『あたらしい家中華』酒徒さんに、大好きな中華料理について聞く。 『あたらしい家中華』酒徒さんに、大好きな中華料理について聞く。
2023年秋に刊行されて以来、売れ続けている
1冊の中華料理本をご存知でしょうか。
SNSやブログでおいしい情報を発信し続ける
中華料理愛好家、酒徒(しゅと)さんの
『あたらしい家中華』。
中国の人たちが普段から食べている、
非常にシンプルな78品を紹介している本です。
鶏ガラやオイスターソースなどは使わず、
意外とあっさり、簡単、ヘルシー。
「家で本当に作りたい中華はこれかも!」
という気持ちになります。

そんな酒徒さんがなんと、
顔出し無しであれば、という条件で
「ほぼ日の學校」に登場してくださいました。
酒徒さんが語る料理の話、愛情がこもっていて、
なんだか本当にいいんです。
あなたもぜひ、あたらしい家中華の
とびらをひらいてみてください。
イラスト:ミツコ
5.自分で作りたいのは、シンプルな家庭料理。
──
『手軽 あっさり 毎日食べたい
あたらしい家中華』という本を出されて、
きっとすごく反響がありましたよね。
酒徒
いや、ほんとに。
この驚きを、どう表していいのか
わからないぐらい驚いたんですよ。



日本ではまったく知られてないであろう、
しかも料理名が中国語のレシピを
みなさんが見てくれて、
そんなに作ってくださるとかね、
まったく想像していなかったし。
「ほんとにこれ中華なの?」みたいな感想も
来るのではと思ってたので、
おおぜいの方が受け入れてくれたことが
本当にうれしかったです。
──
酒徒さんが思う、
ご自身の料理の特徴ってありますか?
酒徒
ああ、そこについてはまずは、
「僕は別にプロの料理人ではないので」
というのがありますね。



だからぼくは料理のレシピを紹介するとき、
自分流のアレンジとかって
いっさい加えないようにしてるんです。
そもそも自分が料理をつくる動機も、
どこかで食べた
「あの料理を再現したい!」
ということだけで、
「僕だけの料理をつくりたい」
という気持ちはゼロですから。



だから、基本的には現地の料理を
なるべくそのまま持ってきたいと考えていて、
本でもそういうものをそのまま出した感じですね。
そしたら思いがけずウケたという。



ぼくが紹介してるのって、基本的に
中国のあちこちの家庭や食堂で
毎日のように作られて親しまれている、
日常的な料理だと思うんですけど、
そういうものが日本でも受け入れられたことには、
感動とうれしさがありましたね。
──
逆に、それぐらい食べられてるものなのに
日本で全然知られてなかったり、
みんなが知りたいと思ってなかったりしたのって、
どうしてだと思われますか。
酒徒
これは推測も混じりますけど、
日本でこれまで伝わってきてた中華料理って、
プロの方の料理がベースになったものが
中心だったと思うんです。



日本人にとって中華料理って、
もともとそれほどなじみがなくて、
最初に伝わったのが、中国でも
レストランでハレの日に
食べられてるような料理だった。



そういうものが中華料理だとメジャーになって、
それをいかに家で再現するか、みたいな
発想のレシピが増えてきたのかな、
という気がしていますね。



だから、プロの技法を取り入れた
難しい工程だったり、
「家庭にその調味料はないよね」
といったものが多かったりするのかなと。



そして同時に、向こうの
お金もとらないような家庭料理を
そのままもってくる流れも、
すごく少なかったのかなと。
写真
──
この本のなかで、
今日作っていただいた3品以外で、
特におすすめはありますか?
酒徒
本はもう、おすすめしたいものばかりを
がんばって選んだので、
どれもみんな作っていただきたいな、
とは思うんですけど(笑)。



まあ、自分的にすごく好きなのはね、
「そら豆のねぎ油炒め」(葱油蚕豆)。
これは上海で知ったものです。



たっぷりのそら豆を、菜種油と
小ねぎの小口切りだけでジュクジュクやって、
最後に塩だけという料理ですけど、
口の中に入れると、そら豆の香りが爆発するんですよ。
日本ではそら豆って高いんですけど、
それでも毎年ガッツリつくってしまう、
そのくらい好きな料理です。
これは上海圏なんで、紹興酒を合わせるんですね。



あと、見た目は全然映えないけど大好きなのが、
「胡麻だれ茄子」(茄泥)。
皮を剥いた茄子を蒸して、胡麻だれで和えるもので、
見た目はどちゃっとした茶色い物体ですけど、
ニンニクと辛みが利いていて、
おいしいんですね。
これは北京で知った料理なので、
強い白酒を合わせて、
つまんではなめ、つまんではなめ‥‥
みたいなのが最高に好きですね。野菜で飲める。
──
聞いているだけでおいしそうです。
酒徒
こうやって言ってると腹がへってきますね。
食べ物と酒が結びつくとね、またこう‥‥。
女性
やっぱりお名前のとおり、
お酒が好きなんですね、
酒徒
そうですね。
お酒と一緒に食べたい、という部分がなかったら、
ぼくはきっと料理も作らなかったと思います。



僕は酒飲みなんで、
普段は主食をそれほど食べなくて、
粉もの、餃子とかも自分では作らないんです。
時間をかけて作っても、ワーッて食べちゃって、
一瞬で食事が終わるので(笑)。



