ほぼ日刊イトイ新聞 ダイヤローグシリーズ 1 株式会社三角屋 朝比奈秀雄さんの場合
建物や家具になるために 息づきながら待っている 石や木との対話


第2回 金よりも。


朝比奈 日本建築は、使う素材を空間と
切り離して考えたらいかん。
人は、庭から入ってくる。
庭から縁側に入ってくるんや。
光かて、そうや。
日本の光は、縁側に入ってきて、
障子を通して家の中に入ってくる。
外も中も上も下も
一体なんですよ。

西洋建築は、ガラス窓や
コンクリートの塀で
中は中、庭は庭、遮断されとる。
日本建築はそうやない。曖昧や。
軒を通して風や光が入ってくる。

曖昧な空間、いわゆる境目。
日本建築は、全体のなかで
境目をどう出すかが鍵です。
そやから、ぼくがいちばん
大事にするのは「ひさし」なんや。
ほぼ日 ひさし。
朝比奈 人が入ってくるのは玄関。
それをいざなうのはひさしやん?
ひさしのない玄関、これは
どうかと思うわ。
ひさしがなかったら、
つばめも巣をつくれないでしょう。

いつも思うのは、ひさしの高さ、長さ、材料。

大事やなと思う。
ひさしがかっこいい家は違うと思うわ。



ほぼ日 ふむ‥‥。
境目にひさしのような空間があると
余裕が感じられますね。
朝比奈 そやねん。
なんでも余裕って大事やな。
ほぼ日 そうですね。
木の手入れも、
余裕がないとできないですね。
朝比奈 ああ、そらできへん、できへん。
どうでもええとこは、ぼくもある程度
どうでもええと思うけど。

余裕なかったらいつでも、
「ああ、もうええわ、どうでもええわ」
すぐになるやん。なあ?
どんなときも、余裕もたなあかん。
「もうちょっと、もうちょっと」という
余裕をもつ。
それが大事やとぼくは思う。



ほぼ日 その「余裕」は、
三角屋さんの広い敷地に、
これだけの材料がある
ということにもヒントがあると思います。
ここまで素材があれば、要望に対しても
「では、これでいきましょうか」
という提案ができる。
朝比奈 そうでないと、やっていかれへん。
あんな、すぐできるで。
ほぼ日 三角屋さんは、やろうと思ったら、すぐできる。
朝比奈 すぐできる。いやいや、
注文くれたら
すぐできる(笑)。




ほぼ日 これだけ材料があるからこそ。
朝比奈 あるから、すぐできる。
そらそやで。
ぼく‥‥何も値段は‥‥いや‥‥、
値段ってね、思ったことないよ。
儲かることはしたいけどもやね(笑)。
ほぼ日 値段について、思ったことないんですか。
朝比奈 思ったことない。
うちの建物に感動してくれたらええ。
2千万かかるとこも、
2百万でやったりすることかて、ある。
たとえば施主が、これから伸びようとする
若い子やったりするとね。
これからがんばってくれたらいい話やから。
ほぼ日 ‥‥そうなんですか。
朝比奈 逆に言えば、こんだけここにある
材料みたいなもん、
ぼくはタダやと思うねん。



ほぼ日 いやいや、そんなことないです。
朝比奈 いや、ほんまに。
ほぼ日 さきほどから、しばらく
朝比奈さんの動きを見させていただきましたが、
木を乾かして、お手入れして、並べ替えて、
見て回って、声聞いて‥‥、
もともとの原料費もかかっていますし、
そんな何年にもわたる手入れは、とんでもない、
素材はタダじゃないです。
朝比奈 そんなん、なんでもあらへん。
こういう素材は適材適所で、
還元したらええと思ってる。
お金は出してくれる人がいたらそらいいけど、
要は、それを「どこに置いとくか」という
ことやと思うねん。
ほぼ日 置いておく場所の問題。
つまり‥‥値段というより
どう置くか、の問題。
朝比奈 そうや。



(つづきます)

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2012-09-21-FRI


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