50歳を迎えた心境をみうらさんに訊ねると
「まだ気持ちがついていってない感じですが
 体はどうやらついていってるらしいです」
という答えが返ってきました。
体というものは、つねに
気持ちより先に行くものです。
アマテラスオオミカミが
天岩戸を開けられたときも
手がつい動いてしまったのでしょう。
宮崎県 セクハラがなかったころのお話。
ほぼ日 では、どんどんいきましょう。
あ、お待たせしました。宮崎県です。
みうら 宮崎県ねぇ。どこからいきましょうか。
やっぱり、西都原(さいとばる)の
古墳群というのは、すごいんですよ。
そこの博物館というのが、またすごい。
ほぼ日 このコーナーには博物館が
何度も出てきますね。
みうら ぼくはこれまでいろんな記念館、博物館を
見てまいりましたが、
そこの博物館は土器関係ではナンバーワン、
つまり「土器ナンバーワン」です。
土器にさわることができるんです。
ほぼ日 おお、それはめずらしいですね。
みうら 縄文にふれるという機会は
なかなかありませんよ。
ゴットハンドの人はよく
ふれてこられたらしいですが、
そこは、平気でふれることができます。
それほどふんだんに出土しているんだ
ということをあらわしているのだと思います。
ぼくはデパートの食料品売り場に行くのが
好きなんですけども、試食のコーナーに
ふんだんに置いてあるところと、
そうでもないところがあります。
ふんだんに置いてあるところは
ふんだんに採れたんだと思うんです。
この前も伊勢丹で北海道物産展を
やっておりまして、そこでは
塩辛がふんだんに試食用に出ていました。
通常、ふんだんに採れてないとこはケチります。
透明のプラスチック容器も小さいですし、
爪楊枝もちょっとしか置きません。
しかし、北海道の物産展では、爪楊枝も
買ってきたまんまの姿でまるごと
ボーンと置いてあるんですよ。
その姿を見ると、北海道の物産は
すごいということがわかります。
ほぼ日 なるほど、なるほど。
みうら

それと同様に、博物館でさわれるということで
宮崎の土器がふんだんに出土していることが
わかるんです。
土器にはあまりくわしくないんですが、
「出てんな、ここ」ということだけは
ひしひしと伝わってきます。
また、その博物館には
「あらかじめ失われた」という
キャッチコピーが書いてあります。

ほぼ日 ???
みうら いまだにぼくは、その意味が
わからないんです。
昔、『あらかじめ失われた恋人たちよ』
という映画がありましたね?
はて何のことだろか、
ということかもしれませんが、
その西都原古墳の博物館に行くと
「あらかじめ失われた」と書いてあるんです。
ぼくはそこでもその意味を
訊き逃してしまいました。
どうやらそこでも何かが
あらかじめ失われているらしいです。
「あらかじめ失われた」って聞くと、
気が遠くなるでしょ?
ほぼ日 たしかに、わけがわかりません。
みうら たとえば
「俺って、あらかじめ失われてるんだ」
と言うと、「俺」に深みが出るでしょ?
ほぼ日 いや、どうでしょうか‥‥。
みうら

「ああ、あらかじめ失われてんのか〜」
「もう、ないの?」
みたいな。ね?
「あらためて」じゃなくて「あらかじめ」
なんです。
それが、宮崎県全体の
キャッチフレーズだと思います。