だからそういうのは外で食べる専業にして、
自分はおかず、酒のつまみみたいなものを
作ることが多いです。
──
酒徒さんが紹介されている料理って、
どれもほんとにシンプルで、野菜もとれて、
すごくいいなと思うんですけど、
こういった料理にたどり着いた理由って
あるのでしょうか。
酒徒
たどり着いた‥‥難しいですね。



僕も当然、食べるぶんには
さっき話したような珍しい食材の料理とか、
面倒な工程の料理とかも好きなんです。



ただ、やっぱり自分が家で
最初に作ってみたいと思ったのは、
中国の各地方の農村とか、
知り合いの家で食べさせてもらった
本当にシンプルな家庭料理だったんですね。



もちろん家庭料理の中にも
こってり、あっさり、いろいろあるんですが、
自分のレパートリーとして増えていったのが
あっさりしたシンプルな料理だったという。
──
まずは作りやすかったし、
作ってみたいと思えた。
酒徒
そうですね。そして僕ももともと
中華料理って、日本で思われてるような
「こってり、しっかり、難しい調味料が多い」
みたいなイメージだったんです。



でも、手順もシンプルで、調味料も本当に少なくて、
それでいて野菜がしっかりとれる料理がある。
「これこそ毎日食べても
ほんとに飽きない中華だな」と感激して。
実際に現地の方も、そういうのを
つくって食べてることを目の当たりにして、
すごい新鮮な驚きがあったんですよ。



そういう料理って作るのも簡単なので、
自分も日々の料理として作っていたら、
どんどん慣れていったんです。



自分自身がそんなふうにいまに至るから、
本のお話をいただいて、どの料理を掲載するかを
決めるようなときも
「やっぱり自分が昔感動した、
毎日でも食べたい料理を紹介したいな」と。
そういう料理って正直、
日本ではあまり知られてない気がするし、
僕が作れるぐらいだから、作るのも簡単だし。



「そういうものだけをなるべく集めて
ひとつの本にしたい」と思ったというのが、
こういう料理が集まることになった背景ですかね。
写真
──
けっこう野菜や油をたくさん使うから
体の調子がよくなったとも
書かれてませんでしたか?
酒徒
健康的な側面としては、ある程度の油を使って
野菜とかを加熱することで、
生で食べるより一気にかさが減って、
大量の野菜を摂取できるんですよね。



当然たくさんの繊維をとるのでお通じがよくなりますし、
自分の体の感覚ですけれども、
なんだか消化が促進されてるような感じもあって。



そうやって中華料理で
野菜をたくさんとる生活を送っていると、
こんな言い方もなんですけど(笑)、
「毎日たくさん食べてたくさん出す」みたいなのが
生活の基本になっていくのを
すごく感じるんですよ。



ですので、毎日のように中華料理を
食べていた数年間も全然体重が変わらなくて、
そのことにけっこう自分でびっくりしました。
──
わぁ、そうですか。
酒徒
はい。だから今はもうそれを自覚して、
「野菜食べたいときは中華!」
みたいな感じでつくってますね。



もちろん油もそれなりに使いますけど、
ぼくは油って、料理に香りとコクを加える
調味料と感じるんですよね。
必要以上に恐れて減らしたりする必要は
ないのかなと思ってます。
──
油って、香りとコクの調味料。
酒徒
ええ。特に中国は地域ごとに油を使い分けていて、
その油が自分の記憶を呼び覚ます
みたいなところもあるんですよ。
「この菜種油の香りは、あの地域のあれだ」とか、
「このピーナツ油のコクは広東のあれだ」とか。
料理していて、そういう楽しさもありますね。
──
酒徒さんの紹介する中華料理を作ろうと思ったら、
準備するべきは、どういう油がいいですか?
まずは良いごま油1本とかですか?
酒徒
あ、いえ、実はごま油って、中国では
仕上げ油に使うのがほとんどで、
炒め油にすることはないんですね。



だから中国に10年ぐらい住んだあと、
日本に帰ってきて最初にびっくりしたのが、
「中華料理は全部ごま油を使わなきゃいけない」
と思い込んでいる方が多かったことなんです。



今日作ったきゅうりの冷菜とかには
仕上げとしてごま油を使いますけれども、
炒め油は別途ご用意いただくほうが
いいかなと思っています。



だから、最初に準備いただくとよさそうなのは、
仕上げ用のごま油と、炒め油を1本ずつ。
炒め油、まずは普通の油でいいんじゃないかな。
僕だったら、癖がなくて使いやすい
菜種油とかにするかな。
でも、米油でも大豆油でも
ピーナツ油でもいいと思いますよ。



油もいろいろ揃えだすときりがないんで、
まずはそれだけで大丈夫です。
(つづきます)
2024-11-09-SAT
手軽 あっさり 毎日食べたい

あたらしい家中華

酒徒 著
写真
鳥がらスープ、 オイスターソース、
豆板醤…すべていりません!
中国の家庭で愛されている
本場の家庭料理78品。
日本で「中華料理」と聞くと、
「こってりしてる」「味が濃い」
「調味料が多い」「油っぽい」
「胃がもたれる」などのイメージが
先行しますが、中国の食卓に並ぶ
家庭料理はすべてが逆。
あっさりして、やさしい味で、
調味料も少なく、油も少ないから、
毎日食べても身体が楽。
そんな日本にまだ知られていない
「本当の家中華」をご紹介します。



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