糸井重里が知りたいことシリーズvol.1歩く 糸井重里が知りたいことシリーズvol.1歩く
些細な悩みから哲学的な話まで‥‥
学びたいこと、知りたいことは、
おとなになってもつきることはありません。
むしろ、歳を重ねることで、
興味が広がっていくようにも思います。
そこで新しい座談会のシリーズを
はじめることにしました。
糸井重里が「知りたいこと」をテーマに選び、
その専門家の方と一緒に学んでほしい方をおよびして
学びを深めていきます。
テーマから、自由に話は広がっていくでしょう。
第一回のテーマは「歩く」です。
歩くことは運動の基本、
健康にも大きく関わってきます。
東京大学で老いについて研究している飯島勝矢先生と、
犬のお散歩やロケで日々歩くカンニング竹山さん、
おふたりとじっくりお話しました。



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第4回 思考のギアチェンジ。
写真
飯島
人とのつながりや運動を継続することが
大事だと話してきましたけれど、
筋力を維持するにはそれだけではなく、
食生活への意識も大切です。



とくに大切なのはタンパク質。
でも、これって私があらためてここで
声高に言わなくても、
多くの人が知っていることですよね。
しかし、ここにもタンパク質に関する
誤った先入観があるんです。
糸井
また、先入観ですか。
飯島
はい。
一般的にいうと、1日あたり目安のタンパク質摂取量は、
70代で体重60キロほどの方ですと、
だいたい70~90グラムの摂取が理想的と言われています。
これは年代や体重によって変動します。
でも、90グラムのタンパク質って
つまり食事にするとどのくらいか、
よくわからないですよね。



「だいたいこのくらいでOKかな?」と、
感覚で摂取している人が多いと思います。
一日一度魚か肉を食べていれば安心、というような。
糸井
そういう感覚、ありますね。
飯島
タンパク質の王道といえば、お肉です。
たとえばステーキ200グラムに対して、
どのくらいのタンパク質が含まれているか
わかりますか?
糸井
うーん、50グラムくらいですかね。
竹山
僕は半分くらいタンパク質だと思っていました。
200なら100グラムですかね。
飯島
公開講座でこの質問をすると、
多くの人が200グラムのお肉なら200グラムの
タンパク質が入っていると思っているんです。
ですが、正解は平均35グラムです。
竹山
ええっ。1/4もないんですか。
写真
飯島
タンパク質は思ったよりも入っていない。
それがまずひとつ目の
先入観のブレイクポイントです。
もしお肉しか食べない日があるとすれば、
200グラムのステーキを2枚食べないといけないんですよ。
糸井
それは重たい。
飯島
あと、もうひとつ先入観があります。
70代の方と50代の方で200グラムのステーキを
それぞれ食べたとします。
そうすると、身体に35グラムのタンパク質が
摂取されたことになります。
50代の方はまだ身体が衰えていないので、
35グラムのタンパク質をどうにか筋肉にできます。
ですが、70代の方は身体に入ったタンパク質、
35グラムすべてを確実に
筋肉にしていくことができないんですね。
糸井
ほーー。
写真
飯島
身体に入ったタンパク質が
絶対筋肉になってくれるとは限らない、ということが
ふたつ目のブレイクポイントです。
年をとると筋肉になりにくくなるので、
これまで通りの食生活を続けていると、
痩せていってしまうんです。
糸井
きちんと食べているつもりでも。
飯島
そうなんです。
70歳以上の方は健康にも気を遣いますから、
タンパク質を意識した食生活をされている方が
とっても多いです。
だけど、絶対量も足りないし、
自分の摂取すべき量を把握していない方が
非常に多いです。
竹山
把握するためにはどうすればいいんですか?
飯島
まず、タンパク質が多く含まれる
お肉、魚、大豆、卵などは
思ったよりも入っていないと思うこと。
糸井
はい。
写真
飯島
そして50代、60代、70代と
タンパク質が筋肉になりにくくなるという
認識を持って、前向きに摂取をすること。
量をたくさん食べられない方は、
小分けに食べていただいてもいいです。
1日4食ですとか。
糸井
プロテインはどうですか?
飯島
プロテインは1日3食きちんと食事をした上で、
足りないタンパク質を補うものですね。
タンパク質って一気に摂取できるように感じますが、
身体の中に筋肉として摂取されるためには
「噛む」という行為が欠かせないんです。
なので、普通に食事を咀嚼するというベースを
確保した上で、補完食品として
プロテインを摂取するなら構わないかもしれませんね。
糸井
先ほど運動はなかなか続かない、
という話がありましたけど、
食べることを続けるのも意外と難しいんですよ。
誰かが管理してくれているわけでも
食事が用意されているわけでもないので、
思わず手を抜いてしまったり、
プロテインだけで楽しようとしたりする。
もしかしたら運動以上に難しいかもしれないです。
飯島
たとえば3食はきちんと食べる。
それでもタンパク質が足りない方が
プロテインやサプリなどで補完することは、
間違いではないと思います。
ただ、それらをメインにして、
食事はおろそかになってしまうとマズイですね。



不規則になってしまったとしても、
人と会うことや継続的な運動、
運動と社会性と食、
それらをトータルで考えてもらえればと思います。
写真
糸井
たとえば先生はどんな風に摂取しているんですか?
飯島
私は1日3食のうち、
肉・魚は2回以上食べています。
ものすごく厳密に70~90グラムのタンパク質を
計算して摂取しているわけではないんですが、
その分、動いて人と会っているので、
相乗効果ではあると思います。
竹山
なるほど。
ズルいことを聞くようなんですが、
これを食べておけばOK、みたいなものはありますか?
写真
飯島
よく、健康番組で「◯◯はいい」と言われると、
その商品が売り切れることがあります。
でも、なにかひとつを大量に食べるよりも、
食品多様性が大事です。
いわゆる食材のバラエティーさ、ですね。
幅広い食材で摂取してください。
竹山
食べれば食べるほど太る、という認識があるから、
「がんばって食べなさい」というのは
新しい発見です。
飯島
そこはメタボ世代とフレイル世代という、
大きなギャップがあるんです。
竹山
メタボ世代とフレイル世代。
飯島
私たち40代や50代はメタボを意識すべき
メタボ世代なので、カロリー控えめは基本です。
がんばって食べなくてもいい。
むしろ、だらだら食べてはいけないのです。
70代に差し掛かり、
75歳をすぎると、今度はしっかり食べないと
痩せてしまうフレイル世代になります。
糸井
僕だ。
飯島
僕と竹山さんはメタボ世代だからカロリーセーブ、
糸井さんはフレイル世代に差し掛かっているから
必要なカロリーはとらなければいけない。
世代によって思考のギアチェンジを
していただきたいです。
糸井
なるほど。
写真
(つづきます。)
2018-10-12-FRI