語りの旅も、
残り少なくなってまいりました。
みうらさんは、いまさら
毎回くじ引きで
県を選ぶ理由がわからないと言います。
いえいえ、やっぱり
「いきなり」がいいんです。
今回も、もちろん準備ナシの真剣勝負です。
徳島県 ビートルズとして国籍超え。
ほぼ日 (くじ引きを見て)次は、徳島県です。
みうら

徳島県! なるほど。
しょうがないなぁ、
ワンダー鳴門になってからじゃないと
しゃべりにくいので‥‥
はい。これは、
鳴門のうずしおを見に行くときに
船長がかぶっているのと同じ帽子です。


ほぼ日 船長が、それをかぶってるんですか。
みうら

ちょっと、雰囲気出るでしょ?
いろんなところに観光地はありますけども、
「いつも同じじゃない」観光地は
意外と少ないのではないでしょうか。
鳴門のうずしおについては、
ぼくは、ちっちゃいときから、
1枚の写真でしか見たことがありませんでした。
大きいうずがグワーと出てて
「ああ、うずしおだな」と理解できる、
あの写真。
誰がお撮りになったか、
いつ撮られたかは知らないけども、
きっと、ぼくもみなさんも
「うずしお」でイメージするのは、
ひとつの写真だと思うんです。

ほぼ日 はい。コマーシャルか何かで使われていました。
みうら

その写真をずっと心に抱いて、
ぼくは生きてきました。
しかし、実際に
うずしおを見に行くことになったとき、
「何時ぐらいがいいか」
という話が持ち上がったんです。
あの写真の、いっつもグルグル巻いて、
マントルのところまで行きそうな勢いを
想定していましたので、
うずしおは常時出てるもんだと
錯覚していたんです。なのに、
「何時から何時までだったら見えるかも」
と言われ、かるくショックを受けました。
見えるかも、ということは、
見えないかも、ということです。

ほぼ日 はあ、そうですね。
みうら

うずしおに向かう船の船長さんからも
「今日はダメかもな」
というひと言が出ました。
案の定、その日はプロが見ても
あまり出てない、という状態でした。
でも、人には、
自分の努力を無駄にしたくない
という傾向があります。
蟻地獄くらいのちっちゃいうずが
ちょっとでも出たら
「ああー!」
などと、言っていくしかなくなってきまして。

ほぼ日 ははは。
みうら

その船には、お客さんが
5、6人しか乗っていませんでしたが、
その人たちが全員、
身を投げ出すように海を見て
「あ! あそこだ、あそこだ」
と、まちまちに小さいうずしおを指し、
それで満足していこうという
約束になっていきました。
その船に乗っていた人たちとは、ぜんぜん
知り合いではなかったですけど、
「そうですね、あそこはうずしおですよね」
とか、仲がよくなっちゃって‥‥
なんでしょうかね、人って、
パニックとか、追い込まれた状態のときは、
友達になっていくんですよ。
そうやって、それなりに満足して、
その日は帰ったもんです。

ほぼ日 でも、ちょっと悔いが残りますね。
みうら

当然、そうです。やっぱり
「あの写真のうずしおが見たい」ということで
リベンジをすることになりました。
今度は、兵庫県のほうから入りました。
そのときは、安斎肇さんとやっている
「勝手に観光協会」の仕事で行きました。
「勝手に観光協会」では、
いつもビームスでいただいた
ジャケットを着ています。
着ていないと遊びだと思われるし、
仕事意識も芽生えないので、
着用していたところ、
中学生の団体と乗り合わせてしまいました。
船着き場で、その中学生のひとりの口から、
「ビートルズだ」
という声が聞こえました。
小さい声でしたが、聞き逃がしませんでした。

ほぼ日 ぷはははは。
おふたりとも、長髪ですからね。
みうら ぼくは何のことか、
一瞬わからなかったんですけども、
船に乗っかって、鳴門のうずしおのほうに
どんどん向かって行くうちに
ひとりだった中学生の声が、
軍団になってきまして、
「この船にビートルズが乗ってる」
「ビートルズだ、ビートルズだ」
という話になって、
最終的にぼくらが座ってる席まで
写メを撮りに来る始末になってしまいました。
もう30人とか、50人じゃきかないくらいの
列ができまして、
ひとりひとりの写メに
応じていかなきゃいけない状況で
「ビートルズではありません」と
言い出すのも、大人げないことです。
ここは、うずしおを見て戻ってくるだけの、
まぁ1時間もないことなんで、
安斎さんと話し合い、
ビートルズでいこうということになりました。
ほぼ日 ムチャしますね。
みうら しかし当然、引率の先生もいるわけです。
その先生は女の先生でしたが、
ビートルズがパニックになっていることが
おわかりになったんでしょう、
途中で止めに入られました。
そのときに、先生は
「ビートルズさんも
 忙しいから、ここまで」

