糸井さん、ブランドってどう作るんでしょう? "SAISON CHIENOWA"(セゾンチエノワ)チームのみなさん、糸井重里に話を聞きにくる。

ほぼ日刊イトイ新聞

糸井さん、ブランドってどう作るんでしょう? "SAISON CHIENOWA"(セゾンチエノワ)チームのみなさん、糸井重里に話を聞きにくる。

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第5話 「いい会社」に必要なもの。 2016-08-26

第5話 「いい会社」に必要なもの。 2016-08-26

チエノワ廣田
ぼくはいま、仕事における「本音」と「建前」が
分かれすぎている気がするんです。
さまざまなプロジェクトをぼくは
みんなの気持ちをベースに進めたいのですが、
「建前として、この理論で通さなきゃいけない」も
「本音と言いつつ、飲み会をすると
まったく違う思いが出てくる」もあって。
糸井
だけどそこで「本音」とされているものも、
「ほんとうの本音」かどうかはわからないですよね。
実際には
「あんがいそこまで言うつもりはなかった」
みたいな「本音」だらけなわけで。

たとえばふたりでお酒を飲んでいて、
「自分の本音はこれだ」と思って
会社の悪口を言うとします。

でも、そのときに相手が
会社に対してもっとひどいことを言ったら
「そこまで悪くないんじゃない?」
と言う自分がいたりします。

また、自分が悪口を言っているときに相手から
「そんなことないよ」と返されると、
「いや、そんなことなくない!」と
思った以上に突っぱねる自分が
出てきたりもします。

そんなふうに、本音や建前はいつでも
関係のなかでブレますから、
「本音がわかったからといって、
良い指針ができるわけではないかも‥‥」
とは思います。

チエノワ廣田
言われてみると、たしかにそうかもしれません。
糸井
それよりも、いま指針として使いやすいのは
“モデルケース”という考え方の気がします。
「あの子みたいにやればいいんじゃない?」
は、あると思う。
そこは欠点も含めてのあの子、にできるから。
チエノワ廣田
“モデルケース”ですか。
糸井
たとえばAK48は、みんなにとって、
すごく伝わりやすい“モデルケース”ですよね。

AKB48の登場で、
「ああやってアイドルが集まると、
あんなになにかを発揮できる」
ということがわかった。
そこから似たプロジェクトは
いくらでもできているわけじゃないですか。

さいしょに秋葉原の劇場で
AKBがはじまったときには、
ほとんど誰も可能性に気づいてなかったけど、
モデルが物語に乗っかっていくとみんな、
「あ、それはあるかも」とか見てくれる。
チエノワ廣田
たしかに”セゾンチエノワ”についても、
目に見える仕組みを作っていったことで、
伝わりやすくなったと思います。
そうやって「この指とまれ」と呼びかけたら、
やりたいと言ってくれた人がいま、
160人くらいいるんです。
みんな「そういうことをしたいと思ってた」と、
すごく協力してくれて。
糸井
そういったものを作れたこと自体は
すばらしいのではないでしょうか。
まず、社内に顧客を作れるというのは、
そのもの自体に魅力があるということなんですよね。
理念ひとつひとつへの賛成じゃなくても、
「そこ入ったほうがいいな」って思わせる
なにかがあるんですよ。
チエノワ廣田
あと、外の方たちからもいろいろと、
「実はそういうのを求めてたんだよね」とか
言われるんです。
糸井
ただ、外の人は、自分たちの代わりに
実験をしてほしいんじゃない?
「クレディセゾンでそんなことをしてるらしいよ」
と聞こえてきたら、
「ちょっと真似させて」とか
「うまくいったら、うちも絶対やろう」とか思うんです。
だから、”セゾンチエノワ”は、
そういうみんなにとっての
開発部の代わりをしてあげているというか。

チエノワ廣田
そこはあると思いますね。
だから、このプロジェクトによって、
クレディセゾンという会社が
これまでとは違う声のかけられかたをするんです。
いつもの人から、いつもとはまったく違うかたちで
声をかけられたり、といった事例がたくさんあって、
その声に対応していくために
制度を整えなきゃね、といった話も出てきています。
糸井
そのあたりから、ほんとうに
問われていくのかもしれないですね。
でも、何にしろ、
社内のみんながやりたくてやっているというのは
とてもいいことですね。
チエノワ廣田
そうなんですよ。
糸井
ぼくは昔、西武の「不思議、大好き。」の広告で
ポスターを撮影するために、
エジプトのピラミッドに行ったんです。
そして、朝日に照らされるピラミッドの前に立ったら、
「これは奴隷が作ったんじゃない」と
感覚でわかりました。
みんながいやいや進めていったことで、
こんなにすごいものは作れない。

