糸井 |
さっきも言ったんですけど、
ぼくの中には、さそうさんの絵といえば
『俺たちに明日はないッス』のころのタッチが
あったんですよ。
あのときのほうが、やんちゃっぽいというか、
どう言ったらいいですかね‥‥
外側の、りんかく線の描き方が
ずいぶん硬質でしたよね。
本職を前にして生意気な言い方ですけど。
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さそう |
いやそんなことは(笑)。
そうですか、硬かったですか。
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糸井 |
『さよなら群青』と比べてみると、
噴き出すっていうか、
流れ出るっていうか、
出るものの量が
いまのほうがものすごく多いでしょう。
だからぼくは『さよなら群青』が
いちばん好きなんです。
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さそう |
そうですか。
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糸井 |
さそうさんはエロティックな題材を
以前から扱ってらっしゃるけど、
「おれが描いてもエロにならないよ」
っていう安心感で描いてる、
みたいなところがあったんですよ。
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さそう |
ああ‥‥そんな感じでしたか。
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糸井 |
機械的なセックスの動きだとか。
なんていうか、パロディとして
セックスを描いてるような気がしたんですね。
で、『さよなら群青』は、
ほとんど性描写はないのに、
すごくエッチなんですよ。
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さそう |
そうですか(笑)。
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糸井 |
ものすごいです。
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さそう |
(笑)
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糸井 |
たまんないんですよ。
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さそう |
いやぁ‥‥。
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糸井 |
そういう「性」の表現の変化は、
ご自身でそうとう意識なさって?
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さそう |
うーん、どうでしょう‥‥
もともとぼくは毎回ちがう感じなんです。
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糸井 |
絵のタッチが。
わかります、ちがいますよね。
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さそう |
自分の絵に飽きてしまう
っていうところがあるんですよ。
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糸井 |
ああ〜。
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さそう |
いまちょっと、
大学で漫画を教えるようなことをやってまして。
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糸井 |
聞きました、そうらしいですね。
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さそう |
ええ、京都精華大学で。
そこで教えるようになるまでは、
「絵ってどういうふうに描いたらいいの?」
ということをほとんど考えてなかったんです。
でも教える立場になってあらためて、
「もうちょっとちゃんと絵を描いたほうが
いいんじゃないか?」
っていうところに目覚めたんですね。
ですから『さよなら群青』での変化は、
それが大きいかもしれません。
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糸井 |
ええと、つまり、
「最近まで、絵は二の次だった」
と言ってしまっていいんでしょうか。
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さそう |
はい。
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糸井 |
おお〜、きっぱりと(笑)。
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さそう |
どちらかというと、ネーム重視でした。
脚本とか下書きの前段階のところで、
すごく時間を取ってしまうタイプだったので。
──とにかくぼく、しめ切りが怖くて(笑)。
しめ切りに間に合うためにはなんでもする
みたいな感じだったんです。
絵をおざなりにしていたわけではないんですが、
なんというか‥‥
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糸井 |
「重き」の問題ですよね?
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さそう |
そうです、バランスとして。
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糸井 |
だから、
ストーリーに「重き」をおいていたから、
映画化された作品の数がすごく多いですよね。
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さそう |
ああ、そうかもしれません。
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糸井 |
ご自身は「人気がない」とおっしゃいますが、
映画化の数は多いでしょう。
稀有なくらい多いんじゃないですか?
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さそう |
ちょっとさいきん、集中的になりだして。
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糸井 |
つまり脚本として、
「これは映画化しやすい」とか、
「したらいいだろう」って思わせる魅力が
どれにもあったわけですよね。
でも‥‥‥‥
まぁ、ご自身でおっしゃってるから、
上に乗っかるようにへんなこと言いますけど、
マンガそのものは、あまり当たりはしなかった?
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さそう |
はい(笑)。
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糸井 |
失礼がないように言ってるつもりですが、
もしも失礼だったらごめんなさい。
「当たる」っていうのは、
また別なことだと思うんです。
それとは別なところで、
「映画にしたい」と思わせる力って、
すごいことですよね。
『神童』もそうだし、
『コドモのコドモ』もそうですし、
『俺たちに明日はないッス』とか。
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編集の
かた |
『トトの世界』という作品も、
NHKでドラマになっています。
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糸井 |
そうですか、それは知らなかった。
『マエストロ』は‥‥?
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さそう |
お話はあるんですけど、
無理だろうなって思うんですよね。
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糸井 |
あれはさそうさんが、
リアリズムでない描き方を
たくさん混ぜ込んでやっちゃってますから、
映画だったら違う方法が必要になりますよね。
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さそう |
ええ。
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糸井 |
そこを知らないで映画をつくっちゃうと、
危ないですよね。
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さそう |
はい、そう思います。
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糸井 |
まあ、映画化のお話はともかく、
さそうさんの作品にはぜんぶ、
もちろん『さよなら群青』もそうなんですけど、
登場人物に物語がついていますよね。
いわば、それぞれの履歴書で表現している。
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さそう |
ええ、わりとそういうのは、
描いていると自然に出てくるので。
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糸井 |
へえー、そうなんですか。すごいですね。
ぼくはすっかりそれにやられましたもん。
下ごしらえがいっぱいしてあることが
わかるんですよ。
すごいんだろうなっていうことが実感できた。
「ここでこいつが出ると、あいつがこうきて、
そこにあいつがやってきて」
と、まるで自分のことのように、
マンガを読んでて感じられる。
読者としてそれを感じられるっていうは、
もう描いてくれる人のおかげですからねぇ。
いやぁ、感謝しましたよ。
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さそう |
いや、もう、それはほんとうに最大の‥‥。
ええ、ありがとうございます。
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糸井 |
なんだか、一方的なお見合いみたい。
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さそう |
お見合い?
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糸井 |
ほれてる方が、こんなにホメて(笑)。
しかも「色っぽいですね」まで言わせて。
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さそう |
(笑)
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糸井 |
このパターンはたいがいあれですよね、
「お断りします」と言われちゃうケースです。
だから今度は、ぼくがお断りされるんだ(笑)。
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さそう |
いやいやいや(笑)。 |
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(つづきます) |