糸井 | サンデルさんの新しい本 (『それをお金で買いますか 市場主義の限界』) を読ませていただきました。 お金と倫理についてのさまざまな視点が 示されていて、おもしろかったです。 |
サンデル | ありがとうございます。 |
糸井 | お金が簡単なことじゃないぞっていうのは、 じつはぼくも昔から取り組んでいるテーマで、 本を出したり、 イベントをやったりしたこともあるんです。 |
サンデル | それは、どういう内容のものですか? |
糸井 | ひとつは、 お金を儲けることが上手だった文学者の人に 「お金っていうのは、どういうものですか」 っていう質問をする本です。 (『お金をちゃんと考えることから 逃げまわっていたぼくらへ』 邱永漢さんとの共著) もうひとつは、地方で貧しい育ち方をした ロックスターがいて、 その人はお金持ちになりたいって言って、 ほんとうになった人なんだけど、その人と、 「お金ってなんでしょうね」っていうテーマで お客さんの前で話をしました。 これは、テレビ番組にもなりました。 (『お金のことを、あえて。』) ふたつの取り組みには、 共通のコンセプトがあって、それは、 「お金について話すのは難しい」 ということなんです。 どうして難しいかというと、 自分のほんとうの心がなかなかわからないから。 |
サンデル | うん、そのとおりです。 |
糸井 | とてもほしいのか? そうでもないのか? 自分がお金について ほんとうにどう思ってるかを知りながら お金を扱ってる人と、 知らないで扱ってる人でいったら、 知らない人のほうが圧倒的に多いし、 自分もあきらかに知らないと思うんです。 それは、サンデルさんがさっきおっしゃった 経済と哲学の関係にそっくりですよね。 経済の中から哲学があらかじめ排除されてるように お金をめぐる話から「自分の気持ちが」が 取り除かれていることが多かった。 |
サンデル | まったくおっしゃるとおりですね。 |
糸井 | ですから、お金のことを話すっていうのは どうしても自分を裸にしなきゃならないんだけど、 どうも、裸にならずに語り合ってる人ばかりで。 |
サンデル | ええ、ええ。 |
糸井 | だから、たとえば、具体的に困るのは、 自分の子どもにお金の話を どう教えたらいいのかわからないということです。 自分でもわかってないことを 子どもに教えられないですよね。 |
サンデル | はい、そのとおりですね。 糸井さんがお子さんに お金の話をしようとして困ったとき、 お子さんは何歳ぐらいだったんですか。 |
糸井 | 中学生ぐらいのころかなぁ。 なんていうんだろう、 欲しがりすぎる子どもに育てたくなかったし 「お金なんか大したことない」って 簡単に言うような子どもになってほしくなかった。 たぶん、「お金なんかなんの意味もないよ」って、 達観したようなことを伝えるのが、 ある意味、いちばんやりやすかったんだけど、 それは、よしたほうがいいと思ったんですよね。 |
サンデル | それで、どんなふうにおっしゃったんですか。 |
糸井 | 結局、ぼくは具体的には言葉で教えてないですね。 子どもは、ぼくのやってることを見たりしながら 勝手に覚えるしかなかったんじゃないかなぁ。 |
サンデル | 具体的な例で見せていく っていうことだったんでしょうか。 |
糸井 | そうですね。 たとえば‥‥うーん、例が難しいんですけど、 子どもが、自分の買ってほしいものを 的確に言えたときに 褒めたりすることはありましたね。 |
サンデル | あー、なるほど。 |
糸井 | あと、変な話だけれど、時代が違うせいなのか、 ぼくなんかよりも子どものほうが 上手にお金をつかえてる気もしたんですよ。 ぼくらは、やっぱり、 子どものころ豊かではなかったから、 たとえば食事をするときに、 つい、あれもこれもって オプションをつけたりしちゃうんですね。 でも、子どもとか、その友だちは、 ものすごくシンプルに、 コーヒーとトーストでいいやっていうときに すっとそう言えるんですね。 そういうのを見て、彼らのほうが 進んでるなと思ったことが何度もありますね。 ぼくらのほうが貧しい時代にいたんぶんだけ、 お金をというものを うまく扱えてないんだなぁとつくづく思います。 サンデルさんは世代的には、 そういう感じっていうのはわかりますか? |
サンデル | うーん‥‥多少、その、 半世代分くらいのずれはあるかもしれないです。 |
糸井 | ああ、なるほど(笑)。 |
サンデル | 例えば、わたしは、さいわいに、 お金に困ったような育ちをせずにきたので、 逆に、お金がほしいという 大きな欲望もないままにきてると思います。 |
糸井 | うん、うん。 |
サンデル | 糸井さんご自身は、いまもお金の扱いに関して うまく答えが出ないことが多いんですか。 |
糸井 | うーん、最近というわけではなくて、 昔からずーっと答えの出ていない問題がある、 という感じですね。 たとえば、この対談が掲載されることになる ほぼ日刊イトイ新聞というウェブサイトは、 出てくれたり、記事を書いてくれる人に 原稿料を払っていないんですね。 払わなくても出たい、書きたい、 という方とやろうと思ってはじめたんです。 だけど、お金を払ったほうが お互いにうまく運ぶ場合も出てくる。 そのあたりの答えがいまも出ない。 |
サンデル | それはいまどういうふうに 決めてらっしゃるんですか。 |
糸井 | いまは、お金は払わなくってもやりたい っていう人と仕事をやる形がほぼすべてです。 ただ、商品にまつわるお仕事については 生じる利益の対価を お支払いするようにしているので、 コンテンツによって微妙に違いますね。 あ、だからたぶん、サンデルさんにも今日、 出演料を支払うことはないと思いますけど。 |
サンデル | (笑) |
(つづきます) | |
2012-07-27-FRI |