とおっしゃっていました。
「先生までビートルズかよ」
ということで、ものすごく驚きました。
これが鳴門のうずしおの思い出になりました。
ほぼ日 なぜ、ビートルズだったんでしょうか。
みうら おそらく教科書に
ビートルズの写真が載っていたんだと思います。
しかもそれはマッシュルームカットではなく、
ビートルズ後期の写真だと思います。
ジョンレノンさんがヨーコさんと知り合い、
「自由」と言いだした頃の、
あのぼうぼうに伸ばした髭と、
ぼうぼうの髪の毛の写真だと思います。
確かに、中学生が言うとおり、
現存しているビートルズはふたりです。
ジョンとジョージは、
お亡くなりになりましたんで、
ボールとリンゴだけなんです。
しょうがないんです。
ほぼ日 しょうがない‥‥かもしれませんけども、
イギリス人というのは無理がある気が‥‥。
みうら まぁ、そうやって
鳴門のうずしおを見に行ったときに、
国籍を超えたということでしょう。
そのあと、温泉に行って
夜中に安斎さんとお風呂に入って
湯船でうしろ向いて話していたら、
ガラガラと扉が開き、
ちょっと酔っぱらったおやじが
「混浴かよ」と言い、
ドアを閉めたことがありました。
ほぼ日 ははははは。
みうら

国籍は超えました。
性別も超えました。
あとは、人かケダモノか、くらいの
超え方しか残っていません。
そうそう、思い出しました、
鳴門のうずしおを見たすぐ後に、
NHKの仕事で
自分の母校を訪れるという内容の
番組の収録がありました。
京都にある小学校に着いたときは
昼休みでした。
いやな予感がしたんですが、
校庭に入って、ピンマイクだけつけて
「懐かしいですね」とか言いながら
ひとりで入っていくと、遠くから、
「誰や、誰や」
という声が聞こえてきました。
その小学生の‥‥まぁ言えば
ぼくの後輩ひとりから
「ジョンレノンや」
というひと言が出ました。

ほぼ日 また。
みうら

またです。
「ジョンレノンや、ジョンレノンや」
「サインしてくれ」
と言われて、
ぼくは一応テレビ用のコメントだけはして、
すぐに校庭の前に停めてある
ロケバスの中に入って、弁当を食いました。
そうしたらみんながロケバスを囲んで
「ジョンレノンさん、サインをください」
「ジョンレノンさん、サインをください」
と言いました。
もしも自分が高校生の頃だったら、
うれしかったかもしれませんが、
この歳になると複雑です。
しかもぼくは
ジョンレノンの歳を抜いています。

ほぼ日 いやぁ、その確率はすごいですね。
みうら もういまや、長髪であろうが、
坊主頭であろうが、
ファッションはそれぞれ
自由じゃないか、という時代です。
しかし、地方に行くと、
まだ髪の毛が長いというだけで、
女の人だと言われたり、
ビートルズだという仕打ちを受けます。
ほぼ日 愛媛県
喜多郎さんに間違われるパターンも
ありましたね。
みうら まだまだロン毛では、
地方は回りにくいということなんです。
「とんまつり」といって、
いろんな日本のとんまな祭りを
巡っていたとき、
昼間からお酒を飲んでおられる住人の方に
「お前は誰だ」
「公民館でこれから打ち上げやるから来い」
と誘われました。
公民館に足を踏み入れてすぐ、
70過ぎたおじいさんに、後ろから
おっぱいをつかまれて揉まれました。
それほど、タイムラグがあるって
いうんでしょうかね。
ぼくたちのような、
「いい歳こいて、なおロン毛」の人間を
普通に見てくれたのは、
秋田県のなまはげ伝承館だけです。
あそこは、もうロン毛に慣れてますからね。
ほぼ日 地方に行くと、
それだけたのしいことが待ってるんですね。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

ビートルズにかき消されてしまった
2度目のうずしおですが、
心の準備ができていたせいか、
1度目よりも大きく見えたのだそうです。
うずしおよりも、自分の心が
大きくなったおかげで見えたんだ、と
みうらさんはおっしゃいます。
人間はいろいろ悩んだりしますが、
考え方しだいです。
歴史や自然現象について学び、
観光スポットを大きく見るための
自己操作をしていくことが
真の観光と呼べるのかもしれません。
みうらさんは、本日は
ほかのコーナーでもご協力くださっています。
どうぞこちらをごらんになってくださいね。
2008-06-08-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい徳島県ご当地ソング
「DANCING CRAZY SON' SON' SON'」
をどうぞお聞きください。