2008年の2県目に移ります。
前回の鹿児島県につづき、九州です。
しかし、この県には、導入部分で
奇妙なモードに入る
巧妙な罠がしかけてあったのです。
佐賀県 おばさんの扉は自由に開く。
みうら 佐賀県ですか。
ええー、何年が経ちますでしょうか、
若者が「それってヤバイよね」と
言いはじめてから。
ほぼ日 「ヤバイ」が若者言葉として定着しだしたのは。
みうら だけど、ほんとうにヤバイことというのは、
きっと戦争のことじゃないですか。
ほぼ日 そうですね。
みうら なのに、ちょっとイケてる服などに対しても
若者は「ヤバイ」を多用します。
けれども、佐賀県ではそれを
「ガバイ」って言うんですよ。
ほぼ日 ふ‥‥。
みうら いまはまさに
「それってガバイよね」という
使い方をしていると思うんですけど。
ほぼ日 いや、ちょっと違うと思います。
みうら ‥‥そうですよね。
『佐賀のがばいばあちゃん』のどこを読んでも
裏原宿のことすら出てこないんで、
ぼくもようやく違うことがわかりました。
でね、佐賀県には
佐世保バーガーがあるんです。
ほぼ日 それは長崎県じゃないでしょうか。
あの‥‥「がばいばあちゃん」については、
もう終わりですか。
みうら もう終わり、終わりです。
導入部でちょっと笑いを取ってみたんですが、
いまひとつだった感じなんで。
ほぼ日 いえいえ、いえいえ。
みうら まぁいいですよ。ところで
佐賀県といえば、とにかく焼物です。
伊万里焼もありますし、日本全国、
あんなに焼いてるところはありません。
ほぼ日 そうなんですか。
みうら もう、佐賀県は何でも焼きます。
呼子(よぶこ)という町では、
イカを焼いています。
ほぼ日 イカですか?
みうら 呼子のイカは、うまいんですよ。
イカの朝市もあります。
イカがどんどん焼かれている朝市の中で
なぜかおばさんの服屋さんが
やっているんですよ。
ほぼ日 イカを中心とした朝市に、服屋さんが。
みうら 長期で旅をしていますと、着るものに
気を使っていられなくなってくることがあります。
ほぼ日 はいはい、わかります。
みうら 短期の旅行でしたら、旅先で
気に入った服をちょっと着てみようかな、
なんてこともありますけど、
そんなパリコレみたいなことじゃないんです、
地方に行くということは。
ほぼ日 と、いいますと?
みうら そこに適した服を
リーズナブルに、快適に着ていく。
それが、旅人の条件でもあるんです。
しかし、ぼくもまだ半端な歳なので、
「おい、ちょっと!!
 駅前に、おしゃれな店とかないの?」
なんて言ったこともありました。
「そんな店はない」「ないです」
この言葉を何度か耳にしたとき、
ぼくは朝市に目をつけました。
ほぼ日 おばさんの服屋さんに(笑)。
みうら 「おばさんの服の店のどこが
 おばさんなんでしょう?」
ということを、突き詰めて
考えたことはありますか?
ほぼ日 ありません。
みうら おばさんが着るから、おばさんの服なのか?
それは、おかしいでしょ?
「紳士が着るから、紳士服」という発想と
おなじなんです。
それは、不自由じゃないですか。
もっと自由でいいじゃないですか。
子どもが紳士服を
着たっていいわけですから。
そういう自由さが必要だとぼくは思います。
おばさんの服は、確かに、安いんですよ。
ほぼ日 安いです、安いです(笑)。
みうら ビームスの3分の1です。
ほぼ日 はははは。
みうら 巷では「やっぱりユニクロが」とか言いますけど、
ユニクロよりも安いです。
特に、店頭の一番前に並んでるやつは、
300円の段階からありますから、
飛びつかない手はないわけですよ。
ほぼ日 ないですね。
みうら しかも、柄がとてもサイケです。
プリントってワンポイントでも高いのに、
おばさんは全面プリントなんですよ。
そのうえ、バックプリントもついてます。
それで300円とはこれいかに、
思ったわけですよ。
ほぼ日 ふはははは。
みうら 「おばさんじゃなくたっていいじゃないか」
と、呼子のおばさんの店に飛び込みました。
案の定、そこのお店の人からは
「大丈夫じゃないのー」って
愉快な声が聞こえてきましたよ。
人というのは、歳を重ねるごとに、
性別をなくす生きものなんです。
ぼくはもう、おばさんになってきているんです。
後ろ姿とか、完全におばさんでしょ?
ほぼ日 うはははは。
みうら 昔は「ロックだね」とか、
「エェーッ、女みたい」とか、
言われていたものです。
でもいまは、限定で、おばさん。
そういうことで、いいんです。
もう性別もなくなって
自由になってきたわけですから。
なのに、服に対してだけは
まだ躊躇があるなんてダメだ、
そう思って、2枚買いました。
ものすごいペイズリーがいっぱい入っている
ピンク色のシャツでした。
ほぼ日 それはまた、思い切りましたね。
みうら はじめは、ステッチの具合や
衿がちょっぴり開いているのが気になるでしょう。
でも「気にしない!」と思うことにして
そのまま2、3時間着てみてくださいよ。
誰も気にしません。自分すら気になりません。
300円で、ポーンと楽になれる、
そんな旅人でいきましょうよ。
でもね、そのシャツは
あまり汗を吸いませんでした。
ほぼ日 ああ、生地がちょっと。
みうら そこで、タグを見てみたら
「MADE IN INDIA」でした。
ぼくたちがあんなに憧れた、インドです。
ああ、これでいいんだ、
おばさんが、いま、インドブームだったら。
ほぼ日 ということは、
真のヒッピー精神を受け継ぐのは‥‥
みうら 真のヒッピーは、おばさんです。
それがわかる旅でもありました。
ほぼ日 おばさん用の服でも
みうらさんのサイズには合ったんですか。
みうら ぜんぜん合います。
おばさんって、フリーサイズなんですよ。
フリー、つまり、自由なんです。
ズボンも買いましたが、
もちろんウエスト部分はゴムです。
誰でも入ります、フリーですから。
ほぼ日 なるほど。
みうら 話をイカに戻しますけどね、
呼子にはイカの「いけす」がある店も
たくさんあります。
そこでは、イカがぶんぶん
流しそうめんみたいに泳いでますよ。
水槽をじっと見ていると、
イカが怒ることがわかります。
イカ同士の体がぶつかったりすると
「ぷーん!」って色を変えるんです。
イカクする、ってやつです。
ほぼ日 ‥‥‥‥。
みうら

