
- ーー
- 大流行が続いている風疹について、
産婦人科医である荻田先生から、
妊婦さんや、その家族が気をつけたいことを
教えていただけたらと思います。
- 荻田
- どうも、よろしくお願いします。
- ーー
- 荻田先生がモデルになっている
漫画『コウノドリ』の中でも
先天性風疹症候群について
取り上げたエピソードがあって、
「風疹は悔しい。阻止できたはずの障害」
というふうに表現されていました。
まずはじめに、風疹ウイルスに感染すると
どのような症状があるのでしょうか。
- 荻田
- まず、みなさん大人が風疹にかかった場合、
重症化すると、後遺症が残りうる高熱が出ます。
発熱をしてどこに症状が出るかというと、
脳がやられたり、神経がやられて血小板が減ったり、
希ですが後遺症が残るという報告があります。
ただ、怖いことに「不顕性感染」といって
症状が出ないことが多いんですよ。
つまり、風疹にかかっていないつもりでも、
知らない間に他人に感染させている
可能性があるということです。
- ーー
- いつの間にか、風疹になっていることがある。
妊婦さんが感染した場合は、
どのような影響がありますか。
- 荻田
- 妊婦さんが風疹にかかった場合は、
特に免疫能が下がっているので、
ICUに入らなアカンぐらいの
症状になる場合もあります。
そして風疹ウイルスの一番の特徴が、
インフルエンザなどのウイルスと違って、
胎盤を通って赤ちゃんに届いてしまうこと。
- ーー
- 風疹ウイルスは胎盤を通る。
- 荻田
- インフルエンザだとか、
ノロやロタといったウイルスは
胎盤の手前で引っかかるんで、
体内に入っても胎盤を通らないんですよ。
フィルターのようなものがついていると
想像していただけたらわかりやすいと思います。
ところが風疹のウイルスは特殊な機能を持っていて、
ポッと胎盤を通り抜けちゃうんです。
この「胎盤を通って」というのが、
風疹ウイルスの一番の特徴なんですよね。

- ーー
- 胎盤を通り抜けるウイルスって、
珍しいものなんですね。
- 荻田
- 他にも肝炎のウイルスなんかは、
お母さんの血液を通して
胎盤をすり抜けると言われていますね。
お母さんと赤ちゃんの血というのは、
量が多くないとはいえ、
混じりあうことがありますから。
- ーー
- お腹に赤ちゃんがいる状態で
ウイルスに感染するとどうなるのでしょうか。
- 荻田
- 風疹ウイルスが妊婦さんの体内に入ると、
胎盤を通って赤ちゃんに向かっていきます。
で、ウイルスっていうのは
何かに取りついて子孫を残していくので、
赤ちゃんの体の中でバーッと増えてしまいます。
妊婦さんの風疹ウイルスが胎児にも感染して、
「先天性風疹症候群」をもたらします。
- ーー
- 先天性風疹症候群は、
どのような症状が出るのでしょうか。
- 荻田
- 生まれてくる赤ちゃんに出る症状は、
ウイルスが増える場所次第なんですよね。
メカニズムはまだ詳しくわかっていませんが、
ウイルスの好む場所があって、
特に多いのは目、網膜の部分を好むようです。
ウイルスが目で増えたら白内障や緑内障、
網膜症になって目が見えなくなります。
聴神経で増えると難聴になって、
耳が聞こえなくなることもあります。
脳の比較的重要なところでウイルスが増えると
精神の発育遅滞が起こるし、
心臓でウイルスが増えて先天性心疾患になったり。
- ーー
- 赤ちゃんへの影響が大きいですね。
2018年の秋から風疹が大流行していると
ニュースをよく見るのですが、
どんな経路で感染するのでしょうか。
- 荻田
- 東京を中心に全国で流行していますよね。
風疹の感染ルートは飛沫感染です。
風疹患者が咳をして、
体液が飛び散る2mよりも外にいれば
大丈夫とは言われているんですけど、
風疹の場合、感染のしやすさが強烈なんです。
「基本再生産数」という感染しやすさの数値が、
インフルエンザの数倍といわれています。

- ーー
- 2018年は風疹が大流行しましたが、
予防接種で防げるものなんですよね?
2012年や2013年にも大流行があったのに、
何年かおきに大流行が起きてしまうのは
なぜなのでしょうか。
- 荻田
- 正直、ちょっと難しい話なんですよ。
ここまで風疹を流行させてしまったのは、
日本のワクチン行政の失敗としか
言いようがないと思います。
2013年に起きた大流行で
ほぼアウトブレイクといわれていた時代に、
我々学術団体は「ええ加減にせなあかんぞ」
という話になって声を上げたこともありました。
国が立てた目標で
「2020年までに日本から風疹を撲滅する」
なんて言ってますけど、
おそらく達成できそうにありません。
日本のワクチン行政の失敗で、
接種をしていない年齢層があるんですよ。
これはもう明らかな失敗ですよね。
- ーー
- ぼく自身も、家族が妊娠していなかったら
風疹について関心がなかったと思うんです。
じぶんが何歳で打ったとか、
予防接種を2回打つべきだとか、
恥ずかしながら知りませんでした。
大人になってから、インフルエンザ以外で
予防接種を打つ機会があるとも思っていなくて。
- 荻田
- 普通はそういうものなんですよ。
「えっ、どうだったかな?」が、じつは正しい。
「いやあ、受けた‥‥かな?」と言いながら、
それでも抗体はできているのが
公衆衛生の正しいあり方なんですよ。
ただ、風疹に関してはうまい具合に働かなかった。
これが致死性のウイルスだったら、
すでにバイオハザード(生物災害)です。
それぐらい、爆発的に拡がっているんですよ。
風疹が日本で大流行した2013年には、
アメリカのCDC(疾病対策予防センター)から、
「妊婦さんは日本へ渡航するな」っていう
注意情報の通達を出していたくらいです。
そんなのはもうね、国辱モノですよ。

