第17回 デザインと商品開発の関係とは?
ほぼ日 商品開発と
デザインの関係について
うかがえますでしょうか。

商品開発からたずさわる仕事が増えてきた

佐藤 今回の
水戸芸術館でおこなわれる
「日常のデザイン」
という展覧会をきっかけに
『チョコ納豆』と
『チョコ★(ほし)いも』
という、水戸名物を出発点にした
ふたつの商品が、生まれています。

いまは、デザイナーが
商品開発にも
関わるタイプの仕事が増えています。
そこは、昔ながらの
デザインとは変化してきているところです。
つまり、
デザインの生まれる背景が
重要なんだということに、
だんだん、
いろいろな人が
気がついてきたのですね。


開発者も、デザイナーも、気づいてきた。
かなり最初の段階から
デザイナーが関わって
最終的にできあがる商品を予想しながら
商品企画を進めていくという仕事が
かなり多くなってきているように思います。
そこで、今回の展覧会でも
なにか、地元のかたがたといっしょに
商品を開発できないかと考えたんですね。

展覧会というのは、通常、
決められた時間にはじまり、
決められた時間に終わるものですよね。
会期が、きちんと、決められています。

ぼくは、
会期が定められている展覧会で、
展覧会よりも前に、
ものごとがはじまり、
展覧会よりも後に、
さらにつづいていくという
そういう試みが
できないものだろうか
と考えていました。


水戸芸術館で
展覧会をやらせていただくことを
きっかけに、なにか、水戸という場所で
試みがはじまり、それが残りつづけるという、
そういう試みができないのか
と思って考えたのが
このふたつの商品開発でした。
商品開発は
今年の2月からはじめましたから、
展覧会のはじまる8か月前から、
ものごとがはじまっているわけですね。

まずはじめに、
水戸といえば納豆だと思い浮かびました。

「納豆で、なにか商品を作れませんでしょうか」
「じつは、チョコ納豆というものがあるんです」

見せていただきました。
すでにある、だるま食品株式会社さんの
チョコ納豆という商品です。

え? と思いました。
チョコも知っている。納豆も知っている。
そのふたつが、
いっぺんにクチの中で溶けたときに
どうなるのだろうか……と食べたところ、
チョコレートの味が、
とても強いものに感じました。

しかし、
チョコと納豆を組みあわせる、
というのは、
おもしろいアイデアだと思ったんです。
チョコと納豆という
微妙でユニークな関係が、
もしも、もうすこし
味に反映されたとしたら、
さらに、商品の個性が
出るのではないだろうか?

そう思って、
だるま食品さんと、
あたらしい共同開発を
させていただくことになったんですね。
もうひとつ、ほしいもという
ひたちなか市を中心にした地元の名産を
チョコと組みあわせた商品を
亀印製菓さんとの共同開発で、
つくらせていただきました。
イモは、女性にものすごく人気がありますよね。
それと、チョコをくっつけられないのかと……。

チョコレート、というのは、
世界中で、好きなかたが多いらしいんです。
「チョコレートが
 好きかキライかという質問をすると、
 9人が好きとこたえ、
 ひとりだけがキライだとこたえる。
 しかも、キライと言ったひとりは、
 ウソをついている」
なんて話もあるのだそうです。
それから、ぼくも、食べもののなかで
いちばん好きなのがチョコレートなんです。

明日、死にます、と告げられたら、
チョコレートをやまほど食べたい……
そのぐらいに、チョコが好きなものですから、
亀印製菓さんと話をさせていただいたときに
チョコとほしいもの組みあわせは、
いままで、まだ、なかった、と言われたときに
「これだ」とスイッチがはいりまして。

このふたつの商品の製作過程は
展覧会場でくわしくわかるようになっているので
お読みいただきたいのですが、
展覧会が終わっても、商品として
生きのこりつづけるかどうかという試みが、
いま、まさになされている途中、なのですね。

情報をおさえたほうが、存在感があるのでは?

佐藤 商品というのは、
非常にきびしい
世の中の波に揉まれるものです。
「キライ」
という人が多い場合には
やはり、世の中に
残りつづけることはできません。
また、もしもいい方法が見つかれば、
改良をしていくことになるかもしれません。
「デザインも、商品も、生きものだから
 生んだら育てていかなければならない」
というのは、
ふだんの仕事をしていてわかるので、
今後、どうなっていくのかを
食品メーカーのかたがたと
相談をしてゆきたいと考えているんです。

デザインの仕事では、 常に
疑問を投げかけていくことが
必要になります。
できあがる最後の最後まで、
当然、これでいいのか、
これだけでいいのだろうか、
と考えますし、また、
最後というのは
そもそもないんです。
商品ができあがっても、
疑問を投げかけなければ
なりませんから。


展覧会をきっかけに
そのような
お菓子の新商品が生まれるというのは
めずらしいことだと思うんです。
デザイナーの役割というものが、
変わりはじめているひとつのあらわれとして
商品開発の過程から関わる姿を、
お見せしたいと思ってできた企画なんですね。

商品の開発に
たずさわらせていただくとわかるのが
「余計なことは、しないほうがいい」
ということです。
かつてのデザイナーは
「中味がほとんど決まっているから
 かたちや色を、つけてくださいね」
という中で仕事をしていましたし、
それ以前にはさかのぼれなかったのですが
それ以前から関わっていると痛感をするのは、
デザインで余計なことをしないほうが
よほど、お客さんにとどくということです。

『チョコ納豆』も、
『チョコ★(ほし)いも』も
会場でごらんいただきたいのですが、
できるだけ、余計なことはしないで、
中味の魅力が伝わるような
デザインにしたつもりです。

パッケージデザインは
『チョコ納豆』のほうは
水戸納豆の伝統的な
藁のデザインを基軸にしました。
グラフィックも、余計なことはしていません。

『チョコ★(ほし)いも』は、
はじめは、アルファベットで、
非常におしゃれに、たとえていえば、
資生堂パーラーにあってもおかしくない、
というものを想定していたんですけど、
ほんとに、それでいいのかと考えなおしました。

水戸からのおみやげが、
洗練されたオシャレなものでいいのだろうか?

むしろ、わかりやすく、
かつ、ちょっとぬるい……
シンプルなバランスのパッケージにできないか、
と検討をかさねた結果、
日本語で表記したパッケージになりました。
★(ほし)が記憶にのこっていくようにして
読んでいただきたいので、ふりがなをふって、
というようなものになったわけです。

おみやげもの売場というのは、
さまざまなおみやげの
パッケージデザインが
いろいろなことを、言っています。

これはいいものです、
名産です、
中味は、こういうものです、
イラストを、つけました……
いろいろなデザインの情報が
やまもりになっているわけですけど、
そういうパッケージデザインが
やまほどゴチャゴチャあるなかでは、
できるだけ、情報をおさえたもの、
単純なデザインがあることで
相対的に目立つのではないだろうかと、
存在感を持ってくれるのではないかと、
そういう思いもこめて、
このようなデザインにいたりました。

(次回に、つづきます)
  佐藤卓さんのこれまでの
ほとんどの仕事を見られる大規模な展覧会は、
3か月間、おこなわれつづけています。

みなさんからのデザインについての質問や
佐藤卓さんの言葉への感想などを、
卓さんに伝えてゆこうと考えておりますので
質問や、感想など、ぜひ、
postman@1101.com
こちらまで、件名を「日常のデザイン」として
お送りいただけると、さいわいです。

2006-12-15-FRI

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