はたらくことのおもしろさ。 佐々木俊尚×糸井重里 はたらくことのおもしろさ。 佐々木俊尚×糸井重里
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんと
糸井重里が「はたらくこと」をテーマに
トークイベントを行いました。
話はさまざまな方向に転がり、
「(よくしゃべったのは)会場の若い人たちが
とても真剣に聞いていたから、
その熱のせいなんじゃないかとも思えました」と、
糸井は翌日の「今日のダーリン」に書きました。
とくに白熱したのは最後の質疑応答の時間で、
会場の方からたくさんの質問が挙がったんです。
その様子もふくめての全7回、
どうぞご覧ください。

※今回の対談は、佐々木俊尚さん、松浦弥太郎さん、
灯台もと暮らし、箱庭が運営する
コミュニティ「SUSONO(すその)」の企画で
おこなわれました。
「SUSONO」については、こちらからどうぞ
3週間無料のクーポンもあるそうですよ。
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第7回:「普通でありたい」と願ってる。
女性
(質問者)
来年、就職活動を控えているんですけど、
いまの若者に求めることとか、
こういう人材が会社にほしい、
といったことがあれば教えてください。
佐々木
「ほぼ日」は新卒採用していますか?
糸井
新卒採用という形はとっていないんですけど、
新卒の人が混じった場合に採ることもあります。
いろいろ考えましたが、
採用って本当に難しいです。
どうしてもこの場所に
この仕事ができる人が必要だ、
というケースもあるので、
その場合には、もちろん呼びかけるんですね。
そういう「何々ができる人」が
仮に10人集まったときに、
どの人を採用するかというと、
結果的には逆算した発想をします。
その人がしばらく会社にいたとして、
みんなから「いい人来たよね」と言われる人かどうか、
そこを逆算して、その要素を見出すんです。
だから、うちは募集のテーマは
「いい人募集」なんです。
佐々木
「いい人」ですか。
糸井
そう。うちの子どもが小さいときに、
「なんで勉強しないといけないの」
と聞かれたことがあって、
そのときぼくは、
「あまりバカだと友だちの役に立たないだろう」
と言いました。
会社の仕事もそういうところがあって、
「ほぼ日が大好きです」と言うだけでは、
それはいい人にならないんです。
やっぱり、いい人って、
どこかで貢献してくれてるんですよ。
「誠実と貢献」というのがぼくらのテーマで、
「誠実」は、自分で判断できる基準です。
「貢献」は、みんなが認めてくれることです。
その二つを大切にしています。
男性
(質問者)
糸井さんが人をマネジメントする上で、
大事にしていることを
教えていただければと思います。
糸井
マネジメントに関する本を
つくりたいと思っていて、
実際につくりかけて、
ほぼ1冊分できたんだけど、ボツにしました。
なぜかというと、
本当に大したことないんですよ。
思いつきでやってみたことが
結果的には案外よかった、
という程度のことならあります。
たとえば、うちには
「席替え」という制度があります。
他の会社を見ていて気づいたんですが、
経理や総務の人と制作チームの人たちって、
互いの業務がかけ離れているぶん、
どうしても仲が悪くなりがちなんです。
それが嫌だから、3ヶ月に1回、
くじ引きで席を変えるんです。
そうすると、自分と全然違う
仕事をしている人が隣に座って、
「何やってるの」なんて言いながら仕事ぶりを見て、
「こいつはこいつで大変なんだよな」
「ああ、あんなこと俺にはできないな」
というふうに互いに敬意が生まれますから。
佐々木
部署ごとに固まらないんですね。
糸井
固まらないです。
それもマネジメントの一つですね。
ただ、マネジメント論と言えるようになるには、
まだまだで、プロ野球選手になる前の、
やっと「甲子園に出られるかな」
みたいな会社なんですよ。
男性
(質問者)
糸井さんのお話をうかがっていると、
すごく普通な感じがするというか、
物事を上から眺めずに
低いところから見ている感じがしますが、
それはどうしてでしょうか。
糸井
一番短い答えで言うと、
「普通でありたい」と
いつも願っているからだと思います。
普通じゃないことを思ったときに、
「思ってるぞ」って、いつも自分が注意してるんです。
佐々木
「普通であらなきゃ」というのは、
どういう理由からなんですか?
