第11回 王道のデザイン、挑戦のデザイン
ほぼ日 「学生時代は、
 リアリティがなかったから
 やるべきことの
 焦点が定まらなかったけど、
 商品を立体物としてデザインすると
 『直径何ミリだし
  値段を伝えないといけないし……』
 と、具体的な条件がありました。そこで
 『買ってもらうには、どうしたらいい?』
 と考えると、手ごたえを感じられまして」

卓さんがそう話していた、デザインの
具体的な条件について、更にうかがえますか?

情報の整理を、ていねいにやらなければ

佐藤 たとえば、
『明治おいしい牛乳』
は、1リットル用の容器と
500ミリリットル用の容器は
細部がけっこうちがっています。
これは
「見た目の印象をおなじものにするため」
にしている作業なんですね。

具体的に言うと、
500ミリリットルのほうが
上下の幅がみじかくなるので
「容器の斜面も、利用する」
「色の境界線を上にあげる」
などと、
細部を変えてあげなければ、
おなじ世界のものには見えません。


「牛乳の『乳』の字が
 見えなくなる可能性があるけど、
 ほんとにこれでいいのだろうか」
という議論もしたわけです。

「成分無調整」の字の場所も変えたし
「種類別牛乳」という言葉は、
商品名の近くに
おかなければならないと決まっていて、
それが、1リットルの容器では
「縦組み」になっているけど、
500ミリリットルの容器ではどうするか、
縦組み、横組み、
情報をどう整理するかは、
実際の作業では、
ていねいにやるんです。


そんなに規則があるとは
見えないかもしれないけど、
いろいろな条件をやまほど超えていく……
このへんは
展覧会でくわしく伝えているので、
ぜひ、見ていただきたいですね。

ふつうに牛乳を飲むぶんには
もちろん、細かいところを、あちこち
見る必要は、ぜんぜんないのですけど、
牛乳の裏を、ひっくりかえしていただくと、
いろいろなデコボコがあったり
数字が見え隠れしていたり……
それらには、ぜんぶ意味があるわけです。
ひとつひとつが、情報なんですね。

それを、展覧会で見ていただいたうえで、
また、ふだんの生活で牛乳をながめてみて、
「これは、あの理由だったっけな」と、
確認していただけるとうれしいんです。 
身のまわりの
なんでもないもののなかに、
ぜんぶ、意味がある。
その意味を知ることで、
自分と牛乳の関係が近づいてくる。

そういうお手伝いができればいいな、
と思って、展覧会場に
おおきな牛乳パックをおいてあるんです。

ウソをついた顔は、バレてしまう

佐藤 クールミントガム、
グリーンガム、
ミントブルー
キシリトールガム……
ロッテのガムのデザインに
携わらせていただいていますが、
そのつど、まず
アタマに思い浮かぶのは
「王道感」ということです。
「王道をゆくものが、
 どういう顔つきであるべきか?」
……ロッテのチューインガムの
デザインをするといつも考えます。


日本では、
チューインガムと言えば、ロッテですから。
たとえば、相撲で言えば、横綱の存在です。
小技を使わない方向を探るということは
毎回、自分では意識していると思うんです。
もちろん、メーカーがちがえば
方針も変わってくるのですが、
ロッテであれば、王道感にこだわります。

キシリトールガムも、
シンボルマークがあって、
キシリトールの文字があって、
バックの色があるという……
基本的には、
おおきなみっつの要素でできていて、
それぞれのパーツが、
あんまり細かいことはしていません。
キシリトールの文字も、
おなじ太さに見えるようにしていますし、
バックも、光るグリーンであるだけという、
言わば、簡単な素材で組みたてられています。

パッケージデザインというのは
プラモデルみたいなところがあるんです。
はじめに、いろいろなパーツを用意します。

パーツは吟味して、いいものを選ぶのですが、
ここでは、簡単なパーツにしているんですね。
ひとつひとつを
できるだけ
簡単な素材にしなければ、
組みあわせたとき、
全体が複雑になってしまう……。
簡単なパーツだからこそ、
組みあわせたときに
チカラを持つという
そういう手法で
やってみたことなんです。

このことも、
展覧会場に、こと細かに記しましたので、
ぜひ、実際にごらんになっていただきたいです。

どれもこれもが、
王道であるべきではないと思います。
二番手なら、
やっぱり、
チャレンジャーの顔で
あるべきなんです。
挑戦者なのに、
王者のふりをしてウソをついたら、
バレてしまいます。


挑戦者には、
挑戦者の顔があります。
たとえば、登場しはじめたときの
「アサヒ スーパードライ」は、
明らかに、挑戦者の顔でしたよね。
それが、王道の顔に
推移していったという、

そういうおもしろさも
デザインにはあるのだと思います。

王者と挑戦者の
せめぎあいはおもしろいです。
たとえば、
アーモンドチョコは、
はじめは明らかに、
明治製菓のひきだし式の商品が
王道でしたけど、
後発のロッテが、
分量を増やしたものを出した。
それでおたがいに競争がはじまって、
今は、昔とくらべると、
おなじような値段で、
そうとうな量のアーモンドチョコが
はいっていますから……
そういう種類の戦いも、あるんですよね。

コンビニエンスストアのなかでも、
毎年、何百種類もの新商品が出ますが、
そこで生きのこるのは
ひとつかふたつ、という激流のなかで、
ずっと、棚にのこりつづけている商品は、
ほんとにすばらしいなと思うんです。
売れなければ、置いてくれないのですし。

それぞれの商品は、ビジネスとしては
たいへんな時期もあったと想像しますが、
それでも、自信を持って
世の中にのこす意志を感じられるのは
すばらしい商品だな、と思います。

名前も、イメージも、
昔から、あまりにも
知れわたっている定番の商品は、
多少、デザインを変更したとしても
どこを変更したのか、わからない……
知らず知らずのうちに
変わっているのだとは思うんですけど、
ほとんどの人の
記憶にのこっているものはおなじ。
そういうデザインは
尊敬に値すると思います。
のこりつづけているからには、
デザインも、大事にされているのですから。
つぎつぎに、デザインが使い捨てにされるなかで
のこりつづけるデザインを
自分はできるのだろうか、ということは、
いつも、考えさせられるんです。

定番のお菓子のなかには、
ふだん、広告を、
ほとんど見かけないものも多いですよね。
もう、広告をしていないのかもしれない。
それでも、ずっとのこっている。
広告をしなくても
買われつづけているのもすばらしいです。

定番の座についたものは、
なんらかのかたちで、
最初に、リスクを超えて
商品化に
ふみきったのかもしれません。
はじめから
あるクオリティの高いものを出すと
あとから追うものに抜かれずに、
むしろ、追われれば追われるほど、
最初に商品を出した価値が高まる……。

そういうことなのかもしれないなぁとは
定番商品については、考えるんです。

(次回に、つづきます)
  佐藤卓さんのこれまでの
ほとんどの仕事を見られる大規模な展覧会は、
10月21日に開催されはじめました。
これから3か月間、おこなわれてゆきます。

この3か月のあいだに、
みなさんからのデザインについての質問や
佐藤卓さんの言葉への感想などを、
卓さんに伝えてゆこうと考えておりますので
質問や、感想など、ぜひ、
postman@1101.com
こちらまで、件名を「日常のデザイン」として
お送りいただけると、さいわいです。

2006-11-24-FRI

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