さて今回は、2007年最後の
「みうらじゅんに訊け! この島国篇」です。
これまでを振り返ると、
東北地方はほとんど制覇しているわりに
関西地方や首都圏は
あまりタッチできていません。
では、今年最後の県にまいりましょう。
茨城県 「ひかえおろう」思想のもとに。
みうら 今年最後なんですか。
まだ、メインディッシュの県が
ごろごろ残ってますね。
ほぼ日 首都圏も、愛知県も大阪府もまだです。
みうら できれば早く訊いてもらったほうが
いいと思います。
なぜなら、そろそろ
記憶が薄くなってきていますから。
ほぼ日 まずいじゃないですか。
みうら 最近、本を読んだりして
いらぬ情報を入れてしまったので、
過去のデータがとんだ可能性があります。
記憶を残したいから、もう
本とか、新しいものを
見ないようにしたほうがいいのかな。
ほぼ日 いやいや、そういう話ではないと思います。
が、しかし、いそいで、
今年最後の県くじをお願いいたします。
みうら (手ざわりで)この形は、兵庫県?
ほぼ日 兵庫県はさきほど語りました。茨城県です。
みうら 茨城県かぁ。
ということは当然、水戸黄門の話は
しっかりしなきゃなんないですね。
ほぼ日 そうですね。
みうら 印籠を出されるときって、
ドキドキするじゃないですか。
ほぼ日 ???
みうら 印籠を出されるときって、あるでしょ?
ないですか。
ほぼ日 ないです。
みうら 印籠は時代劇の
「水戸黄門」の中だけじゃないんです。
印籠を突きつけられることは、
現代にもあるんですよ。
それは見えない印籠なんです。
ほぼ日 ‥‥?
みうら 恋愛をしていますと、時折、
印籠を突きつけられることがあります。
「どう思ってんだ」とか、
「決着つけてくれ」とか、
「待ってていいのか、このまま」とか。
ほぼ日 ああー、はい、はい、はい。
みうら それを男の世界では
「印籠を突きつけられる」
と言うんです。
ほぼ日 それは、引導(いんどう)を渡す、のではなく、
印籠(いんろう)を突きつける、んですね?
みうら 印籠です。
印籠は、涙の印籠がいちばん
ハードルが高いです。
女の人が泣きながら
印籠を突きつけてくるとき、
男はタジタジになるしかありません。
しかも、女の人が泣くきっかけは
男には計算不能です。
男が泣くときは、わりと、
「ALWAYS」観たときとか、
わかりやすいんです。
ほぼ日 「ALWAYS」なんですか。
みうら そうです。男はたいがい、
子どもか犬が活躍したとき
泣くんです。
しかし女の人はそれ以外でも泣くことがある、
とは、昔から聞いていました。
男の飲み屋の喧嘩と違って、
筋なんて通ってないんですよ。
「前はそんなこと言わなかったじゃん?」
という反論は通用しないという、
ルール無用のティアーズ
出るでしょ?
ほぼ日 そうですね。
みうら 涙の印籠を
何回「ひかえおろう」されたかによって、
男の価値は出てくるんです。
しかも、水戸黄門の印籠は
「そろそろ出るな」とわかりますが、
涙の印籠は、いきなりです。
いま、これをごらんになっている
男性のみなさまには
「涙の印籠はいきなり出るもんだ」
ということを、ぜひ
わかっておいていただきたいです。
しかも、カク、スケはいないんです。
ほぼ日 カク&スケがいないとさらに気づきにくいですね。
みうら ところで、茨城県には、
黄門像がやたらあります。
やたら見ましたから、
やたら忘れてしまいましたが、
ひとつ、ものすごく大きな黄門像があります。
ほぼ日 ええっと、千波湖の近くのようです。
2mの台座に、
3m60cmの銅像が立っているらしいです。
合計5m60cm。すごいですね。
みうら 人物の銅像で、そこまで大きなものって
意外とないんですよ。
銅像って、等身大が多いんです。
ほぼ日 そりゃそうですよね。
みうら 上野の西郷どんだって
等身大よりやや大きいくらいです。
お遍路をまわっている方は
ご存知だと思いますけども、
四国には、山からぬっと出た
弘法大師がおられます。
ほぼ日 はあ。
みうら それから、鹿児島県にいる西郷どんも
