糸井 |
こういう展開、想像してましたか?(笑)
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山岸 |
ちょっと、違ってましたね‥‥。 |
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糸井 |
いつもは大学生ですものね、お相手は。
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山岸 |
ふだんと、ぜんぜん違います。
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糸井 |
じつはぼく、けっこう緊張してたんですよ。
これだけ若い人たちと会って話す機会って
なかなか、ないことなので。
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山岸 |
わたしも。
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糸井 |
先生、われわれは
「話を聞いてくれる人たちの奴隷」
じゃないですか。
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山岸 |
‥‥というと?
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糸井 |
つまり「つまんない」と言われちゃったら
もうおしまい、という意味で。
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山岸 |
‥‥ずいぶんと脅しますね。
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糸井 |
すみません(笑)。
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山岸 |
わたし、だんだん心配になってきました。
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糸井 |
大学生が相手なら
「ああ、あそこでしゃべってるのは教授なんだ」
と見てくれますけど、
今日、ここに来てくれている高校生諸君は
ぼくたちを
「AKB48」と比較することもあり得るわけです。
「こいつ、センター取る資格ないな」とか。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
でも、みんなが明るい雰囲気でよかったです。
ぼくたち、助かりました。
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山岸 |
わたしは、まだちょっと心配していますが‥‥。
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糸井 |
じゃあ、勇気を出して(笑)、
まずはぼくから
今日の趣旨を、簡単にお話ししますね。
先日、発売された山岸先生の新しい本、
『「しがらみ」を科学する』を、
みなさん
お読みになったり、なってなかったり
してると思いますが‥‥。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
山岸先生というかたは
なぜ、社会のなかに「人」がいると
過ちが起きてしまうのか‥‥というような研究を
ずっと続けてきたんです。
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山岸 |
「仲のいいお友だち」や「恋人」という
関係性もある一方、
おたがいの意見を認められなかったり、
いっさい信頼できないと言って
ケンカになってしまう間柄も、ありますよね。
ひどくすると「敵対しあう」関係になって、
殺し合いになってしまったり‥‥。
これ、国と国なら「戦争」という状態です。
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糸井 |
はい。どうして「人間」というものは
そんなふうに、ややこしいのか‥‥と。
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山岸 |
ええ。
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糸井 |
ちなみに、今日みなさんに集まっていただいた
この場所は、
「ほぼ日刊イトイ新聞」をつくっている
事務所なんですけど、
ぼくが、この仕事をはじめるにあたって
勇気を与えてくれたかたがふたり、いるんです。
一人が、もう亡くなられた梅棹忠夫先生。
情報の何たるか‥‥について解説されていた
梅棹さんの『情報の文明学』が
「ほぼ日の父」だとすれば‥‥。
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山岸 |
そのお話、うかがったことあります。
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糸井 |
山岸先生の『信頼の構造』という本が
「ほぼ日の母」だと思っていて。
そこには
「人間というものは
どうしてこう、間違っちゃうんだろう?」
というようなことが、
とてもわかりやすく書いてあったんです。
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山岸 |
学生にゲームや実験をやってもらって
いろんな「検証」やってみた本ですね。
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糸井 |
なかでも「信頼」をテーマにしたゲームが
おもしろかったんです。
はしょって言っちゃいますと、
ようするに
「いちばん正直な人」が
「いちばん勝てた」という実験結果が出た。
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山岸 |
ええ。
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糸井 |
つまり「正直は最大の戦略である」んです。
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山岸 |
はい。
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糸井 |
みんな、そんなことを教わったこと、ある?
むしろ
「正直者はバカを見る」
だとか、
「あの人は正直すぎて
生き馬の目を抜く東京では成功しないよ」
だとか‥‥。
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一同 |
ざわざわ‥‥。
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山岸 |
一般的には「正直な人は、ソンをする」と
言われることが多くないですか?