- ーー
- 日本が危険な国として
指定されていたわけですね。
- 荻田
- もっと、危機感を持つべきなんです。
それなのに、ぼくら現場の人間と、
妊婦さんが周りにいるような立場でないと
伝わっていなかったんです。
これは恥ずかしいことだと思います。
- ーー
- 本来なら、みんな子供の頃に
学校で予防接種を受けているべきですよね。
- 荻田
- そう、すべての人が
予防接種を受けているのが望ましいです。
かと言って、
「大人も今すぐ打ったらいいじゃないか」
というのも、また難しい話があるんです。
実はワクチンが足りていないんです。
今、子供さんに打っているワクチンは
絶対に外せない分だとして、
余剰のワクチンの本数は数万人分だそうです。
ワクチンの接種が必要な数と比べると、
かなり少ないんですよね。
風疹を本当に撲滅させたいなら、
妊娠しそうな年齢の家族も含めた全員が、
抗体検査を受けないでも
タダでワクチンを打ってもらわないと
いけないぐらいだと思うんです。
お金の問題もあるんでしょうけど、
ワクチンの本数が少ないのでは困りました。
- ーー
- 予防接種を打ってさえいれば、
防げたことはあったはずですよね。
- 荻田
- ほんとにね、防げたはずなんですよ。
インフルエンザのように、
毎年流行する型が違うのはしょうがないですけど、
風疹の場合は「終生免疫」といって、
抗体ができれば、よほどのことがない限り、
年を取るまで免疫が続くんです。
稀に抗体ができない人もいますけど、
子供のときに予防接種を打っておくべきでしたね。

- ーー
- 大人になったら抗体を調べてみる、
という意識でいたいですね。
(つづきます)
2019-02-04-MON
2019-02-04-MON
日本で風疹が流行しだした2018年の秋頃、
「ほぼ日」では、全乗組員を対象に、
風疹の予防接種をすることになりました。
社内には、妊婦さんや妊娠を希望する女性、
そして風疹の抗体価が低いとされている
「30代~50代の男性」が多く働いているため、
風疹ウイルスによる被害を防ぐために、
会社負担で風疹の予防接種をしました。
時間を決めて集合場所に集まります。
問診票を書いて体温を計り、
問診で問題がないのを確認できたら
接種をしてもらうという手順です。
今回みんなが予防接種を受けたのは、
「麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)」。
つまり「麻疹(はしか)」と「風疹」を
まとめて予防するワクチンです。
生きたワクチンを接種するので、
妊娠中の女性は注射を受けられません。
その他の人は性別や年齢を問わず、
抗体検査を受けなくても接種可能としました。
「はーい、ちょっとチクッとしますねー!」、
糸井は「全っ然、痛くなかった!」と笑顔です。
注射が苦手な乗組員に聞いてみても、
インフルエンザの注射より痛くない、
という感想が多く挙がったのが印象的でした。
みんな、ほっとした表情で席に戻ります。
ちなみに、事務所以外で働く乗組員も、
自宅のそばで予防接種を受けました。
これで、ほぼ全員が風疹への
抗体をつけることができました!
予防接種は、誰にでもできる対策です。
「自分や家族はどうだろう」と気になったかた、
お近くの医療機関での予防接種を、
ぜひ受けに行ってみてくださいね。
「ほぼ日」では、全乗組員を対象に、
風疹の予防接種をすることになりました。
社内には、妊婦さんや妊娠を希望する女性、
そして風疹の抗体価が低いとされている
「30代~50代の男性」が多く働いているため、
風疹ウイルスによる被害を防ぐために、
会社負担で風疹の予防接種をしました。
時間を決めて集合場所に集まります。
問診票を書いて体温を計り、
問診で問題がないのを確認できたら
接種をしてもらうという手順です。
今回みんなが予防接種を受けたのは、
「麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)」。
つまり「麻疹(はしか)」と「風疹」を
まとめて予防するワクチンです。
生きたワクチンを接種するので、
妊娠中の女性は注射を受けられません。
その他の人は性別や年齢を問わず、
抗体検査を受けなくても接種可能としました。
「はーい、ちょっとチクッとしますねー!」、
糸井は「全っ然、痛くなかった!」と笑顔です。
注射が苦手な乗組員に聞いてみても、
インフルエンザの注射より痛くない、
という感想が多く挙がったのが印象的でした。
みんな、ほっとした表情で席に戻ります。
ちなみに、事務所以外で働く乗組員も、
自宅のそばで予防接種を受けました。
これで、ほぼ全員が風疹への
抗体をつけることができました!
予防接種は、誰にでもできる対策です。
「自分や家族はどうだろう」と気になったかた、
お近くの医療機関での予防接種を、
ぜひ受けに行ってみてくださいね。