「がばい」につづいて、
また言ってしまいました。

ほぼ日 ええっと、佐賀県といえば、
吉野ヶ里遺跡があります。
ここは、縄文ローラーについても、
お話をうかがっておきたいのですが。
みうら ああ、佐賀県は縄文でしたね。
吉野ヶ里遺跡には
縄文人の方がうろうろされてるんですよ。
ほぼ日 え?
みうら 「すいません、縄文の●×△はどこですか」
と訊くと、縄文の方が教えてくれます。
ほぼ日 そういう施設で、そういう係員さんなんですか。
みうら そうですそうです。
いまは遺跡の一部を掘ってるみたいで
ぼくが行ったときは工事中だったんですよ。
それは、かなり不思議な光景なんです。
ほぼ日 というと?
みうら ブルドーザーが入ってる遺跡って、
あんまり見たことないですし。
ほぼ日 まぁ、そうですね。
みうら ISEKIってあるでしょ、
ブルドーザーの会社に。
つまり、ISEKI農機の名前のルーツは、
ほぼ日 ‥‥はは。
みうら あ、またウケなかった。
ほぼ日 がばいとヤバイ、イカの威嚇、
遺跡とISEKIで、
みうら

3つそろいましたね。
ええっと、佐賀県でもうひとつ
ぜひお話しておきたいのが論語カルタのことです。
これ、すごいですよ。


ほぼ日 論語って、中国のですか?
孔子ですよね。
みうら 孔子の教えが
カルタになってるんですよ。
ほぼ日 江戸時代は佐賀県の多久市に
学舎があったようですね。
学問の象徴として孔子が祀られ、
そこが公開されている、と。
おみやげとして売られているんですね。
みうら このカルタで、いちど遊んでみました。
「すなわちをーまなぶー」
「すぎたるはぁ」
「しんーぎ、いにーのるー?」
まず読み札が難しすぎてなかなか読めないので
取るほうがあたふたするんですよ。
「おい、ちゃんと読めよ」
「取りにくいじゃねえか」ということになり、
札を取ったとしても
合っているのかわかんないような、
カルタ大会になってしまいました。
ほぼ日 こりゃ難しい。
みうら しかも、札を読まれたときに
ちょっぴり叱られているような気になる
内容ですね。
まあ、論語は昔々の話ですけどね。
ほぼ日 だいぶ昔ですよね。紀元前ですね。
みうら 論語・ロング・アゴー、
ということを、
締めとして言わせていただこうと思います。
ほぼ日 ‥‥‥‥。
みうら 思います。
ほぼ日 ありがとうございます。
みうら ありがとうございます。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

話をすべてオヤジギャグで締めたとしても、
佐賀県はおおらかに
包み込んでくれる県である
ような気もいたします。
みうらさんは、
「すべての県は平等」と言いながらも、
佐賀県は好きな県のひとつなんだそうです。
来週は、遠くに飛びますよ。
2008-01-13-SUN