重松 |
タバコを吸うことって、
ささやかな挫折感とも、
関係があるかもしれない。
糸井さんの世代なんかには、
まだ、いっぱい、
若い頃の挫折って、ありましたよね。
でも、一九六三年生まれの
ぼくの世代には、そういうのはない。
だから、禁煙に失敗することが、
ささやかな自己批判のきっかけで……。
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糸井 |
それも、ありうるなぁ。
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重松 |
がんばって、禁煙車を取ってみる。
でも、半分以上
デッキにいて吸ってたりして(笑)。
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糸井 |
そういうことをはじめたっていうことは、
何か、吸うことについて、
重松さんのなかでも、
揺れてはいるんでしょうね。
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重松 |
そろそろ、揺れてきているんですよ。
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糸井 |
ぼく、そんなふうに禁煙を試している時代、
そんなに昔じゃないですよ。
そこから禁煙まで、イッキだった。
でも、年をまたいで、
今、また、吸いたくなったんですよ。
いつだったか覚えてないけど、とにかく
「禁煙っていうことを、去年は、やったなぁ」
って思うときがあったんです。
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重松 |
「いやぁ、よくがんばった、さぁがんばるぞ」
って吸うタイミング?
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糸井 |
そう。
つい昨日かおとといも、
また、吸ってる夢を見ましたね。
「うわぁ、とりかえしがつかねぇな!」
と思いながらも、いや、大丈夫だ、とか、
自分なりにキリッと
立てなおしたりしてもいるんです、夢の中で。
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重松 |
なるほどなぁ。
家で禁煙してみても、食後の一服とか、
「これだけをキープしたい」っていうものを
並べてみたら、一日一箱以上にはなっちゃうし。
実際に禁煙したら、
ぜんぜん書けなくなっちゃったんです。
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糸井 |
なりますなります。
ぼく、最初の一か月、
使いものにならなかったですもん。
『あしたのジョー』が真っ白になった状態で、
一日じゅう会社にいる、という。
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重松 |
(笑)イヤだなぁ。
それだったら、減量苦に耐えられなくなった
マンモス西(『あしたのジョー』のキャラクター)
が、夜中にうどんを食いにいっちゃったほうが、
いいですよね。
ジョーに「見損なったぜ!」とか言われるけど。
たぶん、今、いろんな出版社なんかでも、
どんどん、禁煙にするところが増えているから、
たぶん、マンモス西みたいなヤツが
いっぱいいると思う。
ダーッと走っていって、陰で吸う……。
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糸井 |
いっぱい、いるだろうなぁ。
わざと、トイレの前なんかに、
喫煙所があったりして。
見せしめ的なんだよね。
そういうときに喫煙者が感じる被害者意識が、
どんどん裏返って、
橋本治くん的なドグマを形成しちゃって……
ぼく、その気持ちは、わかるんです。
ただ、タバコをやめると、
タバコを吸ってないヤツが、
いままで文句を言わなかったことに
感謝をしはじめたりもする。
タバコ界をめぐる気持ちについては、
ぼく、今、万能に近いぐらい、よくわかりますよ!
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重松 |
それは、一服したくなるくらい、無敵ですね。
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糸井 |
(笑)うん。
今でも、ぼくは、
ひとりぼっちの状態のときには、
はっきりと「吸いたい」と思いますね。
だから、
作家が吸いたい気持ちは、ほんとによくわかる。
カミさんとどこかに出かけて、
自分だけ先に帰ってくるとき、あるじゃない?
そのとき、自分ひとりで家の中にいると、
「吸おうかな?」って思う。
あの気持ちって、ひどいですね。
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重松 |
手持ちぶさたですし、
パソコンに向かって、
最初の一行を書く前の一服って、
大事なんですよ……。
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糸井 |
うん。
要するに、あの気持ちって、「孤独」なんですよ。
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重松 |
そうそう、孤独の友。
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糸井 |
ですよね?
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重松 |
うん。それに、隠れて吸うところがたのしいし。
何人かで喫煙所に行くときも、
連れションみたいなもんで、
「ちょっと行っとく?」って感じで。
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(明日に、つづきます) |