県について語るうち、
時間がほどよく経過して
おなかが鳴ることもあります。
そんなときは県と県の境に
休憩をはさみ、
目についたお菓子で
空腹を満たします。
乙女の好物マカロンを食べ食べ
訪れた県は、
カップルが好むあの県でした。
岡山県 2回目で、はじめてわかることがある。
ほぼ日 次は、岡山県です。
みうら ちょっとおなかが鳴ってきたので、
何か食べてもいいですか。
ほぼ日 みうらさん、お昼ごはんは‥‥
みうら 食べたい気持ちはあるんですが、
なかなかね。
ですから夜は、むちゃ食いなんです。
ほぼ日 その習慣は、やめたほうがいいですよ。
みうら

もう、夜ごはんは必死です。
いつも味もわからないほどです。
ええっと‥‥

ほぼ日 岡山県です。
みうら 岡山県‥‥岡山県の倉敷は、
美観地区といいましてね、
そりゃもう、きれいにしてありますよ。
ほぼ日 大原美術館などがある、
白壁の土蔵が並ぶエリアですね。
みうら ぼくは童貞のときに1回、
倉敷に行ったことがあるんです。
何ですかねぇ、旅行ってね、
映画と同じで──
あ、これは男の場合ですよ?
ほぼ日 はい、男性の場合は。
みうら

男性の場合は特に、
「童貞期」と「童貞期じゃない期」の
2回に分けてリピートされることを
おすすめしたいと思います。
つまり、童貞のときに見たことと、
その後に見たことって、
全然ちがうように見えるんですよ。

ほぼ日 そうなんですか。
みうら ぼくが岡山県の倉敷にはじめて行ったのは
高校時代でした。
そのとき、「チッ」って、出たんですよ。
なぜ「チッ」が出たかというと、
倉敷は、カップルばかりだったからです。
こっちは当然、男連れなわけで、
風景を観る前に
カップルを見ちゃってる
んですよ。
童貞はカップルのことが
気になって気になって、
そこの土地を見る余裕がないんです。
ほぼ日 はあ。
みうら しかも、
「ちょっと話のわかるお姉さんが
 話しかけて来ないかな?」
なんて思ってるわけですよ。
つまり「捨てたい」もんでね。
ほぼ日 旅の意味あいがちょっと‥‥
みうら 誰かが恋の手ほどきを
してくれるんじゃないかと思って、
そうやっていつまでも待ち構えていました。
チャンスをミスるとまずいから、
すごくキョロキョロして歩きました。
結局そのまま旅行から帰ってきて
みんなに「思い出は?」と訊かれて
「何もない」と答えるしかない、
そんな記憶があります。
ほぼ日 せつないですね。
みうら そして、童貞期をすぎ、
ずいぶんしてから、
ふたたび倉敷に行きました。
そのときには
「チッ」は出なかったんですよ。
なぜなら、そのときにぼくは、倉敷の町を
はじめて見たからなんです。
余裕を持って美術館にも行ったし
ふつうにガラス細工の店にも入りました。
昔は、カップルがガラス細工を見てるだけで
「引き出物かよ!?」などと、
よくわかんない言葉で
文句をつけていたものです。
つまり、男女が見ているおみやげは
全部引き出物だと思っていたので、
そのこと自体が気に入らなかったんです。
しかし、童貞期をすぎてからは
ずいぶん心の余裕もできて
岡山県を堪能できるようになりました。
ほぼ日 県を味わうにも、
心の余裕が必要ですなんですね。
みうら それから
岡山県には
亀甲駅(かめのこうえき)という、
電車の駅があります。
そこの駅は屋根が甲羅になっていて、
にゅーっと亀の首が出ています。
亀の顔の左右の目が時計になっていて、
駅のホームと外側から
それぞれ時計が見えます。
だけど、右目の時計と、左目の時計の時間が
少しずれているんです。
ホームから外に出た段階で
時差があるんです、あそこは。
ほぼ日 ははは。
みうら

その町は、亀甲駅というだけあって、
いたるところに亀の首のようなものが
ニョキニョキ出ていました。
それはビックリする光景です。
男風呂か!? みたいな状態です。
美観地区には入っていないんですけどね。

ほぼ日 それはその‥‥残念ですね。
みうら

ええ。
岡山県に住む知り合いが何人かいますが、
亀甲駅には行ったことがない、
と言っていました。
でも、ぼくはそこの町を
すごいと思いましたよ。
なにしろ統一感があるんです、亀で。

ほぼ日 みうらさんは、なぜ
そこに行かれたんですか?
みうら 調べてわざわざ行ったんですよ。
‥‥やっぱりあの、何と言いましょうか、
美人とか、ハンサムな男の人がいると
欠点を見つけたくなるんです。
ほぼ日 ああ。
みうら それは人間の本能です。
「こいつだって鼻毛は伸びるだろ」とか、
つい思ってしまうでしょ?
倉敷は美観地区だ、なんて言われると、
ちがうところも探したくなって、
ついつい、行っちゃうんです。
そういう気持ちが
岡山県には働いてしまうということです。
ほぼ日 気持ちはわかります。
みうら そういえば、岡山県には
宮本武蔵が生まれて、
お亡くなりになった町があります。
そこの町には、
「宮本武蔵さんが幼少の頃
 ここでこうしたああした」
などと、いたるところに
書き示してあります。
駅前に地図が貼ってありますので、
行かれたらぜひ見てみてください。
「宮本武蔵生誕の地」と、
「宮本武蔵終焉の地」が
ものすごい近いことがわかります。
道をはさんで向かい側です。
ほぼ日 それはすごいですね。
みうら 人間は、生きてるうちに、
いろいろと旅をしたり、
遠くまで出かけます。
でも、そこでみなさんは
生まれて死ぬまでというのは
こんなに短いのかよ、
道を隔てた1分もかからないとこかよ、
と思われることでしょう。
ほぼ日 宮本武蔵さんといえば、もう
いろいろ行かれたでしょうに‥‥
みうら いろいろ行かれたけど、
こんな100メートルもないとこで
生まれ、死に、
ということなんです。
「人間ってそんなに広いところを
 歩いてないんだ」
という、真理のような、深い人生の哲学が
そこの看板には示されていました。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

岡山県は桃太郎のお話で有名です。
しかし、桃太郎伝説や鬼が島伝説は、
じつはいろんな県にあるのだそうです。
旅人であるなら、
桃太郎にあたらない日はない、と
みうらさんはおっしゃいます。
日本全国ゆかり(縁)好きと
以前、お伝えしたかと思いますが、
もはや、ゆかり争奪戦の様相をも
呈しているのかもしれません。
次週は何のゆかりが
飛び出すのでしょう。
また日曜に、お目にかかりましょう。
2008-03-30-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい岡山県ご当地ソング
「お供になりたい」を
どうぞお聞きください。