『さよなら群青』の色と匂いをほぼ日で  さそうあきら×糸井重里
第2回 ものすごくエッチなんですよ
糸井 さっきも言ったんですけど、
ぼくの中には、さそうさんの絵といえば
『俺たちに明日はないッス』のころのタッチが
あったんですよ。
あのときのほうが、やんちゃっぽいというか、
どう言ったらいいですかね‥‥
外側の、りんかく線の描き方が
ずいぶん硬質でしたよね。
本職を前にして生意気な言い方ですけど。
さそう いやそんなことは(笑)。
そうですか、硬かったですか。
糸井 『さよなら群青』と比べてみると、
噴き出すっていうか、
流れ出るっていうか、
出るものの量が
いまのほうがものすごく多いでしょう。
だからぼくは『さよなら群青』が
いちばん好きなんです。
さそう そうですか。
糸井 さそうさんはエロティックな題材を
以前から扱ってらっしゃるけど、
「おれが描いてもエロにならないよ」
っていう安心感で描いてる、
みたいなところがあったんですよ。
さそう ああ‥‥そんな感じでしたか。
糸井 機械的なセックスの動きだとか。
なんていうか、パロディとして
セックスを描いてるような気がしたんですね。
で、『さよなら群青』は、
ほとんど性描写はないのに、
すごくエッチなんですよ。
さそう そうですか(笑)。
糸井 ものすごいです。
さそう (笑)
糸井 たまんないんですよ。
さそう いやぁ‥‥。
糸井 そういう「性」の表現の変化は、
ご自身でそうとう意識なさって?
さそう うーん、どうでしょう‥‥
もともとぼくは毎回ちがう感じなんです。
糸井 絵のタッチが。
わかります、ちがいますよね。
さそう 自分の絵に飽きてしまう
っていうところがあるんですよ。
糸井 ああ〜。
さそう いまちょっと、
大学で漫画を教えるようなことをやってまして。
糸井 聞きました、そうらしいですね。
さそう ええ、京都精華大学で。
そこで教えるようになるまでは、
「絵ってどういうふうに描いたらいいの?」
ということをほとんど考えてなかったんです。
でも教える立場になってあらためて、
「もうちょっとちゃんと絵を描いたほうが
 いいんじゃないか?」
っていうところに目覚めたんですね。
ですから『さよなら群青』での変化は、
それが大きいかもしれません。
糸井 ええと、つまり、
「最近まで、絵は二の次だった」
と言ってしまっていいんでしょうか。
さそう はい。
糸井 おお〜、きっぱりと(笑)。
さそう どちらかというと、ネーム重視でした。
脚本とか下書きの前段階のところで、
すごく時間を取ってしまうタイプだったので。
──とにかくぼく、しめ切りが怖くて(笑)。
しめ切りに間に合うためにはなんでもする
みたいな感じだったんです。
絵をおざなりにしていたわけではないんですが、
なんというか‥‥
糸井 「重き」の問題ですよね?
さそう そうです、バランスとして。
糸井 だから、
ストーリーに「重き」をおいていたから、
映画化された作品の数がすごく多いですよね。
さそう ああ、そうかもしれません。
糸井 ご自身は「人気がない」とおっしゃいますが、
映画化の数は多いでしょう。
稀有なくらい多いんじゃないですか?
さそう ちょっとさいきん、集中的になりだして。
糸井 つまり脚本として、
「これは映画化しやすい」とか、
「したらいいだろう」って思わせる魅力が
どれにもあったわけですよね。
でも‥‥‥‥
まぁ、ご自身でおっしゃってるから、
上に乗っかるようにへんなこと言いますけど、
マンガそのものは、あまり当たりはしなかった?
さそう はい(笑)。
糸井 失礼がないように言ってるつもりですが、
もしも失礼だったらごめんなさい。
「当たる」っていうのは、
また別なことだと思うんです。
それとは別なところで、
「映画にしたい」と思わせる力って、
すごいことですよね。
『神童』もそうだし、
『コドモのコドモ』もそうですし、
『俺たちに明日はないッス』とか。
編集の
かた
『トトの世界』という作品も、
NHKでドラマになっています。
糸井 そうですか、それは知らなかった。
『マエストロ』は‥‥?
さそう お話はあるんですけど、
無理だろうなって思うんですよね。
糸井 あれはさそうさんが、
リアリズムでない描き方を
たくさん混ぜ込んでやっちゃってますから、
映画だったら違う方法が必要になりますよね。
さそう ええ。
糸井 そこを知らないで映画をつくっちゃうと、
危ないですよね。
さそう はい、そう思います。
糸井 まあ、映画化のお話はともかく、
さそうさんの作品にはぜんぶ、
もちろん『さよなら群青』もそうなんですけど、
登場人物に物語がついていますよね。
いわば、それぞれの履歴書で表現している。
さそう ええ、わりとそういうのは、
描いていると自然に出てくるので。
糸井 へえー、そうなんですか。すごいですね。
ぼくはすっかりそれにやられましたもん。
下ごしらえがいっぱいしてあることが
わかるんですよ。
すごいんだろうなっていうことが実感できた。
「ここでこいつが出ると、あいつがこうきて、
 そこにあいつがやってきて」
と、まるで自分のことのように、
マンガを読んでて感じられる。
読者としてそれを感じられるっていうは、
もう描いてくれる人のおかげですからねぇ。
いやぁ、感謝しましたよ。
さそう いや、もう、それはほんとうに最大の‥‥。
ええ、ありがとうございます。
糸井 なんだか、一方的なお見合いみたい。
さそう お見合い?
糸井 ほれてる方が、こんなにホメて(笑)。
しかも「色っぽいですね」まで言わせて。
さそう (笑)
糸井 このパターンはたいがいあれですよね、
「お断りします」と言われちゃうケースです。
だから今度は、ぼくがお断りされるんだ(笑)。
さそう いやいやいや(笑)。
  (つづきます)
2010-04-20-TUE
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