糸井さん、ブランドってどう作るんでしょう? "SAISON CHIENOWA"(セゾンチエノワ)チームのみなさん、糸井重里に話を聞きにくる。

ほぼ日刊イトイ新聞

糸井さん、ブランドってどう作るんでしょう? "SAISON CHIENOWA"(セゾンチエノワ)チームのみなさん、糸井重里に話を聞きにくる。

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第2話 そこを掘っても難しいかも。 2016-08-23

第2話 そこを掘っても難しいかも。 2016-08-23

糸井
80年代の、三越、高島屋、
あるいは伊勢丹の時代に、
まだまだ小さい西武百貨店が伸びていくために
経営者の堤さんが選んだ戦略が、
「若さと知性を感じさせる」というものでした。
チエノワ廣田
若さと知性、ですか。
糸井
これはずっと時代が下ったあとの話ですが、
1999年にユニクロの広告を、
クリエイティブエージェンシーの
「ワイデン&ケネディ」が担当して、
大ヒットさせたことがありましたよね。

直前までのユニクロは、
安さのインパクトで売っていこうということで、
おばちゃんたちがレジの前で
「安い安い!」と叫びながら、
服を脱いだり着たりするCMをしていました。

ですが、そういったアプローチをしていたユニクロに、
「ワイデン&ケネディ」が提案したのは
まったく違う案だったわけです。
「安い商品かもしれないけれど、
ユニクロはもっと、ある種のインテリジェンスや
ファッション性を付加して
売っていったほうがいいと思います」と。

実際にユニクロは、
その路線で大ヒットするわけですけど。
チエノワ廣田
フリースが大人気になったときですね。
糸井
当時の西武のやりかたも同じで、
置かれていた立場を思えば、
「安さのインパクト」を売りにした
アプローチをしていた可能性もありました。

でも、おそらくそこを経営者の堤さんが
「それではダメだ」と考えた。
「若くて知性を感じさせる人たちを味方につけて、
他の歴史あるデパートに対抗していこう」
という戦略を選んだのだと思います。

チエノワ廣田
80年代当時、糸井さんにコピーの依頼があったとき、
「若くて知性を感じさせる戦略をとりたいんだ」
というコンセプトは、
明快に話としてあったのでしょうか。
糸井
その言葉で語られたわけではなかったです。
けれど、当時の西武百貨店は、
そう考えているとしか思えない人たちを
集めていました。

たとえば、渋谷の西武百貨店の一角で、
前衛的な演劇の人たちや、横尾忠則さんに、
「なにこれ?」と思わせるようなことをしてもらったり。

あるいは、パルコを作りましたよね。
パルコって、いまは建物だと思っている人が
多いかもしれないけれど、
はっきり「メディア」として作られたものです。
だから当時は、建築費と同じように、
その「見せ方」に多くの費用をかけていました。

そしてパルコのトップに、
自分のライバルのような存在である
増田通二さんという人を据え、
堤さんと増田さんという個性の違う2人が
バチバチとぶつかりあうことで、
全体の昇華を目指していました。

そんなふうに堤さんの頭には、
「違うものをぶつけあって矛盾を起こさせ、
全体を盛り上げていく」という発想が
ずっとあったような気がします。
チエノワ廣田
いま、お話を聞かれていて、
クレディセゾンの宣伝部門を統括する
相河(あいかわ)さんとしてはいかがですか?
チエノワ相河
こういったお話を糸井さんからお聞きできて、
とてもありがたいな、というのが一番の感想です。
そして、セゾン文化をもういちど盛り上げるにあたり、
当時のことを、あらためて
心に留めておかなければと思いました。
その後、いろいろな分社化がすすんで、
「セゾン」という名前を使い続けている会社は
いま、クレディセゾンだけなんです。

糸井
デパートを核に伸びていったセゾングループは、
時代が流れて、途中で不動産業に行くんですよね。
そして別のものになっていった。
ただ堤さんの頭の中にあった
「人を呼び込む何かを作って、賑わいからなにかを生んでいく」
という考えかたは、
その後も続いているかもしれないと思います。
チエノワ廣田
ただ、これからの「セゾン文化」を
どう作ればいいかを考えたとき、
80年代のような
「他のデパートに対する『知性と若さ』だ」
といった対立軸でのブランディングは、
なかなか難しい時代かな、とも思うんです。

だからいま、”セゾンチエノワ”をやりながら、
これからクレディセゾンは、
どのようなブランディングをしていくべきかと、
ずっと考え続けているのですが‥‥。
糸井
いや、うーん‥‥そこなのかな?
そこを掘っていっても、難しい気がします。
チエノワ廣田
難しい、ですか。
糸井
そういう発想で考えていくと、
すべての結果が出るのを待ってから、
答えを探すゲームになると思うんです。

もちろん「何歳だからこう」「男だから/女だからこう」
「都市だから/郊外だからこう」は、きっとあります。
そして、その小さな違いのなかに
ビジネスのヒントがある、という考え方もたしかにできる。
だけど、ぼく自身の感覚としては、
そういった分析から答えを見つけようとしても、
みんなと同じ答えにしか
たどり着けない気がするんです。

ほかとは違う、ほんとうに役立つ答えって、
結果が出て証明されるまでは、一見、
「冒険」や「乱暴」に見えるものですし。
チエノワ廣田
ああ。
糸井
だからそこは、内臓から答えを探すというか、
もっと普遍化できる「人ってこうだよね」から
答えを見つけていうほうがいいと思うんです。
実際、社会はナマモノが動いているわけですから。
チエノワ廣田
内臓、ですか。
糸井
「誰もが内臓を持った人間である」といった
視点から、と言えばいいでしょうか。

たとえば、データを集めて分析してみたら、
「女性はラグビーをあまり好きではないようだ」
と結論が出たとしますよね。
女性というものの嗜好はこうだ、と。
そして、たしかにその見方もあると思います。

だけど、そのデータだけがすべてじゃない。
女の人も、男がおもしろがって喋る話題について
「わたしもやってみようかな」
とか思うこと、あるじゃないですか。

たとえば、ある女の人がもともと、
ああいうスポーツは全く好きじゃなかった。
けれど、ラグビーをしている彼ができた。
そして彼がラグビーのことを、
いつもとても嬉しそうに話している。
そこからだんだん
「言ってることちょっとわかるな」
「観に行ってみようかな」、
さらには
「グッズがほしくなって買っちゃった」
みたいなことだって、あるかもしれない。

チエノワ廣田
きっとありますね。
糸井
そんなふうに、コミットの仕方って
ものすごくいろいろあるわけです。
だからそこを分析して、答えを見つけようとしても、
仕方がない気がするんです。
チエノワ廣田
だけど「好きな人が好きなものを
だんだんと自分も好きになっちゃう」は、
人間の性質としてあるから。
糸井
そう。だから、そっちから考えたほうが、
ほかとは違う、喜ばれるものを作れる気がするんです。
そういう見方をしていくと、
もしかしたら何かのきっかけで、
「60代男性」のぼくがお化粧にはまる可能性だって、
見えてくるかもしれないし。
一同
(笑)
チエノワ廣田
じゃあ「ほぼ日刊イトイ新聞」も、
なにか世の中を分析して、
コンテンツを出しているわけではなく‥‥?
糸井
それは、そうですよ。
だから「ターゲットはどこですか?」とか
「ブランディング戦略は?」
とか聞かれても、
「いえ、考えてないんです」
としか言えないんです。
 
(つづきます)