ほぼ日 はあ。
みうら それから、宮崎県といえば、
天岩戸(あまのいわと)伝説があります。
アマテラスオオミカミが隠れられて
世の中に光がなくなってしまったので、
アメノウズメノミコトという方が
踊られたという伝説です。
「外で陽気なことをやってるらしい」と
アマテラスがちょ〜っとのぞいたときに
タヂカラオノミコトという方が
あーーーっと一気にその戸を持って、
ぼーんと飛ばしました。
それが長野県まで飛びました。
戸隠という名前は戸を隠すという意味だと
聞いております。
それは、ものすごく飛んだってことです。
ものすごく飛んでますでしょ?
ほぼ日 宮崎県と長野県といえば、そりゃ、もう。
みうら チョロッと出るとね、
ガッとやられるんです。
そのことを充分に教えてくれる伝説だと思います。
高千穂峡というところに行きますと、
本来は年末にやる天岩戸の祭事を、またこれも
観光のためにやっておられます。
ちょっと広いお家のようなところで
見せていただくんですけれども、
そのショーがしこたま行なわれたあとに、
夫婦和合の舞がくり広げられます。
ほぼ日 和合の舞が。
みうら はい。それは、酔っぱらって帰った旦那さんが
叱られるのと同じようなストーリーで、
「ちょっとほろ酔い気分の神さまなのかな?」
「奥さんらしい神さまと、これから
 夫婦喧嘩を起こされるのかな?」
という内容でした。
男の神さまがゴローンと寝転んで
ふて寝してるところに
女の神さまが股間にザルを置いたりして、
「へへー」と笑ったりするショーです。
ほぼ日 ‥‥?
みうら ぼくはこれまでにそれを
2回見たんですけども、
おもしろかったです。
そして、神様は
「げへへー」とか言って、
観客席に下りてこられて、
女性客にわーっと抱きついたりされます。
ほぼ日 ひえぇ。
みうら ま、それはおおらかな、
セクハラがなかった時代
儀式なもんですから。
ほぼ日 ははは。
みうら

そこでは「ああ、おおらかだな」という気持ちを
きっと持つことができるでしょう。
現在は、いろいろ決めごとがありまして、
殺伐としてる部分もあります。
そりゃあ、よくないことはよくないですが、
おおらかさがなくなっている、
ということもあるのではないでしょうか。
そういうときは宮崎県に行っていただいて、
「おおらか」を体験していただくと
いいと思います。
鬼の洗濯岩というのもありますが、
洗濯するには大きすぎます
このように、宮崎県は全体的に
おおらかです。

ほぼ日 いい県ですね。
みうら

ところで、みなさんが宮崎県に行くには
おそらく空港から入ると思うんですけれども、
そこにはからくり時計があります。
旅慣れてくると、
「ここもからくりかよ!」
と言いたくなるくらい、
日本はからくりだらけです。

ほぼ日 そうでしょうか。
みうら 有名なところでは、
愛媛県の坊ちゃん温泉の前に
からくり時計があります。
これまでいろんな場所で、ぼくは
からくり時計の写真を撮ってきました。
でも、考えてみてくださいよ。
からくってる状態は
写真にはおさめられない
んです。
静止してる状態でしか、
からくりは撮れないんですよ。
でも観光客の人は、
「あ、からくりだ!」と、
あわててカメラを取り出しています。
あとで現像して見てくださいよ、
写真では、からくってませんから。
ほぼ日 はははは。
みうら 宮崎空港では、
1時間に1回、神楽が鳴って、
舞のからくりがはじまります。
ジャストの時間より15〜20分前に
宮崎空港に飛行機で到着された方は、
そのからくりを見ることができます。
けれども、何度その地を訪れようとも、
一度もからくってるところを見たことがない人が
おられます。
人というものは、
からくり時計に出会う人と、
そうでない人とに
大きく分けられると思います。
ほぼ日 日本各地に
そんなにもからくり時計があるという事実に
気づいていませんでした。
ということは、つまり、出会わないタイプ‥‥。
みうら そうですね。
ぼくは、からくってるときに
よく出会うんですよ。
ほぼ日 からくるタイプですか。
みうら はい、からくるタイプです。
からくりは、1時間に1回ですからね。
1発やられてしまうと1時間、
待ってなきゃなんないわけですから。
ほぼ日 ちょっと時間が惜しくなって
イラッとしますね。
みうら しかし、からくりに出会えたことを、
ラッキーと取るかどうかは
わからないところです。
ほぼ日 しかし、からくり時計が
そんなに全国にありますか?
みうら だってからくり時計ですから。
ほぼ日 はあ。
みうら いつもは閉じていて、
何気ない顔してるわけですよ。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

からくっている瞬間に遭遇しなければ、
そこには、普通の時計が、
普通の駅、および空港にあると
思ってるしかありません。
そんなふうに、日本には
見すごしているところがたくさんある、と
みうらさんはおっしゃいます。
次回も日曜日にお会いいたしましょう。
 
2008-03-16-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい宮崎県ご当地ソング
「天国に一番近い県」を
どうぞお聞きください。