はたらくことのおもしろさ。 佐々木俊尚×糸井重里 はたらくことのおもしろさ。 佐々木俊尚×糸井重里
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんと
糸井重里が「はたらくこと」をテーマに
トークイベントを行いました。
話はさまざまな方向に転がり、
「(よくしゃべったのは)会場の若い人たちが
とても真剣に聞いていたから、
その熱のせいなんじゃないかとも思えました」と、
糸井は翌日の「今日のダーリン」に書きました。
とくに白熱したのは最後の質疑応答の時間で、
会場の方からたくさんの質問が挙がったんです。
その様子もふくめての全7回、
どうぞご覧ください。

※今回の対談は、佐々木俊尚さん、松浦弥太郎さん、
灯台もと暮らし、箱庭が運営する
コミュニティ「SUSONO(すその)」の企画で
おこなわれました。
「SUSONO」については、こちらからどうぞ
3週間無料のクーポンもあるそうですよ。
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第5回:「ないな」と思ってからがおもしろい。
糸井
ぼくは田舎と都会を
行ったり来たりできるような環境が
理想だと思うんです。
つまり、山や川に囲まれているところに、
小さい都会をつくれればいいなと。
佐々木
それって、たとえば
都会から移住した人たちが
ちいさなコミュニティをつくって、
10人とか20人くらいの移住者同士が
集まるカフェをつくったりしてますけど、
ああいうのでもいいんでしょうか。
糸井
その規模じゃダメかもしれないです。
限られすぎてるから。
ぼくが例に挙げているのは、
どちらかといえば都会寄りのコミュニティです。
たとえば下北沢という街には
ちいさな劇場がいっぱいあって、
演劇関係者が集まっていて、
その街ではたらくアルバイトも
演劇関係者だったりしますよね。
芝居というものが人々の中心にあって、
それが消費をつくって街を動かしている。
佐々木
それで一つの経済システムが
成り立っているっていう。
糸井
生産力があるんですよね。
東京から移住した人が20人いてもそれはできない。
有り体に言えば、寄生的になっちゃうんです。
佐々木
その人たちだけじゃ成り立たないですもんね。
糸井
そこに、たとえばダムの門を監視する仕事とか、
なにか仕事があればいいんですけど、
なかなかそうはいかないですから。
佐々木
いまって、日本のだいたいの地方都市が
大企業の出先の支店があるだけに
なってしまっていて、
町独自のローカル経済が
なかったりするじゃないですか。
これからそういうローカル経済が
成立するような仕組みをつくって、
すべてをそこで成り立たせれば、理想的ですよね。
糸井
そこに名物が生まれたりしたら
もっと最高ですね。
佐々木
名物?
糸井
たとえばフィリピンではいま、
語学が名物になっていますよね。
昔、ぼくも行ったことがあるんですけど、
当時は、体中にホタルがついて、
もう電飾人間みたいになるくらい、
何もないところだったんです。
いまは「語学で人を呼べる」ということで、
産業が回っていくから、
そこで食えている人たち用の施設が
どんどんできていくわけです。
佐々木
なるほど。
いま東京から地方に若い人が出て行って、
いろんなことをやろうとしています。
ただ、さきほど糸井さんがおっしゃったように、
まだちいさいんですよね。
どうしても少数のコミュニティを
つくって終わってしまう。
糸井
規模がちいさいというのもそうなんだけど、
競争力って何なんだろう、と思うんですね。
東北の復興の手伝いをしているときに
思ったんですけど、
本来は、全国区の社会の中で比較して
「おいしい」とか「まずい」とかを
判断して言うべきなのに、
被災地でつくった、という理由だけで
「おいしい」といわなきゃいけない空気がある。
競争力のある商品を考えられたら
自立できるんだけど、
「被災地だから買ってあげなきゃ」
みたいな空気に支えられている商品は、
いつかなくなっちゃうと思います。
佐々木
いつかは、だんだん薄れていきますもんね。
糸井