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糸井 |
ところが、その「信頼」の実験では、
正直な人ほどゲームに勝ち進み、
いちばんになる可能性が高いと出たんです。
ぼくはそれを読んで
「うわあ、これは楽しいなぁ!」と。
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山岸 |
楽しい‥‥ですか。
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糸井 |
だからぼくも「正直者で行こう」と、
「正直は最大の戦略だ」と、
そう思って、仕事をしてきたんです。
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山岸 |
もちろん、単純に
「それですべてがうまくいく」という
わけでは、ありませんけれどね。
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糸井 |
たしかに、そうなんです。
でも、この会社を14年やってきて、
やっぱりぼくは
「正直は最大の戦略である」で正解だったと
思っているんです。
実際、そういう出来事が、あったんです。
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山岸 |
ほう?
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糸井 |
ぼくらは「ほぼ日手帳」という手帳を
つくっているんですけど、
その1年目に起きた出来事でした。
無事に生産が済んで
販売も、まぁそれなりに順調だったとき、
当時の製造メーカーの担当者と
ごはんを食べていたら、
「あの手帳、毎日、頻繁に使っていたら
バラける可能性があるんですけどね」と、
そんなスゴい話を、サラっと言ったんです。
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一同 |
(笑)。
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糸井 |
念のため言いますと、いまの「ほぼ日手帳」を
つくってくれている会社とは
別の会社ですが、
ぼくらとしたら「‥‥え? え!?」って感じ。
だって手帳は、すでに
お客さまの手に渡っているわけですから。
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山岸 |
そんなことがあったんですか。
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糸井 |
はじめから壊れる可能性のある手帳を
売ることなどできません。
ですから、
毎日、頻繁に開いたり閉じたりしても
壊れない構造の手帳を
もういちど、つくり直したんです。
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山岸 |
ほう‥‥。
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糸井 |
当時は、ネットでの販売のみでしたから、
お客さまの連絡先は
すべて、把握できていたのが幸いでした。
すぐに「申し訳ありませんでした」と謝って
新しい手帳を、後から1冊届けたんです。
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山岸 |
全員に? 素晴らしい。
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糸井 |
あくまで
「バラける可能性がある」だけだったのですが
そんな話を聞きながら、
そのままにしておくのはイヤだったんです。
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山岸 |
反応はどうでしたか?
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糸井 |
結果的に言ったら
「バラけるかもしれない」と言われた
初期の手帳は、
問題なく使えたケースが大半だったようです。
だから、ぼくたちがあとから届けた1冊が
余ってしまったので、
みなさん、
まわりの人にプレゼントしてくれたり
したみたいなんです。
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山岸 |
なるほど‥‥。
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糸井 |
そのことが、まだ1年目だったぼくらの手帳を
「売れた人数の倍の人」に、
知っていただけるきっかけになったんです。
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山岸 |
それは「正直にやった」ことが、
結果的に、功を奏した典型的なケースですね。
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糸井 |
もちろん、狙ってやったわけではありません。
すぐ謝って、できるだけのことをしたんです。
でも、その出来事は
「ほぼ日手帳」が、
ぼくらの会社の大きな「柱」へと成長する、
ひとつのきっかけとなったんです。
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山岸 |
反対に「黙っていればわかりゃしないよ」と
しらばっくれていたら、
発覚したとき、
どれほど、大きなダメージがあったか。
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糸井 |
黙っておこうとは、考えもしませんでしたが、
もしそうしていたらと思うと‥‥。
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山岸 |
たいへんなことでしょう。
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糸井 |
今日は、こういう問題について
長く研究されてきた山岸先生のお話を
高校生諸君といっしょに、うかがいたいな、と。
というのも、こんどの山岸先生の新刊は
「社会へ出る」ことについて
漠然とした「怖さ」を抱いている若い人向けに
書かれたものだそうなので。
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山岸 |
ええ。
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糸井 |
それでは先生、よろしくお願いいたします。
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一同 |
よろしくお願いしまーす。
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<つづきます> |