重松 |
『ニッポンの課長』の企画で、
二十何人の課長さんに会って感じたのは、
「この人たち、
ほんとうに仕事が好きなんだなぁ」
ってことなんです。
例えば、チョウザメ課の課長さんに
将来の夢を聞いたら、
「いずれは、養殖しているチョウザメが
キャビアを作るようになって、
そのあかつきにはキャビア課長になりたい」
と言うんです。
昔の会社員だったら、出世したいから
「チョウザメ部長」になりたいはずですよ。
でも、この課長はちがっていた。
「課長のままでもいいから、この仕事をやりたい」
ということなんですね。
そういう発想って、ありだなぁと思いました。
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糸井 |
みんなが今したい仕事は、
いわゆる、キャリアアップとか、
スキルアップとかではないですよね。
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重松 |
ええ。「アップ」っていう発想じゃないと思います。
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糸井 |
そう……なんかこう、
「もっと、のめりこみたい」っていうか。
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重松 |
そうそう!
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糸井 |
情熱を傾けたいっていうような、
すっごく、青臭い心で働いていますよね。
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重松 |
うん。
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糸井 |
この本に出てくる課長たちは、
みんな、質問に答えるのがうれしそうなんですよ。
重松さんがうまく聞いたんだろうとは思うけど、
仕事をやっているときって、
「この理由でこうやっている」と、
あんまり思わないままの場合もあるんですよね。
特に心の問題は、ね。
だけど、こうやって改めて聞かれてみると、
そこでそれぞれの人が改めて考えて、
「そうか、俺はそういうつもりでやってるんだ」
と、自分でも感心している、みたいな。
そういうインタビューだと思うんです。
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重松 |
それはあると思います。
仕事のプロって、
物事を理論化しているわけじゃないですから。
自分のオヤジの世代を見ていたので、どうも、
「課長=中間管理職=仕事がおもしろくない=愚痴」
という図式があったんですけど、
課長を見ている中で、かつてのその図式も、
見直すようになりました。
きっと、高度成長期の課長さんたちだって、
たぶん、ほんとにやりがいがあったと思うんです。
ところが、そのときは恥ずかしかったから、つい、
「こんなのは、身すぎ世すぎだ」とか、
「宮仕えはツライよ」とか、言っちゃっていた。
たぶん、それを、子どものぼくが、
真に受けていただけなんですよ。
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糸井 |
そうだね、きっと。
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重松 |
含羞を真に受けちゃって、
「課長=ワーカホリック=悲惨」
って思っていたんだけど、きっと、
当時のモーレツ社員の人たちでさえ、
仕事が好きだった部分もあると思うんです。
今の若い世代の課長は、そのへんを
てらいなく「仕事が好きだ」と言える。
そう言えるようになったことは、
すごくいいことだと思うんです。
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糸井 |
今は、課長っていう
肩書きそのものは減ってるって、
重松さんが、最初におっしゃってたけど?
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重松 |
課長職に対応してはいるんだけど、
「シニアディレクター」とか、
そんなのになってるところが増えてます。
ただ、今回よーく思ったんだけど、
「梅課長」とか「チョウザメ課長」とか、
「競争力向上委員会」なんていう
ベタなネーミングって、責任感を生みますよね。
やっぱり、
「自分はチョウザメの仕事をやってるんだ」
とわかるわけですよ。
「新規事業室」とかになるとダメです……。
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糸井 |
その部署は、観念になっちゃいますから。
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重松 |
そうそう。
自分が何をやっているかって、
ブツとしてはっきりしているのは、
大きいなぁと思いました。
そこから、エキスパートとしての自負も
生まれてくるわけですし。
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(つづきます) |