無理矢理やらせたことと、
個人個人がやりたくてやったことって、
やっぱりものすごく差が出るんですよ。
立派な設計図があったからといって、
できるわけじゃない。
みんなの心が合ってないと、というか。
チエノワ廣田
その違いって、どこなんでしょうね。
ひとりひとりが夢中になれているかどうか?
糸井
そうですね、ワーッがあるかどうかで、
できあがりは違いますよね。
チエノワ廣田
ただ、ぼくもよく思うんです。
どうすれば、みんなの心が合って、
積極的にやりたくなっていくんだろう、って。
制度を作って「さあやらなきゃ」となった瞬間に
「笛吹けど踊らず」みたいになることが、
どうしてもあって。
糸井
前にぼくは吉本隆明さんに
「吉本さんの考えるいい会社って何ですか?」
って聞いたことがあるんです。

そしたら吉本さんが
「うーん‥‥」と言って、
「まあ、いろいろあるんでしょうけど、
ひとつはおそらく
『なにか文句を言いたいときに
先輩に愚痴を言える』というのが
大切だと思います」と。   
チエノワ廣田
はあー。
糸井
それから吉本さんが言ったのが、
「あとは建物自体の日当たりがよくて、
外に出たとき美味いものがあったり、
喫茶店でちょっと休めたり。
そういう、なんか明るい感じの建物が
大事ではないでしょうか」って。

この答え、制度の話をしたい人には
がっかりしますよね。
「建物が明るくて、周りにいい喫茶店がある」?
「先輩に愚痴が言える」?
何も言ってないも同然に聞こえるじゃないですか。

だけど
「どんなに見事な制度を作っても、
その2つの部分にかなわないんだ」
ということを、吉本さんは言ったわけです。

ぼくはその話を聞いたときに、
自分も無理矢理にでも、
そこをいつも考えるようにしようと思いました。

だからそれ以降、うちの事務所は
その考え方で引越しするようにしています。
中にいるときにも、外に出たときにも、
みんなが気持ち良く過ごせる場所にしようと。
そういうことを気にしなくなったら
ダメだと思うんです。
チエノワ廣田
だけどそれ、わかります。
アメリカのサンフランシスコにある
いま勢いのある会社では、
周りに美味しいヨーグルト屋さんがあるとか、
食堂もシェフがいる最高のものにしていたりとか、
そういった部分に、やたらとお金をかけているそうです。
彼らの場合はある種、
合理的にそこに辿り着いたんだろうと
思うんですけど。
糸井
たとえばある企業が
「ものすごく不便なところに引っ越した」とか、
「行く気が起きない場所に移転した」
とか聞くと、
「やっぱり影響を受けるだろうな」と思うんです。
できれば会社は、
行くことで、活気が出る場所がいい。

たとえばの話、いまクレディセゾンが
ものすごく辺鄙(へんぴ)な場所に引越しました。
想像すると、どう?
チエノワ廣田
ああ。うーん‥‥。

糸井
立地に限らず、
「景気が悪いから、みんなを引き締めるために
4つあるエレベーターの2つを稼働停止して
全体に明かりを暗くします」
っていったら、これはどう?

そのときみんなはきっと、
「うちの会社、しっかりしていてありがたいな」
とか思うんじゃなくて、
「なんだかこの頃、会社に行くのがイヤだなあ」
とかなりますよね。

その「なんかイヤ」と言われる部分は、
数字上は、とても小さく見えるかもしれない。
節電部分ぐらいのマイナスにしか見えないんですよ。
でも、そういうことが、
人間1人のやる気を8割削ぐくらいの
大仕事をしてしまうんです。
ただ電気を消すだけなのに。
で、わざと明るくしたりすると、これまたわざとらしくて、
「うちの会社、おかしいと思う」っていうんだけど。

そういったところの、
ふだんから目に入るものが何で、
どういうやさしさとか、親切さとか、
たのしさに包まれているかというような
「赤ん坊でも感じるようなもの」が、
ほんとは大人にとっても、
いちばん影響が大きいと思うんです。

(つづきます)