ものすごく巨大です。
腕を組んでおられるので、見上げたときに
頭が見えなくて、誰かわかりません。
大きい銅像で、あとに残るのは、もはや
お釈迦さまだけです。
つまり、銅像とは、
●お釈迦さま
●弘法大師
●西郷どん
そして
●水戸黄門
なんです。巨人であることは
銅像界でもまれなことであることから、
黄門様がどれだけ巨大な人だったかを、
わかっていただけると思います。
ほぼ日 なるほど。
みうら それから、茨城県では
あんこう鍋が有名ですが、
ぼくが食べさせていただいた
あんこう鍋の店では、
仕上げに、よくわからないものを
味噌のように鍋に溶くんですよ。
それがあんこうの肝なのか、泥なのか
わからないんですが。
ほぼ日 泥?
みうら それがすっごい、どぶの臭いがする。
ほぼ日 ‥‥はははは。
みうら ぼくはこれまで各地で
名物を食べてきました。
その都度「名物である」とは言われますが、
「うまい」とは、誰も言っていません。
昔から「名物にうまいものなし」なんて
ひねくれた考え方もありますが、
名物ということが重要であって、
うまいもまずいも関係ないんです。
名物を食ったことが大切で、
食った人の感想なんていらないんですよ。
ぼくは、あんこう鍋に
泥のようなものを溶かれたとき、思わず
「うわ」と言ってしまいました。
とたんに、お店の人にいやな顔をされました。
「郷に入れば郷に従え」と同様、
「名物を食えば名物だと思え」
ということです。
昨今のフード番組の、何かひと言感想を
述べなきゃなんないという動きは
「ひかえおろう」なんですよ。
ほぼ日 ああ、なるほど。
みうら 「ひかえおろう」が大切だ、
ということを茨城県は教えてくれるんです。
水戸には、黄門さまの日があるんです。
ほぼ日 それは「水戸黄門まつり」でしょうか。
8月ごろ、水戸黄門パレードが
開催されるようですね。
みうら 水戸の市長さまが黄門さまとなって
パレードをされるんです。
ほぼ日 市長が。
みうら 黄門さまご一行の後ろには、
オープンカーが控えていまして、
ぼくが見に行ったときは、そこで
夏木マリさんと、宅麻伸さんが、
手を振っておられました。
水戸市にゆかりがおありになるのか、ないのか
よくは存じません。
パレードを見ているあいだずっと考えましたが、
結論は出なかったです。
ほぼ日 おふたりとも、ご出身ではないようですね。
みうら こういうときは
きっと「水戸黄門」に出演していたんだ、と
あっさり思ったほうがいいんです。
ほぼ日 ゲストで。
みうら

でね、ぼくなんかは、つい、
このパレードのギャラはいくらなんだろうとか
「とっぱらい」なんだろうかとか
いらぬことを思ってしまうんです。
自分だったらどのくらいで引き受けるのかな、
ということまで考えましたが、
そんなことは、いっさい
「ひかえおろう」なんです。
だって、関係ないですから。
人は、関係ないことを
考えすぎです。

そんなことは「ひかえおろう」思想のもとでは
制されてしまいます。

ほぼ日 気をつけたいとます。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

「ひかえおろう」と言われるような
自分に関係のないことばかりを考えるよりも、
印籠を出したときのとっさの対応に
関心をもったほうがよさそうです。
みうらさんは、印籠出現時の
予想だにしない自分の行動に
驚くばかりの人生なんだそうです。
そして、そういう驚きにともなって
人生というものは転がるのだそうです。
人は驚く動物です。
理屈をならべても意味がありません。
みなさま、2007年の毎週日曜日、
おつきあいいただき
ありがとうございました。
2008年は1月6日よりスタートいたします。
ちょっと早いですが、
どうぞよいお年をお迎えください。
2007-12-16-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい茨城県ご当地ソング
「涙の印籠」をどうぞお聞きください。