佐々木俊尚 × 糸井重里  メディアと私。  ──おもに、震災のあと。


第8回 いくつかのきっかけ。

糸井 新聞記者として記事を書くときと
ネットでなにかを書くときっていうのは、
やっぱり、大きく違うんですよね。
佐々木 違いますね。
糸井 なにがどんなふうに違うんでしょう。
佐々木 やっぱり、余裕がないですから、
どうしてもネタになることが
優先されるんですね。
とにかく、ネタ、ネタって、
鵜飼いの鵜のように、
ネタを飲みこんでは、すぐに吐き出して。
糸井 商品化のために、
本に厚みを出すのと同じ話ですね。
佐々木 そうなんです。
だから、もう目の前のものを
バッっとつかんで、バッと出す。
そのときに、すごく尊敬していた
先輩の事件記者から
こんなことを言われたことがあるんです。
新聞記者には2種類あって、
狩猟型と農耕型だと。
糸井 なるほど。
佐々木 で、おまえは狩猟型だと。
ダーッと取材に行って、
取材が終わったあとは草木も生えない
みたいな言い方をされて。
つまり、ネタは獲ってくるけど、
ぜんぜんフォローしてない。
糸井 (笑)
佐々木 一方、農耕型の記者っていうのは、
ネタ元とずーっとつき合って、
めったなことでは書かない。
その人に迷惑がかかると思ったら、
もう、書かずに墓場まで持って行く。
そういうなかで、書けるネタだけを、
ぽつんぽつんと書いていく。
まさに、畑に種を蒔いて育てて、
実ったらちょっとだけ収穫させてもらう。
これからはそういうことを
目指さなきゃダメだって言われて、
なるほどなとすごく思ったんですけど。
糸井 うん。
佐々木 やっぱり、いまつかんだネタを
バッっと出すんじゃなくて、
いかに自分のなかに
コンテクスト(文脈)みたいなものを
溜め込んでいけるか。
そういうことを意識しながら
書いてくことがすごく大事だなと。
新聞記者って、やっぱり専門性が薄くて、
今日は経済、明日は殺人、
翌日は海外テロっていうふうに、
どんどん取材して書いていくから、
どうしても、自分のなかに
コンテクストが残りづらいんです。
糸井 なるほど、なるほど。
佐々木 ただ取材能力の高い職人、
みたいなことになりがちなんです。
もちろん、職人に徹するのもいいんですけど、
自分の道はそこじゃないなと思ったので、
だったら、学生時代から詳しかった
ITの分野で自分なりのコンテクストを培って
そのなかで仕事するっていう方向に
行けないかなって思ったんです。
糸井 その話、まったくはじめて聞いたんですが、
ものすごくおもしろいですね。
佐々木 ああ、そうですか。
ありがとうございます。
糸井 いや、そのくらいじゃないと。
ネットの中でなにか表現していくって、
徒手空拳じゃないですか、いわば。
佐々木 そうなんですよね。
糸井 その意味では全員平等なんだけど、
失うもののある人ほど
より、徒手空拳なんですよ。
というときに佐々木さんが
おやりになっていることっていうのは、
なんていうか、ある種の潔さというか、
貪欲さみたいなものがあって。
それは背景になにがあるんだろうって
思ってたんですけど。
佐々木 ああー。
それは、まぁ、どこかの段階で
なにかの覚悟を決めたというか。
糸井 覚悟ですね。
だから、でかい声出して
ヒステリックに言ってるだけの人には
その覚悟はやっぱり感じられないんですよ。
佐々木 ああ、わかる気がします。
糸井 その一方で、新聞記者の方でも、
ソーシャルななかでの表現が
自然にできてる方もいらっしゃいますよね。
佐々木 そう思います。
優秀な記者もすごく多いです。
ツイッターやフェイスブックが
今後、どういう扱いになるかはわかりませんけど、
いまは会社のガバナンス(統治)が
まともに機能してないので、
自由に表現できるという意味では、
とてもいい場になってるんじゃないですかね。
糸井 自分に問いかけるということの
実験や練習ができる場所として。
佐々木 そうですね。
糸井 新聞に限らず、
マスを相手にするメディアで
マス用の語り口を身につけた人が
自分として人生を送っていくっていうのは、
もうそれ自体が矛盾みたいに
なっちゃってますからね。
佐々木 そうですね。
だから、そこを変えられるがどうかが
この時代に生きていく
ジャーナリストにとっての
大きな壁じゃないかなっていう気はします。
とくに、ソーシャルな世界における
これからのジャーナリズムって、
ひとりの個人が発信するのではなくて、
コミュニケーションのなかで生まれる
ジャーナリズムだろうと思うので。
糸井 うん、そうですね
佐々木 そういう意味で
コミュニケーションを取ってるような感覚が
文体と融合できるかどうかって、
やっぱりすごく大事だと思いますよね。
ぼくがブログをはじめたころから
言われてたことではあるんですけど、
当時はなにを言ってるのか、
よくわかんなかったんですよ。
でも、いまになってみるとよくわかる。
糸井 つまり、5年かかるわけですよね。
佐々木 そうなんですよね。
いまの若い人だったら、
あっという間にできちゃうのかもしれない。
糸井 つまり、佐々木さんは、前の世界で
身につけていたものが大きかったから
それを削ぎ落とすのに
ちょっと時間がかかったというか。
佐々木 それはあると思います。
糸井 でもそれ10年掛かっても
そぎ落とせない人もいるし。
佐々木 うーん、そうですね。
糸井 仕事になりながら5年っていうのは、
やっぱりすばらしいと思うなぁ。
佐々木 ありがとうございます。
糸井 いや、今日はおもしろかったです、
っていうのも変な言い方ですけど、
おもしろかった。
ありがとうございました。
佐々木 こちらこそ、
ありがとうございました。
  (佐々木俊尚さんと糸井重里の対談は
 これで終わりです。
 お読みいただき、ありがとうございました)

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2012-02-02-THU