ぼくらはどうして「周囲の目」を気にするのか? 20人の高校生と 「しがらみ」を「科学」してみた。
もう、3度目の登場ですね。 北海道大で社会心理学を教える、山岸俊男先生。 先生の「正直は最大の戦略である」という 「実験結果」をたよりに、 糸井重里は「ほぼ日」を運営してきました。 先生の書いた『信頼の構造』は 「ほぼ日の母」と呼ばれ、 ぼくたち乗組員の必読文献になってます。 このたび、そんな山岸先生が 「社会へ出るのがなんとなく不安だ」 と感じている若者へ向けて、本を書きました。 タイトルは『「しがらみ」を科学する』。 「日本人とアメリカ人、  実際に和を尊重しているのは、どっち?」 「日本は、リスク大国だった!」 「シカトされたら、悲しいのはどうして?」 ‥‥やっぱり、おもしろかったです。 20人の高校生を招いた特別講義、開講です。
 
正直は最大の戦略である。
‥‥なんて、教わったことある?
2012-03-14-WED
  アメリカ人は、和を尊ぶ? 2012-03-15-THU
  日本人は、他人を信用しない? 2012-03-16-FRI
  リスク大国、ニッポン。 2012-03-19-MON
  セカンドチャンスは、ない? 2012-03-20-TUE
  震災のリテラシー。 2012-03-21-WED
  現場の真実、実験の真実。 2012-03-22-THU
  自分の意図を越えて自分を拘束するもの。 今日の更新
 



糸井 そろそろ、この講義も終了の時間が
近づいてきましたけど、
みなさん、何か質問があったら‥‥。
生徒 お聞きしてもよろしいですか?
糸井 どうぞ。
生徒 山岸先生は、ずっと長いこと
研究を続けてこられたということですが、
その長い時間のなかで、
日本の社会で「変化してきたこと」は
何かありますでしょうか。
山岸 この講義の前半で
「他人に対する信頼度」については
「日本人よりも
 アメリカ人のほうが高い」
というお話をしたと思うのですが、
「日本人の
 他人に対する信頼度」それ自体は、
年々、高まっていると思います。
糸井 人と人との関係って
「だんだん疎遠になっている」というのが
一般的な言われかただと思うのですが。
山岸 その「常識」とは、逆だと思っています。

「他人を信頼するようになった」
ということの意味は
「たとえ失敗しても、やりたいことをやろう」
と思うようになってきたことと
関連があると思います。

つまり「セカンドチャンス」が
拡大してきているように思うんです、昔より。
糸井 そうですか。
山岸 この傾向が、今後もさらに進んでいけば
いまの日本の社会制度も
ガラっと大きく変わることもありうるでしょう。

みんなが、
セカンドチャンスに望みをかけるようになれば、
再就職先も見つけやすくなるだろうし、
離婚しても、
よりよい相手とめぐり合うことができたり‥‥。
生徒 それは、一種の「欧米化」が進んでいるとも
言えるんでしょうか?
山岸 そう考えることも、できるとは思います。

ただ、わたしとしては「欧米化」とは
表現しないで、
「セカンドチャンス」については
欧米の考えかたがもっともだと思える社会に
変わってきた‥‥と捉えています。
糸井 ぼくは、よく「モデル理論」みたいなことで
考えたりするんですね。

制度をいっぺんに変えることは難しいけれど、
「こうだったらいいなぁ」
「これはヤダ」
みたいな「いいモデル」と「悪いモデル」が、
みんな、自分のなかにあると思うんです。
山岸 ええ。
糸井 ものごとの「賛否」を調査してみると、
10%から20%は
しっかりした「賛成」や「反対」なんですが、
「その他大勢」は
どっちつかずの位置にいることが多い。

つまり「賛成の陣営」がうまくいきそうなら、
「どっちつかず」は
そっちに、ドッとなだれ込んだりするんです。
山岸 そうですね。
糸井 だから、人数が少なくても
「自信を持って行動している人たち」によって
変化は起こるんですよね。

だから
人々の考えかたが変わっていくためには
みんなにとって
「いいモデル」を考えるのが、重要かも。
山岸 うん、うん。
生徒 ありがとうございました。
糸井 他には‥‥?
生徒 はい。
糸井 どうぞ、お願いします。
生徒 ゲーム理論について、質問があります。

