ロック・ジャパニーズ
の作り方。


矢沢永吉トリビュートコンサートが
できるまで。


ロックコンサートって、どんなふうに出来ていくのか?
あの熱狂の楽屋裏にいる人々の、
もうひとつの熱情と、緻密な演出が、ここに明らかに。

特に、今回はレコード会社も、音楽性もまったくちがう
並みじゃないウルサさを持ったバンドばかりの集合。
実現までの道のりは、当日までスリルがいっぱいだぞ。

イベント関係や、ショウビズに興味のある読者にも、
きっちり読みごたえを感じてもらえるような、
期間限定連載になりますよー。
ライブ終了後ですが、しばらくつづきます。


矢沢永吉さんの公式ページはこちら。
各アーティストのコメントも見られる、「ほぼ日」内の
「ロック・ジャパニーズ」プレスリリースはこちら!です。

#1 ライブ制作って、どうなってるの?

#2 他人のクルマを乗りまわせ。

#3 ヤザワの看板。

#4 前よりもいいステージを見せられる?

#5 成長するコンサートと、大いなるマンネリ。

#6 スタッフ末端まで気持ちを行き渡らせる。

#7 ザ・コレクターズ。

#8 ズボンズ。

#9 ギターウルフ。

#10 奥田民生。

#11 Sads。

#12 少年ナイフとハイロウズ。

#13 マネージャーという仕事(その1)。

#14 マネージャーという仕事(その2)。

#15 マネージャーという仕事(その3)。


※ひきつづき、ギターウルフのマネージャーの、
 通称「はっちゃく」さんに、話を伺っています。




----ギターウルフみたいに、
  何をやるかわからない、みたいなバンドを
  マネジメントするというのは、
  どういうことなのかを、伺いたいと思います。

はっちゃく
「そうですね。
 ほんとに、日々、決まりがないし、
 予定調和にならないところの
 ギリギリで何かをしてるバンドですから、
 日々、どんどんわかんなくなるって言いますか。
 
 ギターウルフのやることは、
 音楽業界のスタンダードから、
 かなりはずれていて衝撃を与えてるので、
 えーっと、もう、ジャッジが
 わかんなくなってきてるんですよ。
 だから、事務所として、メーカーの人と
 相談することっていうと、
 『コレ、ありかなあ?なしかなあ?』って、
 ギリギリの判断だけになってきてますね。
 
 ヤザワさんの『アイ・ラヴ・ユー、OK』を
 いきなりひとりで弾き語りした時も、
 『これで、イイのか?』って。
 『すごくイイんだけど・・・出していいの?』」
 
----(笑)

はっちゃく
「で、いろいろ、メーカーの人たちに
 聴いてもらったりしながら、考えるんです。
 そのかたたちからの、
 『ヤザワさんへの愛が、たっぷり入ってるよ!』
 『いい!いい!』
 みたいな感想を聞きながら、
 できあがって何度も何度も、
 1日30回位聴いてると、もう、そのうち、
 『これしかないでしょう!』って。
 最終的には、自信満々に
 『これでお願いします!』って出して。

 シングルカットしたいなあ、なんてメーカーの
 担当者が言い出したりして、
 実際にシングルカットになりましたけど、
  ほんと、最初にセイジさんが歌ってた時の
 『大丈夫なのか?』みたいな
 雰囲気からは、想像もつかないですよ」

----ヤザワさんのトリビュートライブでも、
  ギターウルフは、異色の存在ですよね?

はっちゃく
「9月2日のライブでも、
 ギターウルフだけ、
 アイ・ラヴ・ユー、OK一曲なんですよ。
 あえて自分の曲は、やらない。
 『気合い入れてこの1曲に全てを賭ける』
 ってね。

 しかも、セイジさんひとりが出てきて、
 マーシャルの3段積みのアンプを4台、
 Vの字に並べて爆音で演奏っていう」
 
----あははは(笑)。
  ギターウルフは、国内のみならず、
  欧米でもライブを多くされていることで
  かなり知られ評価されているバンドですが、
  年間で言うと、だいたいどのくらいの数の
  ライブをされているんですか?

はっちゃく
「今年はレコーディングが入っているので、
 去年ほどではないですが、やはりライブは多いです。
 去年に関しては、150回とか160回とか。
 だいたい、ふつかにいっぺんぐらいは
 ライブだったような印象があります」
 
----多い!

はっちゃく
「ウルフは、アメリカとかヨーロッパまで
 リリースしているので、ツアーのオファーが、
 直接、メンバーの家に、かかってきます。
 で『日程決めたから後はヨロシク』ってセイジさんから
 電話があって、現地のコーディネーターと連絡取り合い
 ながら色々と決めていくわけですけど。
 
 ぼくがツアーの同伴をするのは、
 例えばアメリカの中なら、
 ウルフのともだちのいないところになります。
 西海岸とかのともだちのいるところは、楽しいから
 来なくっていいって。
 
 ただ、南部だとか東海岸とかちょっと寂しい所
 になってくるとそろそろ来てよ、ってことで、
 ぼくは焼酎とかカップラーメンとか
 ヤンマガとか、メンバーの欲しがるものを
 持っていって、ツアーに同行しています。
 まあ、盛り上げ係りですね。
 でもぼくが一番盛り上がってたりしますね。

 ちなみに、ぼく、実は、ウルフのライブに
 同行する時が、ほとんど初の海外旅行で、
 『はじめてのおつかい』みたいでしたよ」

----その時の話を、聞かせてもらえますか?

