糸井 |
ちょっとまた、
絵のタッチが変わる話に戻るんですが。 |
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さそう |
はい。 |
糸井 |
絵が変わるというのは
「文体が変わる」みたいなことだから、
ほんとうはエライ騒ぎになることですよね。 |
さそう |
ええ、そうですね(笑)。 |
糸井 |
さそうさんは「自分で飽きるから」
という理由でそれを変化させてきた、と。 |
さそう |
あの‥‥たとえばものすごく
売れているマンガを描いている人は、
そう簡単に絵柄を変えられないと思うんです。 |
糸井 |
うん、そうなんでしょうね。 |
さそう |
ぼくはだれにも文句を言われなかったんですよ。 |
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糸井 |
はぁ〜。
読者から「絵が変わって違和感があります」
みたいな感想がくるようなことも
なかったんですか。 |
さそう |
みなさんやさしい人なので、
あまりそういうことを言わないんです。
‥‥あ、でも、たまーにあったかも。
「昔のほうがよかった」って、
ボソッと言われたことはあります(笑)。 |
糸井 |
なるほど、そうですかぁ。
ということはつまり、
いまのお話の流れでわかったんですけど、
漫画家というのは基本的に
絵をコロコロ変えないほうがいいわけですね? |
さそう |
ええ。 |
糸井 |
作家性を通すために。 |
さそう |
パッと見て、だれの作品っていうのが
わかったほうがいいですから。 |
糸井 |
言い方をかえれば、
「プロは絵を変えない」わけですね。 |
さそう |
そう、そうなんですよ。 |
糸井 |
じゃあ‥‥さそうさんはアマチュア?(笑) |
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さそう |
そういうことになります(笑)。 |
糸井 |
また失礼なことを、ごめんなさい。
でも「アマチュア」っていうのは今、
ぼくにとってキーワードになってるんです。
「プロになっちゃいけないんじゃないか?」
っていうことを
最近さかんに思っているんですよ。 |
さそう |
といいますと? |
糸井 |
プロっていうのは
商品をつくるときの名前で、
作品をつくるときはプロではないですよね。
ピカソはプロの画家ではないでしょう。
「商品性」と「作品性」っていうのは
やっぱりちがうと思うんで。 |
さそう |
なるほど。 |
糸井 |
アマチュアとして
いいものを次々につくるしんどさと、
プロとして信頼を獲得し続けるっていうことは、
どっちもありなんですよ。
その上でぼくは、最近よく考えているんです。
「アマチュアとして生き続ける
図々しい道を選べないものだろうか」 |
さそう |
うーん‥‥。 |
糸井 |
さそうさんのように(笑)。 |
さそう |
いや、そんな(笑)。 |
糸井 |
絵をどんどん変えることが
できているということは、
編集の人が了解してるわけですよね。
じゃあ、さそうさんは
編集者にも怒られないんですか? |
さそう |
ええと‥‥怒られないですね。 |
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編集の
かた |
とくべつです。 |
糸井 |
とくべつ(笑)。
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編集の
かた |
とくべつです、
さそうさんはとくべつなんです。 |
糸井 |
はぁ〜。 |
さそう |
でも‥‥じつは自分では、
そんなに急に変えたつもりはないんですよ。 |
糸井 |
そうか、すこしずつ。 |
さそう |
ええ。
ちょっとずつなんだと思います。
『神童』のときと比べると
いまはぜんぜん変わってますけど、
それはすこしずつの自然な変化というか。 |
糸井 |
なるほど、段階的に。
『神童』から『マエストロ』で、
ちょっとこう、1段階あるでしょ。
より男性的な文体っていうか、
ゴツゴツッとした絵柄になりましたよね? |
さそう |
そうですね。 |
糸井 |
で、そのあと、
『さよなら群青』では、
たおやかというか、しなやかな段階に。
ここでもう、3種類の絵がありますよね? |
さそう |
はい。 |
糸井 |
‥‥なんだかおれ、
評論家みたいになってきた(笑)。
すみません、ファン心理のようなものなんです。 |
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さそう |
いや、とんでもないです(笑)。
おっしゃるように変わっているんです。
でも自分の中ではちょっとずつなので、
あまり意識をしてないのかもしれません。 |
糸井 |
マンガって絵であり記号ですからね。
その記号の選び方によって、
「大きい声を出してるときはこれですよ」
っていう読者との了解があるじゃないですか、
言語が。
で、そこのところで、
目の表情をどう描くとか、
口の開け方はどうだとかっていうのを、
そのマンガによって決めているんですよね。
無意識な変化というか。
きっとそれは多かれ少なかれ、
どの漫画家さんもそうなんでしょうね。 |
さそう |
はい、そうなんだと思います。
──絵柄って、すごく難しくて。
読者のみなさんは、パラパラッとこう、
新しい雑誌をパラパラッとめくって、
すぐに自分好みのマンガを見つけるんです。
それくらい、絵っていうのは、
生理的なところで選ばれているんですよ。 |
糸井 |
やっぱり文体に近いですねぇ。 |
さそう |
ええ。
ちょっと線の感じがちがうっていうだけで、
もう読まなかったりする。 |
糸井 |
「つまんなそうだな」とか、
平気で言いますよね。 |
さそう |
はい。 |
糸井 |
恐ろしいことですね。 |
さそう |
恐ろしいです。
でも事実なんです。 |
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(つづきます) |