自分の目標を達成するために
行動する人のことを、ゲームプレイヤーと言い、
周囲と良好な関係を保つことばかりに
気を取られている人を、非ゲームプレイヤーと。
山岸 はい。
生徒 ‥‥おっしゃっていたと思うのですが、
何と言うんでしょう、
まわりの人たちが自分をどう思っているのかを
気にするいうとのも、
目標達成の立派なプロセスというか‥‥。
糸井 たぶん「つい気になっちゃう」ことって
どういうことなのか、
というような質問だと思うんですが‥‥。
山岸 うん。
糸井 非ゲームプレイヤーにとって問題なのは、
「周囲の評価」を
目的意識を持って調べるのでなく、
無意識で探っている‥‥ことなんですね。

で、山岸先生の話によると、
いつの間にか
その気持ちが、自分の行動を縛っている。
ついつい。
山岸 そう、「ついつい」が重要です。

指摘されないと気づかないんですが、
非ゲームプレイヤーは
「ついつい、気になってる」んです。

これ、日本とアメリカで調査したときに
「ついつい、気になる」
という
日本語のニュアンスを英語で伝えるのに、
ものすごく苦労しました。
糸井 いわゆる「KY」とかいう言いかたも
訳すの難しそうですね。
山岸 つまり、何が言いたいかというと
「まわりの人が
 自分をどう思ってるか気にしています」
というのと
「つい、気になってる」
というのは、ぜんぜん違うってことです。
生徒 「ついつい、気になる」というのは、
「気にしようと思ってないのに、
 あるいは
 気にしたくないのに」という‥‥。
山岸 そう。
糸井 「自分を失ってる」んでしょうか。
山岸 そういう言いかたも、できますね。
生徒 すみません、ぼくもゲーム理論に関することで
質問があります。

実際の社会だと
ゲームプレイヤーの目的はバラバラですし、
非ゲームプレイヤーと見なされる人も
それはそれで
自己の利益を追求しているわけで、
そうやって
追求していること自体が目的になっていて‥‥
何となくしか、話せないんですけど。
糸井 でも、何となくつうじる(笑)。
生徒 ようするに、確固たる意志を持って
目的を達しようとするとき、
先生のおっしゃる「しがらみ」が
生まれてくるのかなと思ったんです。

言葉のイメージはマイナスですけど、
社会全体として考えれば、
個々の目的を「収束」させていくためには
必要なものじゃないかって。
糸井 「しがらみ」が。
山岸 「しがらみ」は、つくるものじゃない。
糸井 ああー‥‥。
山岸 言い換えると「しがらみ」を「つくる」のは
人と人との関係性であり
「しがらみ」とは
自分の意図を超えて自分を拘束してくるもの。
糸井 つい、つい‥‥だ。
山岸 そう、「つい、つい」なんです。
生徒 あの‥‥よくわからないんですけど、
しがらみと、
社会の規則というのは、違うものなのですか。
山岸 違うものです。

規則は、みんなが集まってつくるもので、
しがらみは、
誰もつくらないのに、できてしまうもの。
糸井 自分を拘束してくる、という意味では
同じように見えるけどね。
生徒 ちょっと、わかった気がします。
糸井 えーと、だいぶ時間も経ちましたけれど、
先生、最後に、何かありますか。
山岸 もう十分に、お話させていただきました。
糸井 今日は、はじめての出会いでしたけど、
こちらは、すごく楽しかったです。

山岸先生、今日はありがとうございました。
山岸 ありがとうございました。
糸井 ‥‥最初は、どうなるかと思いましたけど。
山岸 ずいぶん脅されましたからねぇ‥‥。
糸井 ふだんの授業より、おもしろかったかも?(笑)
山岸 いや、こころが素直ですから、みなさん。
すごく楽しかったです。
糸井 みなさんも
今日は、どうもありがとうございました。
一同 ありがとうございました(拍手)。
糸井 おなか空いたでしょうから、
おにぎりでも何でも、食べてってください。
一同 いただきまーす!
  <おわります>

前へ 2012-03-23-FRI
 


 


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