糸井
普通の人だから。
大したことないのに、
大したやつぶっている人を見ると、
ああなりたくないなと思うから。
すごい人がものすごく普通にしている、
という姿もたくさん見るんですけどね。
女性
(質問者)
仕事と遊びに関する話で、
「シソブ」みたいな言葉があっても
いいんじゃないかという話がありましたが、
私は、はたらくことに対して、
遊びの時間を削ってでも頑張ってはたらかないと、
と思ってしまっています。
仕事をたのしむために、
主観の切り替え方のポイントなどがあれば、
お聞きしたいです。
糸井
人のいいところを探す、
ということに近いんじゃないでしょうか。
たとえば、佐々木さんとぼくは
敵対していない世界にいます。
そこでは、佐々木さんのなかに
おもしろい部分をぼくは見つけたいし、
実際に見つけているんですよ。
それは、もうすでにたのしいんです。
だから、いい景色の温泉町に行って、
わーーって言うのは、
言わない人よりも、仕事になっていると思います。
佐々木
仕事だと思った瞬間に、
なんか感動しちゃいけないみたいに
思ったりしますよね。
糸井
料理評論家の人で、
中華料理だけは書かないようにしている、
という人がいるんです。
それは、全部の食事が
書かなきゃならない対象になるのが嫌だから。
その気持ちもわかるんです。
だから、もしかしたらぼくは、
佐々木さんおもしろいな、と思ってるのも含めて、
仕事をしすぎなのかもしれないです。
女性
(質問者)
「ドコノコ」は儲からないけど、
誰かが喜ぶことはやったほうがいい、
というお話がありました。
それに関連することで、
私は、いま勤めている会社で、
どうしてもやりたいことがあるんですけど、
それがどう売上につながるのか、
そういうところをどうしても
説明とかを求められてしまうんです。
自分の喜びは売上ではないのに
会社には売上を求められるというときに、
どう折り合いをつけていけばいいでしょうか。
佐々木
そこをかいくぐる方法を覚えるのが、
もう一つの社会人の仕事かなとも思います。
ぼくの知り合いの編集者で、
日ごろは自己啓発本をつくっている人がいます。
嫌で嫌で、本人はしょうがない。
でも、それをやらないと会社には認めてもらえない。
だから、一生懸命つくるんです。
だけど、その本を3冊出すと、
1冊だけ自分の好きな本を出していいと
会社から言われるんですね。
だから、年に3ヵ月だけたのしい時間があって、
残りの9ヵ月は死んだように仕事をしているんです。
でも、ちゃんと実績は出している。
そういうのが社会人だと思います。
なので、そっちの方向で、頑張ってください。
糸井
ぼくの答えは簡単です。
あなたが社長の会社をつくればいいんです。
「儲からないけど、いい考え」って、
ちょっと聞いてみたいけど、
きっと大したことないと思います。
儲かるんですよ、だいたいのいい考えは。
つまり、人が支持してくれるということの
延長線上に「儲かる」があるわけだから。
「ドコノコ」も、
ぼくは丸々ダメだと思ってないんですよ。
お金使いすぎてるだけかもしれない。
それはぼくが社長で、
いわゆるポートフォリオ型に
仕事をしてるわけだから、それでいいし、
自分が社長になれば、そういうこともできます。
女性
(質問者)
考えることができることが財産、
というお話がありましたが、
いつごろから、そんなふうにたくさん
考えるようになったのでしょうか。
糸井
ちっちゃいときから
遊ぶときには考えてますよね。
石蹴りしてようが、草野球してようが、
何かを考えています。
大人になると、人がいいことを考えてるのが
カッコいいと思えるようになるんです。
そこにたどり着いてない場合には、
自分が、うわーっと思うし、
もっとできるんじゃないかなと思うこともあるし。
それから、あきらめざるを得ないというときに、
あきらめたくないなと思ったら、
考えざるを得ないですよね。
若いときで言えば、誰か好きになって、
さあどうしようという時点で、
もう考えてるじゃないですか。
偶然会ったふりをしよう、とかさ。
ああいうことの延長線上なんですよ。
女性
(質問者)
そこに苦しみ、みたいなものはあるんでしょうか。
糸井
苦しみますよ。
なかなかホームランが出ないですからね、
ホームランの快感を知ると、
ヒットじゃ満足できなくなったりするから、
不自由なからだになるんです。
そこは苦しいですけど、
さきほど言った、
「自信はないけど、できるような気がする」
という思いはずっとあります。
佐々木
考えることって何かを
もう一度定義しなおすというか、
捉え直すことが大事かもしれないですね。
‥‥という感じで、みなさん、
このあたりで締めましょうか。
糸井さん、今日はどうもありがとうございました。
糸井
こちらこそ、ありがとうございました。
(終わります。最後までお読みいただき
ありがとうございました!)
2018-07-02-MON