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数年前に
「デザイナーをやめてみようか」
と思った時期があったそうですが、
卓さんは、そのとき、
どのようなことを考えていたのですか? |
時間に追われ、仕事がコントロールできない
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今から、
2年半か、3年前のことですね。
機会をいただいて
仕事をつづけてはいたのですが、
自分のなかで、
「このままで、いいのだろうか?」
という気持ちが、
だんだんと強くなっていきました。
与えられた場面で
それなりの仕事はできるだろうし、
昔と比べれば
経験を積んではいたのですが……。
経験がなかったときには、
「どうなるか、わからない」
という不安があるからこそ、
「それが却って
モチベーションになる」とか、
「不安を
克服しようとして
エネルギーが出る」とか、
そういうことにも、なるわけです。
ある程度、経験を積んでくると、
まぁ、それなりにできるだろう、
という感覚が出てくると同時に、
「なにか、以前と、どこかがちがうなぁ」
という焦りが、
だんだん、強くなってゆきました。
自分の仕事の周辺で
いろいろなことが
重なってきた時期でもあるし、
だんだんと忙しくなって、
自分の仕事を、
自分でコントロールすることが
できなくなってきて……
スケジュールを把握するだけで精一杯、
という状態になっていました。
そういった状況を
どうすれば克服できるのかもわからず、
いろいろな面で、
「このまま、仕事を
進めていくのは無理だ」
という気持ちが高まっていって、
いったん、
リセットしようかと思ったんです。 |
このままではダメになる、と思ったときに
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リセットと言っても、いろいろな
リセットがあると思うんですけど、
そのときは……
「デザイナーを、一回、やめてみようかな」
というところまで、至っちゃったんですよ。
「リセットをする」
というのは、もちろん、
「仕事をつづけながら
デザインを見なおしていく」
というふうにもできるのですけど、
アタマのなかで考えていると、
どんどん、どんどん、
「先」に行けてしまうじゃないですか。
それで、
「デザイナーであることを、一回、
やめないといけないんじゃないか」
「デザインとはなんなのかを
客観的に考えるには、
デザインをしていては
ダメなんじゃないだろうか」
というところまで、考えが進んじゃったんです。
デザインをやめて、
何をしてごはんを食べていくか、
ということなんか、
やめてから、考えようと……
一時は、そういうところにいきました。
精神的にも、
追いつめられていた時期がありまして、
今はもう回復しましたが、その当時は、
自律神経が、
すこしコントロールできなくなる、
というところまで来ていたんです。
ですから、
「このままでは、
ダメなんじゃないか」
ということを考えていると、
気がとおくなっていく時期、でした。
考えなければ、大丈夫だったんですけど。
その時期、ある講演会に出る寸前に、
「……あ、ヤバイな。
今日は、ちょっと、
気がとおくなるかもしれない」
と思うと、
ほんとにそうなったことがありまして。
1時間半、
しゃべらなければいけなかったし、
すでに150人ぐらいのかたがたが
席について、
きいてくださる準備ができていて、
中止をするわけにもいかない……。
「すこしだけ、時間を、ください」
横になってもダメで、
半分、気がとおくなりながら
講演会をスタートしたんです。
大きな声を出すと、倒れそう。
だから、
マイクをクチに近づけて……
ちいさな声で、しかも、
言葉と言葉のあいだに間隔をおいて、
ゆっくり、しゃべろうと……。
「来てくださるかたたちとは、
まだ、ほとんど
お会いしてなかったわけだし、
今日は、そういう人になろう」
そう思って、なんとか話せたんです。
「佐藤……卓……です。
本日は……ありがとう……ございます」
1時間、やりとおせました。
人は、たいへんなときにも、
それなりに、アタマがまわるものなんだな、
と、感じたんです。
「……この人は、大丈夫だろうか?」
とは思わせたくなかったし、
知らせたくなかったんです。
休日に、時間を割いて来ていただいて、
何か、来ていただいた気持ちに
お応えしたいと思っていたので。 |
重い荷物を、手渡していくということ
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もちろん、
デザイナーをやめようと思っていた時期も、
オリエンテーションや
プレゼンテーションがいつもありまして、
そこでも、気がとおくなりそうでした。
だけど、仕事のさまざまなことは、
人に、おききしなければいけないですし、
プレゼンも、しなければならないですよね。
そういう状態が半年ぐらいつづいていくと、
精神的にも身体的にも
「ちょっと、限界だなぁ」と思ったんです。
まとまった時間ができれば、
またいろいろ……たとえば、
海外で勉強をやりなおすとか、
いろいろなものを、もう一回、見てみるとか、
デザインから、離れた状態で、
いろいろなものごとに接するだとか……
逆に言うと、
「デザインをリセットすれば、
今まで、
体験したことのないようなことを
体験できるし、
それはそれでいいのかもな」
と、ポジティブに考えていたんですよね。
ただ、やはり、
「それまで
たずさわってきた仕事への責任」
というのも、すごく感じていました。
10年以上、関わっているものには
自分の「子ども」みたいなものを
メーカーと一緒に育ててきている、
という感覚が強くありましたから、
「突然、自分の都合で
やめるようなことをしていいのだろうか」
と、葛藤があるんですよ。
それで、なかなか踏みきれなかったという。
そのあいだに、展覧会も開催していて……
展覧会が終わるころには、
「もしかしたら、
スケジュール管理など、
物理的に、自分の抱えているものを
受けとってくれる人が、誰かいたら、
すこし、状況はラクになるだろうな」
と、考えるようになっていたんですね。
スケジュール管理を
誰かにおねがいするだけでも、
すこしは、ラクになるな、と、
いろいろきいて探していたら、
ひとり事務所にあたらしく来てくれた。
その人が、どんどん、
自分の抱えていたものを
受けとってくれたんです。
何か、重たいものを
持ち歩いていたのが、
荷が重くなくなった、というか……
ラクになったんです。
そうしたら、
自律神経のほうも
自然とバランスがとれてきました。
するとまた、
モチベーションが、あがってきて……
いただいている仕事を
クリアしているうちに、精神的に、
元気になっていったんです。
目の前の
やるべきことをしているうちに、
「仕事をしながら
リセットって、できるんだなぁ」
と感じました。
(次回に、つづきます)
佐藤卓さんのこれまでの
ほとんどの仕事を見られる大規模な展覧会は、
10月21日に開催されはじめました。
これから3か月間、おこなわれてゆきます。
この3か月のあいだに、
みなさんからのデザインについての質問や
佐藤卓さんの言葉への感想などを、
卓さんに伝えてゆこうと考えておりますので
質問や、感想など、ぜひ、
postman@1101.com
こちらまで、件名を「日常のデザイン」として
お送りいただけると、さいわいです。 |