糸井 |
現代という時代は「自分の意見」を公にするときに
その人の「知性」が
透けて見えてしまうと言いますか‥‥。
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山岸 |
ええ、ええ。
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糸井 |
ぼくは、消費者センターに勤めてる人なんかを
フォローしてるんですね、ツイッターで。
たとえば「振り込め詐欺」に引っかかった人を
どう救済するか、
化粧品で皮膚の異常が出ちゃった人に
どう声をかけるのか‥‥
自分の仕事に、とても参考になるんです。
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山岸 |
他人との関わりかたを、熟知していそうですね。
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糸井 |
科学者でも
間違っていたらきちんと認められる人の言葉は
やはり、信用できます。
そういうふうに、ひとつひとつたしかめながら、
だんだん、
ぼくのリテラシーが出来てきたのかもしれない。
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山岸 |
なるほど。
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糸井 |
ちょっと話が脱線するかもしれませんが、
ぼく、18歳のときだけ学生運動してたんです。
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山岸 |
ほう。
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糸井 |
そのときはもう、
「明日にでも、革命が起こる」くらいのことを
思っていました。
そこでは、
「教室で授業を受けているうちに
戦争に巻き込まれてしまうぞ」という脅しが
まかり通っていたんです。
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山岸 |
うん、うん。
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糸井 |
「世界には、こんなにも非人道的な兵器がある」
だとか、
「国会議事堂の前の道は戦闘機の滑走路なんだ」
だとか、
もう、さまざまあるんです、脅しのネタは。
ぼくも、それに倣って
「おまえら、麻雀してる場合じゃないだろう!」
とか言って、ときにはケンカにもなって。
‥‥あのときは、本当に申しわけなかった。
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一同 |
(笑)。
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糸井 |
運動の現場にいた上級生たちに言われたことを
鵜呑みしてしまったんですね。
でも、そのときの経験は
いまのぼくの「言葉の使いかた」なんかに
相当、影響を与えていると思う。
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山岸 |
わたしたちの世代では、
そういう「正義の話」が、近くにありましたね。
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糸井 |
いま思えば、ぼく、あの歳で経験できたことは
よかったと思っているんです。
むしろ、大人になってから「正義漢」に
ハマってしまうと、
なっかなか、危なっかしいんですよね。
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山岸 |
うん、うん。
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糸井 |
「ルールや規則さえつくれば
それに則って、素晴らしい社会がつくれる」
と、本気で信じちゃうというか‥‥。
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山岸 |
でも、世のなかの「社会制度」というものは
ルールだけで、うまくいくとは限らない。
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糸井 |
そうですよね。
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山岸 |
人間という存在は、本当に「さまざま」ですから、
その「かたち」沿った制度を
つくっていくということが大事でしょうね。
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糸井 |
でも、たいていの「ルールをつくる側の人間」は、
ルールが守られさえすれば
世のなかはうまくいくんだって、つい考えちゃう。
つまり「守らないこと」を、織り込まない。
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山岸 |
うん、うん。
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糸井 |
経済学の分野でも
「人間とは、
必ず自己利益にしたがって合理的な選択をする」
という
「ホモ・エコノミクス」の理論では
すべてを説明しきれないことは明らかですものね。
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山岸 |
ええ、ええ。
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糸井 |
これは、いろんなところで話しているんですけど‥‥
東北の被災地に行くと
「ごちそう」になることがよくあるんです。
旬のカツオのお刺身とか、つみれ汁とかね、
おもてなしを受けて、
本当にいいのかなぁと思いつつ‥‥
うまいもんだから、食べちゃうんですよ。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
するとね、すごくうれしそうなんです。
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山岸 |
被災地は大変な状況なんだから、
ごちそうになって、どうするんだというふうに
ふつうなら
思われてしまってもしかたないけれど。
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糸井 |
そうなんです。
もう、現地の人と友だちになっちゃってますから、
「これってアリなのかね、
本来は逆じゃないのかね」と聞いてみたんです。
そしたら、
「ごちそうしたい、というのも欲望なんだ」と。
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山岸 |
なるほど‥‥。
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糸井 |
映画を見たいとか、食卓に花を飾りたいとか、
きれいな服を着たいとか、
そういうことと、同じだって言うんです。
「俺たちが、そういうことをしたいんだから、
素直に受け止めてくれよ」と。
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山岸 |
うん、うん。
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糸井 |
ただ、お金や物資を一方的に渡すことだけが
「支援」じゃない。
もちろん、衣食住はいちばん大事なんですが、
それだけでは生きていたって楽しくない。
だから、さっきの経済学の問題についても
そういう「人の気持ち」まで
組み入れて考えないと、ダメだろうな、と。
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山岸 |
そうですね。
すごく難しい取り組みにはなるでしょうが。
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糸井 |
たとえば今日、ここにいる若い人たちだと
もう「給料の高さ」だけでは
「就職先」を、決めないんじゃないかな。
‥‥どうだろう?
