糸井 |
そういえば、さそうさんは、
早稲田の漫画研究会出身なんですよね? |
さそう |
ええ、そうです。 |
糸井 |
早稲田の漫研といえば、
東海林さだおさん、園山俊二さん。 |
編集の
かた |
やくみつるさん、堀井憲一郎さんもそうです。 |
糸井 |
へぇ〜、そうでしたか。
マンガはいつごろから描きはじめたんですか? |
さそう |
ぼくは、本当に大学に入ってからなんです。 |
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糸井 |
え? じゃあ高校のときに、
マンガはひとつも描いてないんですか? |
さそう |
そうですね。
学校の先生の似顔絵が好きだったくらいで。 |
編集の
かた |
それは、ラクガキですね(笑)。 |
さそう |
ラクガキです。 |
糸井 |
美術の成績がいい
っていうようなことは? |
さそう |
うーん‥‥美術は3くらいでした。 |
糸井 |
3っていうのは、
どちらかというとよくないですよね?(笑) |
さそう |
はい。 |
糸井 |
せめて4はほしかった(笑)。 |
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さそう |
(笑) |
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糸井 |
いや、でも、
こんなにドキドキする絵を
描いているわけですからねえ。
「生き物っ気」を感じる絵を。 |
さそう |
「生き物っ気」ですか。 |
糸井 |
動物の気配というか‥‥。
今、そうとう、
みんなが飢えていると思うんですよ、
その「生き物っ気」に。
なんていうんだろう‥‥
たとえば「商品」が「生き物っ気」を持つと、
不潔な感じになったりするから
ふつうは敬遠されますよね。
でも、本当はだれもが求めているんです。
わがままな「生き物っ気」とか、
ちょっと汚れている「生き物っ気」に。 |
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さそう |
なるほど。 |
糸井 |
『さよなら群青』を読んで、
やっぱりその「生き物っ気」が、
おもしろかったんです。
このドキドキさせる感じは、
作者はどういうふうに描いてるんだろうって。 |
さそう |
ああ‥‥。
多分それはきっと、
言葉的なことよりは、絵なんでしょうね。 |
糸井 |
うん、絵は大きいと思います。
これがなんとも‥‥
本人は何気なく描いてると思うんですけど、
たとえばここ(ページを指さし)、
冷たい海の中に海女さんがいますよね。
その海女さんの、ほっぺたのところに、
シャシャシャシャッとこう、
アミ線を入れてますよね。
これは「ちょっと寒い」をあらわすくらいの
赤さなんですよね、きっと。 |
さそう |
うーん‥‥。 |
糸井 |
そう、ですよね? |
さそう |
まぁ、そうとも言えます(笑)。 |
糸井 |
いつもの線よりちょっと太いでしょ? |
さそう |
いや‥‥いつもと同じじゃないかと。 |
糸井 |
ええー?
あ、でもほらほら、
ここ(ページを指さし)はもっと太い。 |
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さそう |
ここですか‥‥。 |
糸井 |
強いんですよ、この辺は。
で、こっちはほら、淡いじゃないですか。
なのにこっちはほっぺがすこし‥‥
って、おれは描いたご本人に向かって
なんでこんな説明をしてるんだ(笑)。 |
編集の
かた |
(笑) |
さそう |
でも、言われてみればそんな感じが。 |
糸井 |
でしょ? |
さそう |
たしかにちょっと。 |
糸井 |
ね? |
さそう |
はい(笑)。 |
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糸井 |
つまり、文体なんて無意識ですから。 |
さそう |
ええ。 |
糸井 |
だから、その都度なんでしょうね、
ほっぺたのほんのり具合なんていうのは。
やっぱり、なんていうんだろうな‥‥
生命が、薄皮一枚でいるみたいにさ。
それを感じるのは、言葉じゃないんですよ。 |
さそう |
そうですね。 |
糸井 |
ぼくは昔から女子高生が、冬にね、
肌を赤くして急いでる姿が大好きなんですよ。 |
さそう |
(笑) |
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糸井 |
このマンガそのものが、そうなんです。
皮膚が薄い。
薄い皮膚を透けて血管が流れてるっていうか、
血が流れてるっていうか。
全体がそういうマンガなんですよ。 |
さそう |
ああ(ページを見ながら)‥‥
ここだけちょっと唇が赤い感じですね。 |
糸井 |
唇、赤いです。
無意識にそうしてるんですよね。
これはね、いいセリフのときに、
とくに強調されています。
「海があんまりきれいで見とれとった」
っていうようなね、
こんなキザなセリフは
そのまんまシレッとは言えないですよ。 |
さそう |
ぼくの照れなのでしょうか。 |
糸井 |
うーん。
この薄皮一枚下の命が言わせてるんですよ。
‥‥って、ほんとにこれは、
漫研の会話じゃないか! |
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編集の
かた |
(笑) |
糸井 |
まずいなぁ〜(笑)。 |
さそう |
(笑) |
糸井 |
いや、でも、あのほら、西原理恵子さん。
西原さんの場合は、
皮膚をどかーんと厚くして、
からだじゅうにタコができるぐらいの
ものすごい太い線でガツガツと、
「心なんかない!」っていう状況を描くんです。 |
さそう |
はい。 |
糸井 |
で、「漁師町のお金は魚の匂いがする」
みたいなことを、
絵だけじゃなくて言葉でもぶつけてきて、
もう、一気に描くわけですよね。
女性がそっちを描いてさ、
男性のさそうさんが「薄皮一枚」を描いてる。
おもしろいなぁと思って‥‥。 |
編集の
かた |
かんぜんに漫研の会話です。 |
糸井 |
ああ〜(笑)。
いやだなぁ、まいったな、これは。
しかも描いた本人を前にして、
おれ、弱ったな(笑)。 |
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(つづきます) |