- 80年代の、三越、高島屋、
あるいは伊勢丹の時代に、
まだまだ小さい西武百貨店が伸びていくために
経営者の堤さんが選んだ戦略が、
「若さと知性を感じさせる」というものでした。 - 若さと知性、ですか。
- これはずっと時代が下ったあとの話ですが、
1999年にユニクロの広告を、
クリエイティブエージェンシーの
「ワイデン&ケネディ」が担当して、
大ヒットさせたことがありましたよね。
直前までのユニクロは、
安さのインパクトで売っていこうということで、
おばちゃんたちがレジの前で
「安い安い!」と叫びながら、
服を脱いだり着たりするCMをしていました。
ですが、そういったアプローチをしていたユニクロに、
「ワイデン&ケネディ」が提案したのは
まったく違う案だったわけです。
「安い商品かもしれないけれど、
ユニクロはもっと、ある種のインテリジェンスや
ファッション性を付加して
売っていったほうがいいと思います」と。
実際にユニクロは、
その路線で大ヒットするわけですけど。 - フリースが大人気になったときですね。
- 当時の西武のやりかたも同じで、
置かれていた立場を思えば、
「安さのインパクト」を売りにした
アプローチをしていた可能性もありました。
でも、おそらくそこを経営者の堤さんが
「それではダメだ」と考えた。
「若くて知性を感じさせる人たちを味方につけて、
他の歴史あるデパートに対抗していこう」
という戦略を選んだのだと思います。
- 80年代当時、糸井さんにコピーの依頼があったとき、
「若くて知性を感じさせる戦略をとりたいんだ」
というコンセプトは、
明快に話としてあったのでしょうか。 - その言葉で語られたわけではなかったです。
けれど、当時の西武百貨店は、
そう考えているとしか思えない人たちを
集めていました。
たとえば、渋谷の西武百貨店の一角で、
前衛的な演劇の人たちや、横尾忠則さんに、
「なにこれ?」と思わせるようなことをしてもらったり。
あるいは、パルコを作りましたよね。
パルコって、いまは建物だと思っている人が
多いかもしれないけれど、
はっきり「メディア」として作られたものです。
だから当時は、建築費と同じように、
その「見せ方」に多くの費用をかけていました。
そしてパルコのトップに、
自分のライバルのような存在である
増田通二さんという人を据え、
堤さんと増田さんという個性の違う2人が
バチバチとぶつかりあうことで、
全体の昇華を目指していました。
そんなふうに堤さんの頭には、
「違うものをぶつけあって矛盾を起こさせ、
全体を盛り上げていく」という発想が
ずっとあったような気がします。 - いま、お話を聞かれていて、
クレディセゾンの宣伝部門を統括する
相河(あいかわ)さんとしてはいかがですか? - こういったお話を糸井さんからお聞きできて、
とてもありがたいな、というのが一番の感想です。
そして、セゾン文化をもういちど盛り上げるにあたり、
当時のことを、あらためて
心に留めておかなければと思いました。
その後、いろいろな分社化がすすんで、
「セゾン」という名前を使い続けている会社は
いま、クレディセゾンだけなんです。
- デパートを核に伸びていったセゾングループは、
時代が流れて、途中で不動産業に行くんですよね。
そして別のものになっていった。
ただ堤さんの頭の中にあった
「人を呼び込む何かを作って、賑わいからなにかを生んでいく」
という考えかたは、
その後も続いているかもしれないと思います。 - ただ、これからの「セゾン文化」を
どう作ればいいかを考えたとき、
80年代のような
「他のデパートに対する『知性と若さ』だ」
といった対立軸でのブランディングは、
なかなか難しい時代かな、とも思うんです。
だからいま、”セゾンチエノワ”をやりながら、
これからクレディセゾンは、
どのようなブランディングをしていくべきかと、
ずっと考え続けているのですが‥‥。 - いや、うーん‥‥そこなのかな?
そこを掘っていっても、難しい気がします。 - 難しい、ですか。
- 糸井
- そういう発想で考えていくと、
すべての結果が出るのを待ってから、
答えを探すゲームになると思うんです。
もちろん「何歳だからこう」「男だから/女だからこう」
「都市だから/郊外だからこう」は、きっとあります。
そして、その小さな違いのなかに
ビジネスのヒントがある、という考え方もたしかにできる。
だけど、ぼく自身の感覚としては、
そういった分析から答えを見つけようとしても、
みんなと同じ答えにしか
たどり着けない気がするんです。
ほかとは違う、ほんとうに役立つ答えって、
結果が出て証明されるまでは、一見、
「冒険」や「乱暴」に見えるものですし。 - ああ。
- だからそこは、内臓から答えを探すというか、
もっと普遍化できる「人ってこうだよね」から
答えを見つけていうほうがいいと思うんです。
実際、社会はナマモノが動いているわけですから。 - 内臓、ですか。
- 「誰もが内臓を持った人間である」といった
視点から、と言えばいいでしょうか。
たとえば、データを集めて分析してみたら、
「女性はラグビーをあまり好きではないようだ」
と結論が出たとしますよね。
女性というものの嗜好はこうだ、と。
そして、たしかにその見方もあると思います。
だけど、そのデータだけがすべてじゃない。
女の人も、男がおもしろがって喋る話題について
「わたしもやってみようかな」
とか思うこと、あるじゃないですか。
たとえば、ある女の人がもともと、
ああいうスポーツは全く好きじゃなかった。
けれど、ラグビーをしている彼ができた。
そして彼がラグビーのことを、
いつもとても嬉しそうに話している。
そこからだんだん
「言ってることちょっとわかるな」
「観に行ってみようかな」、
さらには
「グッズがほしくなって買っちゃった」
みたいなことだって、あるかもしれない。
- きっとありますね。
- そんなふうに、コミットの仕方って
ものすごくいろいろあるわけです。
だからそこを分析して、答えを見つけようとしても、
仕方がない気がするんです。 - だけど「好きな人が好きなものを
だんだんと自分も好きになっちゃう」は、
人間の性質としてあるから。 - 糸井
- そう。だから、そっちから考えたほうが、
ほかとは違う、喜ばれるものを作れる気がするんです。
そういう見方をしていくと、
もしかしたら何かのきっかけで、
「60代男性」のぼくがお化粧にはまる可能性だって、
見えてくるかもしれないし。 - 一同
- (笑)
- じゃあ「ほぼ日刊イトイ新聞」も、
なにか世の中を分析して、
コンテンツを出しているわけではなく‥‥? - 糸井
- それは、そうですよ。
だから「ターゲットはどこですか?」とか
「ブランディング戦略は?」
とか聞かれても、
「いえ、考えてないんです」
としか言えないんです。
(つづきます)