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一同 |
ざわざわ‥‥。
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糸井 |
一昔前なら、優良企業をランキングして
少しでも順位が上の企業に入りたい‥‥という
ブランド志向が主流でしたよね。
でも、いまは、そういう学生もいる一方で、
いわゆる「いい大学」を出たあと
NPOでプイッとモンゴルに行っちゃう人とか、
かなり多様化してますから。
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山岸 |
うん、うん。
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糸井 |
これも‥‥被災地での話なんですけど、
気仙沼で、とある社長さんと、知り合ったんです。
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山岸 |
ほう。
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糸井 |
そのかたは、貧しい家に生まれて
中学を出たらすぐに船に乗って漁師として稼いだり、
ずいぶんご苦労されたんですが、
いまでは、23の会社を持ってるんです。
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山岸 |
すごいですね。
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糸井 |
特別に何を習ったということは
ないそうなんですが、
「自分がされてイヤだったことはしない」
ということと、
「自分がされて嬉しかったことを
人にする」
ということを信念にされているそうで、
積み重ねてきた自力がすごい。
震災が起きてから、
絶対に車が必要になるだろうと見込んで、
全国から
車を100台、手配して貸し出したりね。
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山岸 |
おお。
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糸井 |
で、その社長さんに
「気仙沼の町は
今後、どうなるのがいいと思いますか」
と聞いたら、
いちばん重要なことは
「どうやって、人口の流出を止めるかだ」
と言うんです。
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山岸 |
なるほど、なるほど。
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糸井 |
気仙沼というのは、
もともと7万人くらいの町でしたが、
犠牲になったかたや、
行方不明のかた、
仕事や住まいがなくなって
出て行かざるを得なかった人を合わせると、
1割以上の住民が、いなくなってる。
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山岸 |
そうですか。
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糸井 |
いかに、人口を流出させないか。
その言葉の重みは、やっぱり、すごかったです。
つまり、意味としては、
ドラッカーの「顧客の創造」と同じなんですよ。
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山岸 |
なるほど。
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糸井 |
いくら、町なみや堤防を復旧させたって
人がいなければダメだろうし、
逆に、人さえいれば、
地域の仕組みは、成り立つわけです。
だから町の復興は「人を得ることだ」と。
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山岸 |
うん、うん。
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糸井 |
あんまり関係ない話になってきましたけど、
つまり、
山岸先生みたいに
実験を通じてロジックを構築してきた人と
お話させていただく一方で、
現場で、実践されてきた人ともお会いして‥‥
どこかに
交差点があるようで、おもしろいんですよ。
どっちも「社会」をどうするか、ですから。
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山岸 |
わたしはこれまで、
本当に、さまざまな実験をやってきました。
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糸井 |
はい。
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山岸 |
そうした実験をつうじて、
なんらかの「真実」に突き当たってきたと、
思っています。
そして、その社長さんのように
現場で自分の直感を信じてやってきた人も
同じく「真実」に突き当たっている。
だから、やがては、わたしたちは
同じ場所に到達していくと思っていますね。
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<つづきます> |