましたか。


I(EMI)
「ヤザワさんをトリビュートすると言っても、
 さっき話したように、これは精神的なものを
 トリビュートすることにつながることなんです。

 だから、
 『ロックンロールをトリビュートすることに
  つながるようにやってください。
  あなたにやって欲しいことは、
  ヤザワさんの曲をカバーすることじゃなくて、
  ヤザワさんの楽曲を使って、
  自分でやろうとしているロックを
  体現してもらう、
ということなんです』
 そんな提案をしました。

 カバーしてもらってヤザワさんを
 持ちあげて欲しいわけじゃ、ないんです。
 ヤザワさんは、持ちあげてもらわなくても
 ぜんぜんいいかたですから。
   
 今回、ぼくは、
 ロックンロールがないと
 生きていけないようなアーティストたちを
 選んだつもりなんですけど、
 そのロックンロールは
 ヤザワさんが切りひらいてきたもので、
 というあたりを頭に置いていました。

 だから、ヤザワさんの楽曲をやるという
 たったひとつのしばりだけをつけて、
 あとはそれぞれのいいと思える方向で
 その人らしい曲を披露
してもらえば、
 それがいちばんトリビュートアルバムとして
 かっこいい、と思ったんです」



(明日に、つづきます)

2001-07-25-WED



YAZAWA
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