おおらかな宮崎県をあとにして、
次は隣の県に向かいます。
おおらかさから一転、そこには
自然からの厳しい問いかけが
待ち受けていました。
大分県 楽しければいいわけじゃない。
みうら (県くじの手ざわりで)
これはなんだか丸い県ですね。
ほぼ日 あ、大分県です。
みうら 大分県といえば別府ですね。
昨今やたら「温泉」「温泉」と言いますが、
別府の地獄めぐりは、
温泉ブームとは一線を画するわけです。
そのことを改めて言った人は、
あんまりいないと思うんです。
ほぼ日 地獄めぐりのことを、ですか。
みうら あのね、入れないんですよ。
これは大きい差です。
みんなが言ってる温泉ブームって
入れる温泉でしょ?
ほぼ日 はい、入れる温泉です。
みうら

別府の地獄めぐりは入れません。
入ったら死にますから。
溶けます、あれは。確実に。
だからこそ「地獄めぐり」と言うんです。

ほぼ日 血の池地獄、鬼石坊主地獄、
かまど地獄、海地獄‥‥
たしかに、泉温98度などとあります。
みうら 人間が思いつくぐらいの
「適温」などということを
自然は考えていないんです。
「自然が人間に合わせてくれる」くらいの調子で
接しているから、
何ていうんですか、温暖化とか、
そういう危機を、いま迎えているわけです。
ほんとの地球はね、
恐いですよ、厳しいもんですよ。
入れるもんなら入ってみろ、
という温泉が、大分県に湧いているわけですよ?
お湯に入る人間はそれを
適温に薄めているんです。
「私、温泉、好き。
 この間も友達と温泉行ったんですよ、
 源泉かけ流しの」
などと言う輩は、その現実を
知らないわけです。
ほぼ日 地獄めぐりは、つまり、基本的に
入れない温泉である、と。
みうら ええ、入れない温泉を見るだけです。
しかも湯気で、
眼鏡がめっちゃ曇るんですよ。
クリンビューでも無理なぐらい、曇ります。
そんなところに新婚旅行で行ったら
どうなるでしょうか。
「頼りがいのある人だな」なんて思ってた
彼の眼鏡が、地獄めぐりでめっちゃ曇ってたら、
ちょっと考えますよ。
眼鏡が曇ってる彼、嫌いでしょ、みんな?
ほぼ日 はあ。
みうら

冬場、ラーメン屋さんにカップルで
バーンと入ったときに、横見たら
彼の眼鏡が曇ってた、なんてこと
ありますでしょ?
恋愛がだいなしです。
地獄めぐりではさらに、
曇りまくらされてしまいます。

ほぼ日 恋愛が遠のきますね。
みうら それから、硫黄の匂いは、当然しています。
町じゅう、しています。
「あっ、誰か、おならした?」
なんて言う人は、
まさかもういなくなったとは思いますけど。
ほぼ日 ますます恋愛が‥‥。
みうら 注意しましょう。
そして、JRの別府駅に降り立ったら
「ここは別府だ」と知らせる
駅員さんの構内アナウンスが流れることでしょう。
注意して聞いてみてください。
「別府ゥー」って、言うんですよ。
ベップゥーと、ものすごく伸ばして
言うんです。そのプゥーはね、
必ず、おならなんです。
「わかってるだろ?」ぐらいな
勢いなんですよ。
ほぼ日 うはははは。
みうら ほんとですよ、それ。
それから、別府の駅を出て
別府タワーのほうに行ってください。
ほぼ日 別府タワー‥‥ですか?
みうら ま、タワーについては
ものすごくくわしいぼくですが、
別府タワーほど哀愁あるタワーはない。
ものすごく寂しい気持ちになります。
最高ですよ。
ほぼ日 タワーなのに寂しい気持ちに‥‥。
みうら なにも、旅は楽しいからいい、
というわけじゃないんですよ?
最近の方々は、「さびれてる」とかいう
言い方をしますけども、
そうじゃないんです。
「どこ行っても賑やかだね」
「人がいっぱい集まってるね」
そんなところは一部です。
旅は「よろしく哀愁」がいいんです。
別府タワーは、ほんとうに哀愁があります。
タワーに登ったら、当然、いる人は
そこの受付の人、ひとりです。
そして、タワーという場所には、たいがい
メダリオンがあります。
ほぼ日 ???
みうら

メダル刻印機ですよ。知りませんか?
バンバンバンバンと打つやつです。
これです。



ぼくはこれまで、あらゆるタワー、
博覧会、記念館において発生している
このメダリオンを
いちいち集めてきました。
メダルを買って、隣の機械に入れて、
自分の名前と日付を刻印するんです。
バンバンバンバンバンバンという音がします。

ほぼ日 すみません、やったことないです。
それは、集めておもしろいんですか。
みうら

いや、打ったのはいいけど、
このメダルじゃバスにも乗れません。
おのれしか価値がない、
しょうがないものになってしまいます。
ところが、別府タワーには
メダリオンの機械がないんです。

ほぼ日 そうなんですか。
みうら やっぱり、哀愁を取りましたね。
哀愁漂うタワーで
たそがれていく別府の海を見ているのに、
メダリオンのバンバンバンババンバンという
音がすると、だいなしじゃないですか。
ほぼ日 別府タワーには
景色を眺める施設以外に何か、
お化け屋敷とか蝋人形館とかそういうものは?
みうら ないです。一切ないです。
おみやげ屋さんがあったらしいんですけど、
ぼくが行ったときは閉店していました。
ガラスの向こうから、
「あ、あんなふうに在庫が」と
のぞいたりはしましたよ。
ほぼ日 じゃ、ほんとうに上に登るだけですか?
みうら そうです。
それも、都会でいろんなビルに慣れてる方には
あまり驚いてもらえない高さです。
ほぼ日 ‥‥ええっと、もうひとつ、
湯布院も大分県ですね。
みうら ええ。湯布院は、ラベンダー色の
イメージがありますね。
これを解説するには
「おばさんのラベンダー好き」について
言わなくてはなりません。
ほぼ日 はははは。
みうら ほんとうは、どの県も
ラベンダーにしていけば
全員、行くんですよ。
それはもう、わかってるんです。
100ワットの電球に虫が近づいていくように、
紫色を出すと
おばさんの観光客が集まってくることは
もうバレているんです。
先駆者としてそれを実行したのが
北海道の富良野と大分県の湯布院です。
「これから観光地をひとつ盛り上げたい」
という観光協会の方に提案します。
紫のイメージでやってください。
全員来ます。でも、
全員来ちゃいすぎて困りませんか?
ということは、
言わなくてはいけません。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

真の温泉好きなら、
「入れない温泉をただ見ること」も
好きであるべきかもしれません。
昨今は「入る」ということに
焦点を当てすぎている、
とにかく人間は
自分のことばかりを考えている、
と、みうらさんは嘆きます。
ところで、集まったメダリオンをめくると、
ひとつずつ「みうらじゅん」と
刻印がありました。
律儀です。
しかしコレクションが進むにつれ、
面倒になったのか、
後半は「MJ」と
省略形で刻印されていました。
来週もまた、哀愁を携えつつ、
日曜にお会いいたしましょう。
 
2008-03-23-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい大分県ご当地ソング
「地獄のエステティシャン」を
どうぞお聞きください。