糸井 |
自前のメディアを持つことって、
趣味の釣りをしていて、思ったんですよ。
魚を釣るための手先の技術がいくらあっても、
魚のいないところでは絶対に釣れない。
結局は、釣りって、
「どこに魚がいるか」
を探る情報戦争になるんですね。
魚がいたとしても、
沢山の人が群がっている場所では
釣れなくなるわけですから。
そういうことに触れていると、
今まで、いかに自分が
何も考えていなかったかに気づいたんです。
「コピーが上手だ」なんていう職人の技術は、
仕事をするという大きな枠のなかの
ほんの一部なんです。
他の、ものすごく大切なところを、
ぼくは、コピーだけをやっていたときには、
人に任せていたんだな、と気づきました。
だったら、
「コピーだけじゃ、売れねぇな」と。
どんなに腕がよくても、
ヘンな場所でクジラを釣りあげることは
不可能だから。
そういうことは、
釣りしてるときに、いろいろ考えてました。
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重松 |
そうすると今度は、
糸井さんは自前のメディアを作って、
そのメディアを支える組織を
作らなきゃならなくなる。
そこと、今までの職人仕事との、
いちばんの違いって、なんでしたか?
ラクになった部分とか、
逆に背負わなければ
いけなくなっちゃったものとか……。
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糸井 |
最初には、
背負わなければいけないっていうおそろしさを、
強く感じました。
どうしても、はじめは、
親鳥とひな鳥みたいな関係でやっていくしか、
しょうがないですから。
自分のイニシアチブで動くぞ、
と言っているぼく自身が、
よそのイニシアチブで動く仕事をして、
まずはエサを捕ってこなければならない。
そうしなきゃならないときには、
ゲームソフトの印税だとかは、
バカにはならなかったですね。
広告の仕事にしても、
印税に近いような決裁のできる人と組んで
仕事をする、ということを
発明しなきゃならなかった。
オッケーしてくれる会社であれば、
代理店をとばしてそういう仕事ができるんです。
それをできるようになってからは、
ラクになりましたけど、途中では、
「収入源、ないぞ」って思っていましたから。
いよいよタイヘンかもしれないな、
というときには、
「人件費を削減しろ」という声も出てくるんです。
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重松 |
エンゲル係数が高いわけですね。
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糸井 |
ええ。
そういうときの「人件費削減」の声って、
こちらが貧していますから、
すごい説得力があるんです。
ただ、ほんとうに経営のできる人に、
別の話で会ったときに、こう言われたんです。
「あのね、イトイさん。
イトイさんの会社って、
知恵を売る会社ですよね?
知恵を生み出す原料って、人間ですよね?
その原料費を下げろっていう話は、
ぜんぶまちがっています」と。
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重松 |
へぇー。まさに「人が資本」ですよね。
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糸井 |
うん。
人件費を削ってはいけないって、
言葉としてはわかっていても、
具体的に追いつめられていたら、
見失っちゃうじゃないですか。
その言葉を聞いた後、
ぼくが具体的に何をしたかというと、
別に何もしていないんですけど、ただ、
「貧して鈍するという流れの中には、
入っていかないようにしよう」
と、決意だけはしたんです。
だから、バナー広告はしないし、身売りもしない。
もちろん、当時はそれが主流ですから、
いよいよ苦しいし、
いつ潰れるかは知らないんですけど……
でも、ますます、バナー広告に
象徴されるようなことをやめてやれ、
と思ったとたんに、
気持ちが、ものすごい元気になったんです。
バナー広告や身売りに動けば動くほど、
それまでの自分のやってきたことが
まちがいになりますよね。
でも、そんなはずはない、
っていう気持ちがありました。
「ほぼ日」のおおもとの理屈っていうか、
唯一のロジックは、
「祭りを作ったら、焼きそば屋でも商売になる」
ということですから。
にぎわいの中には、チャンスがある。
どこまでも人が寄ってくるようなことを、
命がけででもやれば、ヨーヨー釣りだろうが
金魚すくいだろうが、だいじょうぶ、と。
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重松 |
興行屋、ですよね。
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糸井 |
そうです。
その上に、いい商品なんかを
販売すればいいわけで。
それで、今はもう、
うまくいっているんですけどね。
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(次回に、つづきます!) |