たとえば、みんながほしがる日本酒を
つくっているところは、
明らかにちいさい会社でも競争力がある。
人がほしがるものをつくれるかどうかって、
地方であっても、
東京の人がどこかのビルの中で
一生懸命考えたことと
実は戦っているわけですよね。
そのクリエイティブが
どんなふうに生まれるのかというのに
非常に興味があります。
佐々木
山口県の旭酒造の「獺祭」がそうですよね。
あの日本酒も、社員だけでつくると決めて、
1年に1回しかつくれなかった日本酒を、
冷蔵システムを開発して
年2回つくれるようにして、
いま世界中で大人気なんです。
まったく東京の人の手は入ってない。
糸井
「関サバ」もそうです。
「ここで獲れたサバうめぇんだぞ」と
言っているだけじゃなくて、
処理の仕方で新鮮度を保つ方法とか、
品質をどこで揃えるかまでを考えてブランド化した。
「ブランド化しましょう」ってところまでは
みんな言うんだけど、
本当にブランド化するってどういうことかまで
考えている人は少ないと思います。
佐々木
いまのお話のように、
地方にも新しい経済の可能性があるとして、
そこに向かって若い人たちは、
これからどういう方向を見て行けばいいんでしょう。
たとえば、仕事をやめて
いきなり移住するっていうわけにもいかないし、
どうしたらいいんでしょう。
糸井
いまいる場所が、どう良くて、どう悪いかを、
まずはちゃんと見つめるべきだと思います。
自分がやっている仕事、与えられた仕事、
自分から取りに行った仕事、
隙間に入れた仕事、
自分がつき合っている人たち、
そういうものの良いところが
見つけられてないような気がするんですね。
もっといい条件というのが、
隣の芝生的にあって、
「そこなら」って思っているような気がします。
佐々木
まあ、それはあるでしょうね。
糸井
人から見たら「羨ましい」と思われる部分が
みんな絶対あるはずだと思うんです。
たとえばぼくなんか、大学を中退してるから、
キャンパスライフを送った人が羨ましいわけです。
佐々木
なるほどね。
糸井
ほぉーっと思うんです。
ああ、インタビューされたら、
おもしろがられるぞっていう部分を、
自分にもっとインタビューしたほうがいいと思います。
佐々木
ぼくは、世の中の人が
全員プロフェッショナルだと思っているんです。
たとえば、日頃、
どうでもいいツイートをしている人が、
突然コンビニの話になったら、急に、
「私は実はコンビニ店長なんですが」って、
ダーッと流通のことを
しゃべりだしたりとかするのを見ると、
なんか、その人たちの強みって必ずあるんだな、
というのを感じます。
糸井
あと、若いというだけで、
吸収できることの分量は
ぼくらよりずっと多いわけです。
そこもやっぱり強みですよね。
佐々木
自分の強みが、いったい何なのか、
何ができるのかというのを
きちんと検証しつつ‥‥。
糸井
「ないな」と思ってからがおもしろい。
佐々木
「ないな」って、糸井さんでも思うんですか?
糸井
何度も思いますよ。
それこそ、フリーで書く仕事とかやっていたら、
何かの専門家という人以外は、
「俺、本当は何もないな」と思うでしょうね。
たぶん、佐々木さんの仕事も、
相手との関係でつくられているものですよね。
佐々木
おっしゃるとおりだと思います。
糸井
そういう「人の良さ」って何なんだろうと。
あるいは、この人の前だと何でもしゃべれる、
というのも、ひとつの取り柄ですよね。
その人を好きな人がいるというだけで、
すごいじゃないですか。
佐々木
誰からも好かれていない人って、
そうそうはいないですよね。
よっぽど孤立を選びたい人は
そうかもしれないけど、
普通の人はそんなことないし。
そこを考えれば、
まずは、自分のいる場所や、
人との関係を見直して、
自分の仕事の方向性みたいなものを
きちんとつくっていく、ということですかね。
糸井
そうですね。
主観の話にしないでくれって
よく言われるんだけど、
科学の話にするわけにはいかないので。
やっぱり、何でも喜んでやっている人のところに
仕事は来るとぼくは思います。
(続きます。次回は質疑応答の様子を掲載します!)
2018-06-30-SAT