はっちゃく
「「いやあ・・・税関で
 おっきなダンボールを指して
 『これ何だ!』
 ちょっとテンパリぎみに
 『うーん。ギフトギフト』とか。
 到着した最初からいっぱいいっぱいで。

 メーカーの人と一緒に行ったんですけど、
 まずはじめに、クルマ借りてコンビニで
 地図買ってライブハウスの住所を見たら、
 広げるとすっごい細かい地図で・・・。
 『ヤングストリート』ってところに行くのに、
 『ヤングストリート』ってところに行くのに、
 『ヤングストリート』が、
 ばらけて、3つぐらいあるんですよ!
 でも、まあここだぜ、と。
 2000番地のあるヤングストリートは、
 ここしかねえから、行きましょうと行って。

 ライブ会場に着いたみたいなんですけど、
 ギターウルフのギの字もないんですよ。
 『あのう、ここでやってるハズなんですけど』
 『(お店の人)やってないやってない』
 『ほんとですか、ギターウルフですけど』
 『やってない、ここじゃない』
 『じゃあ、ちょっと、中見せてもらえませんか?』
 『・・・やってねえっつってんだろ!』
 すげえデカイ人に、キレられて。
 
 で、じゃあ、なんかロックンロールバンドが
 ライブやるようなところって、メンフィスでは
 どこなんですか?みたいなことを聞きまして。
 『あー。そりゃこのへんだよ』
 って、優しく教えてくれるんだけど、
 あのう・・・相当ざっくり示してて。
 ぐるっと、ボールペンでまるかいてるんだけど、
 示してる範囲が、そうとう広い(笑)。
 
 メンフィス、真っ暗なんですよ。
 暗ーい路地でドレッドの人たちが
 スケボーしてたりするところを通って、
 これ、いやがおうにも、不安感が増すんです」
 
----(笑)心細かったでしょうねえ。

はっちゃく
「クルマで走ってて、
 あ、ちょっと栄えてきたから大丈夫、とか。
 ・・・それ、意味も根拠もないんですよ」
 
----あははは。

はっちゃく
「『ウルフの演奏は、遠くまできこえるよ』とか。
 一緒に来てくださっている人に
 不安を与えちゃいけないから、ぼくはもう、
 ものすごい笑顔で『大丈夫、大丈夫!』って。
 これがまた、ツライんですよ。
 笑顔の陰の胸のなかには、
 ものすごい不安を一杯飼ってんの」

----(笑)

はっちゃく
「そしたら、ツアーバンが見えたんですよ。
 シボレーで、星条旗カラーの、
 前半分が星で、うしろ半分がストライプ、
 みたいな、ふざけたクルマが
 ウルフのツアーバンなんですけど。
 それ見つかった時も、ぼく、隣の人に、
 『ほらあ、あったでしょう?大丈夫でしょ?』
 ・・・心では、うれし泣きですよ。
 うわあ、あったあ!って」
 
----(笑)よかった!

はっちゃく
「海外のライブ期間中は
 毎日ライブをしていたりするので、
 かなり過密になりますね。
 ライブを演って、モーテルに入って即寝して、
 朝起きたら次の場所に移動して・・・って。
 ただ、ギターウルフは、
 日本人だろうが外国人だろうが、
 関係なしに、日本語一本で通して
 アメリカ人をものすごく湧かしていますから、
 すごいですよね」
 
----(笑)すごい気合いだ。

はっちゃく
「もともと、気合いと言いますか、
 ギターウルフが影響を受けているバンドは、
 テクニックなんかはほとんど関係ないですね。
 初期衝動で突き進んでいるようなバンドが
 ギターウルフは大好きなので・・・。

 たとえば、イギーポップが初期にいた
 ストゥージーズだとか。 MC5とか
 ウルフは、その初期衝動を
 体現しようとしていて。
 実際やっていて、そんなバンドは
 もう世界中さがしてもウルフしかいない。
 日本語とか言語を超えて、衝撃があって
 アメリカ人も盛り上がっちゃうでしょうね。
 
 初期衝動とか、気合いとか、自分の側に
 何かをぎゅっとひきこむしかない。
 セイジさんは、そうやってきてて。
 今回のヤザワさんのトリビュートアルバムには、
 そんな姿勢が、特に出ていると思っています」

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このインタビューでの予告どおり、
ロック・ジャパニーズ・ライブ当日、
ギターウルフのセイジさんは
『アイ・ラヴ・ユー、OK』を弾き語りしました。

ステージ上にひとりで現れた姿は、
「・・・何か、あったのか?」
と思わせるほどの、ものすごい緊張感!
お客さん全員が、息を飲んで見つめていたよ!

ライブの最後、ヤザワさんがセイジさんを
ステージの中央に呼び、肩を組んだのは、
1曲にしぼりこんで歌いあげたその意気が、
伝わったからかもしれません。

テンション高めのセイジさんが、
ラストにヤザワさんの横で
「今日は、最高でした!」
と言った言葉は、かっこよかったなぁ。

※ちなみに、セイジさんが歌う前、
 ステージには、アンプの調子を整える
 「はっちゃく」さんの姿がありました。



(おわり)

このコーナーへの激励や感想などは
メールの表題に「ロック」と書いて

postman@1101.comに送ろう。

2001-09-10-MON

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