前回の福井県はカニの話題で盛り上がり、
「フグ・カニ・スッポンを食べると大人」
というお話が出ました。
しかし、また別の食べものにおいては
真のおしゃれか否かを
はかることができるようです。
岐阜県 青ボールペンで書かれた「円空作」。
ほぼ日
今回は岐阜県です。
中部から甲信越の「語り地図」が
つながってきましたね。
みうら
岐阜県、飛騨高山だね。
いいんだ、あそこも。
あのね、飛騨牛というのは、うまいんだ。
ほぼ日
牛‥‥?
みうら
ポッと出だしの若者って、
おかんに買ってもらった服を着るでしょう。
次に、自分で服を買うようになり、
その次にブランド服にいきます。
さらにその上が、ブランド牛なんです。
ほぼ日
ブランド牛ですか。
みうら
ブランド牛という世界があることに
ヤングは、まだ気がついていないんです。
みんな、ブランド服どまりなんですよ。
どこどこの服がいいとか、流行とか
ほんとうはそんなの
どうでもいいことで、
各県でブランド牛を食い尽くすことが、
真のおしゃれなんです。
これは、おしゃれの人全員が
やってることですよ。
「飛騨ですか」とか
「宮城ですか」とか
おしゃれの人は、パッと質問が出るわけです。
「ああ、飛騨ですか」と
その土地の牛で話が盛り上がることが
多々あります。
ほぼ日
はあ。
みうら
いきなりブランド牛に手の出ない人は、
ブランド牛のユニクロと言われている
コロッケ屋さんを訪ねるといいでしょう。
飛騨牛は、コロッケでもうまいですよ。
飛騨牛がくだかれて
コロッケに入っていますから。
あ、ダンボールじゃないですよ、
飛騨牛です、飛騨牛。
コロッケを食っただけでピーンときて、
飛騨牛を食った気になるくらい、うまいです。
岐阜県では、当然、それを食べますよね。
ほぼ日
た、食べもの以外で何か‥‥。
みうら
岐阜県で忘れちゃいけないのが
円空(えんくう)のことです。
ほぼ日
円空ですか。
みうら
やっぱり「くう」ってつくのはかっこいいね。
空海もそうだし、
京都の六波羅蜜寺の
空也上人(くうやしょうにん)もそうだし。
飛行機の出発ロビーで売ってるお弁当は
「空弁」って書いてあるでしょ。
ぼくは「くう」が好きなんで、
あれを「くうべん」って呼んでます。
ほぼ日
それで、円空は、どういう方なんでしょうか。
みうら

円空は、江戸時代の仏師です。
仏師というか、お坊さんです。
修行の旅の途中、
軒下で寝泊りさせてもらったお家に
お礼がわりに仏像を一体掘る、というスタイルで
荒削りな仏像を多数作った人です。
奈良、平安時代からつづいた仏像文化は、
像をトゥルットゥルにしたんです。
そして、トゥルットゥルにして
より人間ぽく見せていく段階が、
「慶派」と呼ばれる
運慶、快慶の活躍した鎌倉期でした。
その、リアルでトゥルットゥルだったところを、
円空という人は、
ほんとうは技術があった人なんだろうけど、
ナタ彫りで粗いタッチを施したんです。

ほぼ日 ツルツルをザクザクに。
みうら それは、仏像を自然のものとして彫る、
という考えだと思います。
円空は、江戸時代に神仏習合を唱えた人です。
神仏習合とは、神様と仏様が
いっしょになるという考え方で、
ある時期、その考え方が
広まった時代があったのですが、
廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で
分離されてしまった。
円空の作った神仏習合の仏像は、
ご神木の木一本から仏の形を掘り出すんです。
ほぼ日 なるほど。くわしくは
梅原猛さんの『歓喜する円空』をどうぞ。
つまり、神の木から
仏が姿を現すということなんですね。
みうら 円空は、仏像を生涯で
15万体彫ったと伝えられています。
そのうち発見されているのは、
5000体とか1万体だそうです。
そもそも一時期は、価値がないものだと、
軒下に放ったらかしにしてあったらしいですよ。
あるお堂に飾ってあった
円空の木彫りの大きい仏像は、
子どものおもちゃになって、
みんなが川でボートにして乗ったりして、
生活に則した、
LDK的な感じになっていたそうです。
尊いんだけども、身近に居られるというのが、
またよろしいじゃないですか。
円空は、岐阜県出身で、
15万体も作られたわけだし、
それはあるだろうとふんで、
ぼくは古美術商を回りました。
ほぼ日 円空の仏像を探す旅ですね。
みうら

古美術商では、大事な壺なんかは
ガラスケースに入ってたりするんですが、
これがワゴンセールのように
置いてあったんですよ。


ほぼ日 これが‥‥。
みうら 値札がうしろに貼ってありました。
青のボールペンで
「円空作」「9800円」
って書いてあって。
ほぼ日 ははは。
みうら

その店のおやじさんに
「円空作ですよね?」って訊いたら、
「円空作って書いてあるもんねぇ」
って言うんです。
でも、それは
そのおやじが書いた字だと思うんです。
おやじも半笑いなんです。
98(キュッパチ)ですよ?
でも、わからないじゃないですか。
15万体彫った中の1体かもしれない。
そして、これね。



こっちは、その後、
円空の技法を後世に伝える
飛騨高山の円空洞という
おみやげ屋さんで買った十一面観音です。
これは複製なのに1万5000円なんですよ。
だけど



こっちは本物なのに9800円なんです。
おかしいよね?

ほぼ日 それは、おかしいですね‥‥。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

本物と複製の値段は近い。
でも、本物のほうが安い。
時を経たいま、仏像彫りが
ちょっとしたブームになったりしています。
仏像を彫るのは男のロマンでしょうか、と
みうらさんに訊ねると、
仏像を彫ったことに執着ができて
そのことばかり自慢する人になって
煩悩が高まるから、気をつけるようにしている、
という答えが返ってきました。
みなさま、
今週もよい1週間をおすごしください。
また次の日曜、みうらさんとともに、
次の県へまいりましょう。
2007-09-16-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい岐阜県ご当地ソング
「ギフト岐阜」を
どうぞお聞きください。