糸井 |
この本の中でおもしろいのは、
それぞれが、酔っぱらわないままで、
「俺に言わせりゃあ!」
って言ってる人たちの集まりなんですよね。
酔っぱらって言ってる人は、
「それまで言えないでいたことを
酔っぱらって言ってる」
だけなんだけど、決してそうじゃない。
|
重松 |
そうそう(笑)。
シラフで語ってるんです。
このルポに関しては、すべての話を、
それぞれの人の職場で聞いているんですよね。
|
糸井 |
人に聞かれてもいい場所で聞いたんだ?
|
重松 |
そうです。職場や現場で。
|
糸井 |
飲み屋じゃなくて(笑)。
|
重松 |
そうです。
その場所も、やっぱり大きかったと思うんです。
途中で電話がかかってきたり、
部長が通りかかったら、中腰になって
「あ、どうも」って挨拶したり、
ドジョウの養殖場だと
泥のにおいがたちこめていたりというのが、
リアルなんです。
これをたとえば、
ホテルを取ったりして取材したら、
ぜんぜん変わると思う。
職場で話すと、やっぱり彼らも、
会社人としての責任を負いますから。
|
糸井 |
おもしろいなぁ。
シラフで「俺に言わせりゃあ……」って
一生懸命言っている人っていうのは、
酔っぱらってそれを言う人と違って、
迷惑なんかじゃない。
やっぱり、課長なら課長としての
「長」の自覚があるんですよね。
|
重松 |
ええ。おそらくその「長」の自覚の頂点に、
矢沢永吉さんもいるんじゃないかな、
「俺に言わせりゃあ!」って……(笑)。
みんな、プチ永ちゃんかもしれない。
|
糸井 |
(笑)そうだね!
あの「矢沢永吉としての気高い心」って、
四割のナルシズムと、
あとは「なんか」ですよね。
プライドっていうのも、
ナルシズムでしょうし……。
そのへんの心の持ち方って、興味があるなぁ。
ぼくは、ひょっとしたら、
「生まれてきてよかった」
という気持ちが、ナルシズムの原点というか、
「自分を大切にする」っていうことに
つながるんじゃないかと思っているんです。
苦労すれば苦労するほど、
生まれてきたことを肯定したい、
と言えるところが、おもしろいですよね。
|
重松 |
そうです。
課長としての彼らは、
自分の居場所を肯定していますよね。
しかもその居場所って、
人事異動の紙切れ一枚で決まっちゃうんだけど、
それでも居心地よく住んでいられる。
|
糸井 |
大水で流された川みたいなところに
棲む魚だってそうですもんね。
そういう対応力をつけるために、
神様は生きものに
いろんな仕組みをつけてくれて。
例えば、人間の体内時計って、
二五時間なんだそうですよね。
見事に二四時間に対応していると、
そのリズムから出られなくなっちゃうから、
事件にも対応できるように
時差ボケをあらかじめ作ってくれている。
そういう神様のプレゼントを
活かすことは何かと言うと……
「人間万事塞翁が馬」で
過ごすことなんでしょうね。
|
重松 |
「人間至るところに青山あり」と(笑)。
|
糸井 |
うん。
要するに、
「『これでなくちゃいけない』と、
しょっちゅう言うべきではない」
みたいなことですよね。
|
重松 |
仕事って、たぶん、
自分の居場所を好きになるところから、
はじまるんだと思うんです。
自分のいるところを
好きになる才能に恵まれた人は、
やっぱり、うまくいくんじゃないでしょうか。
バブル時代とかは、
「ここではないどこかへ」っていうのが、
ひとつのキーワードだったと思うんです。
転職とかいろんなこと含めて、
みんながそういう気持ちで動いていた。
でもなんか、ひとまわりした今では、
「まずは、ここを愛してみる」っていうのが、
ありなんじゃないかと思うんです。
逆に言えば、この場所を愛せないヤツは、
よそを愛すことなんか
できないような気がするんです。
自分の立ち位置を愛せなくってどうするの?
という感じはあります。
|
糸井 |
ぼくも、面接をしてても、
「前の会社がイヤだから面接受けに来た」
って人は困りますからね。
|
重松 |
それも、わかるなぁ。
|
|
(明日に、つづきます!) |