第10回 食べものが、体をデザインする
ほぼ日 「デザインの考えを
 企業に移植すること」
が、デザイナーの仕事だ、
という佐藤さんの方針を
さらにくわしく
うかがわせてもらえますか?

自然には、絶対に勝つことができない

佐藤 グライダーが
しばらくひっぱられたあとに
ヒモがはずれて
風に乗って飛んでいくように、
デザイナーの手を離したら
ドーンと落ちてしまうような商品なら、
企業のチカラにはならないですよね。

企業とデザイナーが
手をたずさえる距離は、
短い場合も
長い場合もそれぞれですが、
どちらにしても、
商品を風に乗せる
お手伝いができることとか、
「ごいっしょできること」が、
ぼくには、うれしいことです。

グライダーで言うなら、
羽根の位置が悪い、
素材が悪い、
重心の位置が悪い、
機体そのものが重い……
「これは
 羽根のかたちが
 悪いんじゃないかな。
 この断面だと、
 浮力がかせげないでしょう?」
と……
そこを手なおしすれば、飛びますよね。

商品も
それに近いところがあると思います。
だからぼくは、
グライダーの工場に
手ぶらでいくような役割ですね。
なぜ、
道具を持っていかないのかというと、
道具を持っていると、
それで直したくなるからです……
もしくは、
その道具で直せるところしか、
直さなくなる。

だからデザインは
あらかじめ決めないんです。
客観的な判断が
できなくなってしまいますので。

ただし、
「思いのほか飛行機は重かった」とか、
「予想外の風が吹いてしまった」とか、
自然条件とおなじで、
さからえない
予想外のことが起きるわけです。

自然には、
絶対に勝つことができません。
ぼくは、波乗りをしているので
痛感しています。
ぼくが、波乗りを好きなのは、
とてもわかりやすいものだからです。
自分がいかにアタマで
えらそうなことを考えていても、
やっぱり、波乗りの最中には
考えが実行できなきゃ死にます。

アタマだけではダメなんだということを
自分にいいきかせるためにも、
体というのは常に動かしていないと
マズいんじゃないかな、と思うんです。

クチからいれたもので、体はできている

佐藤 体のことは、常に考えています。
体と仕事が
かけ離れていくのは
危険なことだと思うんです。
いわゆる
「言っていることと
 やっていることがちがう」
「アタマばかりが先行する」
というのは
そういうことだと思うんです。


体のことを考えはじめたのは、
十年ぐらい前、だったと思います。

若いときは、
徹夜をしようがなにをしようが、
それなりに平気でしたけど、
十年ぐらい前は、
だんだんいそがしくなって、
好きな波乗りにも、
毎週はいけなくなっていました。
体がナマッていたんですね。

ただ、外見が
おおきく変化したわけでもないし、
まぁ、だいじょうぶだろう、
と感じていました。
「健康です。ぜんぜん問題ないです」
と言われるだろうと思って
気楽に身体検査を受けたら
「体液が、
 超酸性になっている。
 血液が、
 ドロドロになっている」

と言われまして……。

アルカリ性だと
抵抗力があるらしいですし、
陰性(酸性)と
陽性(アルカリ性)でいうと
中庸がいいと言われていて、
だから、玄米ごはんがいい、
とか言われていますよね。

酸性で血液がドロドロだと、
それによって、脳血栓とか、
いろいろな病気になりやすいと……
自分では
ぜんぜん自覚がなかったんです。

それまでは、体のことなら
「波乗りをやっていればいいや」
と思っていたんだけど、
そのとき、はじめて、
体のことを、
ほんとうに考えるようになりました。
半年間、徹底的に
自分の体で実験した
んですよ。

「食べものは、
 比較的陽性のものを食べる」
「陰性は、なるべく食べない」

これなんですけどね。
ただ、陰性のものって、
調べてみると、すごく多いんです。

糖分は陰性、
果物に入っている糖分も陰性、
小麦粉系……たとえば、
うどん、ラーメン、パスタ、パン、
そういうたぐいのものも、
ぜんぶ陰性のようでした。

卵も陰性、
野菜で言うと、たとえば、
ナス、キノコ、じゃがいも、トマトも陰性。
陰性というのは、基本的には
身体をひやす食べものと言われていました。

陽性のものは、
赤身の魚とか赤身の肉などで、
身体が陰性に偏っているから、
比較的陽性のものを食べて
バランスを取ろうと……。
でも、陽性のものばかり食べるのも
体にはよくないので、
中庸のものも食べてください、
と言われました。

「陰性のものは、
 火をとおすと
 中庸に近づくらしいから
 それを食べる」

「てんぷらやあげものは
 酸性だからダメ」

「三年番茶というお茶に
 ゴボウをすって、
 ネギをすって、ミソを入れて
 毎日飲むといいと言われたから飲む」

陰性のものは、
食べないようにこころがけました。
けっこう、半年間、徹底的にやったんです。

もちろん、ダイエットとはちがうから
おなかいっぱい、
たくさん食べていたのですが……
それでも、毎月、1キロずつ、
脂肪が流れだしていくようにヤセたんです。
お坊さんみたいに、ヤセちゃった。

そのとき、

「食べるものは、
 こんなにも
 体に影響しているのだなぁ」

「自分の体は、
 クチからいれるものだけで、
 できているんだ」

 
と、
当たり前のことに
気がついたんです。
クチからいれるものでしか、
栄養は、できていかないのだから、
影響があるに決まっているのは
当然にしても、こんなにも
影響力があるのかと驚きました。

「中性脂肪が落ちるのを
 目の当たりにした」と言いますか……
おでこが、ヤセましたからね。
おでこがヤセたと思うのは、
さすがに、生まれてはじめてでした。

そのときに調べたことで
日本人の体は、
日本の風土でつちかわれてきたものだ、
ということが、
とてもよくわかりました。
たとえば、インドのカレーは、
暑い国で体をひやすために
食べるものらしいんです。

だから、ぐつぐつ、
長時間は煮なくていい。
熱量を使わないでしあげる。
熱量を使うほど、
体をあたためるものに近づくらしいんですね。
インドのカレーはササッと料理して、
スパイスをいっぱい入れて、体を
サーッと涼しくするために食べるわけでして。
マンゴーなど南の果物も、食べると
体がひえるようになっているらしいです。

地域ごとに、食べものと人の循環が
バランスが取れているとも読みまして、
日本人は、日本にいて、
旬のものを食べることが合っているようだ……。
そこから、体と日本人のことを考えると、
日本人は、基本的には
そんなに肉食ではないようでした。

エネルギーのつくものを
食べていたというよりは、
自然のチカラをうまく利用して、
山に降った水を水田に貯め、稲を育てて、
そういう環境で成りたってきたのだなと、
いろいろな方向に、
話はつながっていくように思えました。
だから、自然には勝てないし、
デザインも、
チカラでやるものではないとも考えまして。

(次回に、つづきます)
  佐藤卓さんのこれまでの
ほとんどの仕事を見られる大規模な展覧会は、
10月21日に開催されはじめました。
これから3か月間、おこなわれてゆきます。

この3か月のあいだに、
みなさんからのデザインについての質問や
佐藤卓さんの言葉への感想などを、
卓さんに伝えてゆこうと考えておりますので
質問や、感想など、ぜひ、
postman@1101.com
こちらまで、件名を「日常のデザイン」として
お送りいただけると、さいわいです。

2006-11-20-MON

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