ス ケ ッ チ ト ラ ベ ル THE SKETCHTRAVEL  ひとりの若き日本人イラストレーターの手を離れた 1冊のスケッチブックが 世界の名だたるアーティストからアーティストへと 4年半の歳月をかけ 「手渡し」で回されていきました。 アーティストたちは、その赤いスケッチブックに 思い思いの作品を、描いてゆきました。 フレデリック・バック、ビル・プリンプトン、 グレン・キーン、ジェームス・ジーン‥‥。 この「スケッチトラベル」というプロジェクトに 参加したアーティストは、総勢71名。 日本からは、寺田克也さん、松本大洋さん、森本晃司さん、 そして世界的に有名な、あの‥‥。 ピクサー・アニメーション・スタジオに勤務し 『トイ・ストーリー3』の アートディレクターをつとめた堤大介さんが この壮大な「あそび」をはじめた張本人。 なぜ、いったいどういう動機で?  糸井重里が、堤さんにお聞きしました。 なお、この「旅する美術館」とも言うべきスケッチブックは 日本時間の10月18日、 ブリュッセルでチャリティ・オークションにかけられます。 堤さんの目標は「ラオスに図書館を建てる」こと。 この連載中に、結果をお伝えできるかもしれません。ス ケ ッ チ ト ラ ベ ル THE SKETCHTRAVEL  ひとりの若き日本人イラストレーターの手を離れた 1冊のスケッチブックが 世界の名だたるアーティストからアーティストへと 4年半の歳月をかけ 「手渡し」で回されていきました。 アーティストたちは、その赤いスケッチブックに 思い思いの作品を、描いてゆきました。 フレデリック・バック、ビル・プリンプトン、 グレン・キーン、ジェームス・ジーン‥‥。 この「スケッチトラベル」というプロジェクトに 参加したアーティストは、総勢71名。 日本からは、寺田克也さん、松本大洋さん、森本晃司さん、 そして世界的に有名な、あの‥‥。 ピクサー・アニメーション・スタジオに勤務し 『トイ・ストーリー3』の アートディレクターをつとめた堤大介さんが この壮大な「あそび」をはじめた張本人。 なぜ、いったいどういう動機で?  糸井重里が、堤さんにお聞きしました。 なお、この「旅する美術館」とも言うべきスケッチブックは 日本時間の10月18日、 ブリュッセルでチャリティ・オークションにかけられます。 堤さんの目標は「ラオスに図書館を建てる」こと。 この連載中に、結果をお伝えできるかもしれません。

最初の1ページ、最後の1ページ。 2011-10-13
メイとの結婚。 2011-10-14
弱小校の野球少年。 2011-10-17
ピクサー。 2011-10-18
スケッチトラベル。 今日の更新



糸井 ‥‥「スケッチトラベル」の話、あんまりしなかったね。
‥‥そうですね(笑)。
糸井 ‥‥どうしよう。
このパソコンにすべての作品が入っているので‥‥。
糸井 じゃ、一気に見せてもらうことにしましょうか。
はい、ぜひとも、せっかくですから(笑)。

えーっとですね、まず、
スケッチブックは、この木の箱に入っています。
この状態で世界をトラベルしていてですね‥‥。
糸井 この箱も、アートディレクションしてるわけ?
いえ。もともとは、スケッチブックだけを
回してたんですけど、
だれか、途中のアーティストが
「それじゃ、危ないから」ということで
勝手につくってくれたんです。
糸井 この木の箱を?
はい。いつの間にか、この箱に入ってました(笑)。
糸井 おもしろいなぁ(笑)。
で、スケッチブックは、手渡しなんだ?
はい、それが、ほとんど唯一のルールです。

結局、アイディアはごくシンプルなもので、
アーティストが
次のアーティストに「手渡しする」という。
糸井 なるほど。
それによって、71名のアーティストが
1冊のスケッチブックで「つながる」。

そのことが大事なことだと思っています。

スケッチはあくまで
そのつながりを「記録」したものなので。
糸井 いやぁ、おもしろいです。
これが、記念すべき第1ページ目の、
絵本作家レベッカ・ドートゥルメールの作品。

Rebecca Dautremer
糸井 おおー‥‥。いきなり、これかぁ。
そうなんです。
ぜんぜん「スケッチ」じゃない。

1ページ目から
このクオリティで描かれちゃったので、
最初からハードルが上がっちゃって‥‥。

で、これはフランソワ・ロカという
また別の絵本作家のかたの作品。

Francois Roca
糸井 へぇー‥‥。
このかたは
『スター・ウォーズ』のアートディレクターで、
ぼくが個人的に「師匠」だと思っている、
エリック・ティーメンズさん。

Erik Tiemens
糸井 ははぁー。
これは
『モンスターズ・インク』のデザインをした
ニコラ・マーレー。

他にも
『ヒックとドラゴン』や『カンフーパンダ』などの
キャラクターを手がけている、
キャラクターデザインの大御所です。

Nicolas Marlet
糸井 ほんと、第一線で活躍してる人ばかりなんですね。
これは、台湾系アメリカ人の
ジェームス・ジーンといいまして、
いま、アメリカで
ものすごく人気のアーティストの作品です。

ぼくの大学の後輩なんですけど
「スケッチトラベル」に参加してもらうために
土下座して頼み込みました(笑)。

James Jean
糸井 いや、このすごさは、
実際、見なきゃわかんなかったなぁ‥‥。
この絵の作者は、もう79歳にもなるのに、
いまだに絶大な人気の
イギリスの絵本作家クェンティン・ブレイクです。

Quentin Blake
糸井 79って‥‥画材もそれぞれ、なんですか?
はい。
糸井 他の人の邪魔にならないように選んでるとか?
できるだけ
次のページに影響を与えないようにと
お願いしました。
糸井 こういう、立体コラージュ風もあったり。

Ben Butcher
ベン・ブッチャーという奇才ですね。

で、この人は
シルベイン・マークというアーティストなんですが、
自分の彼女とコラボレーションして。

Sylvain Marc
糸井 へぇ?
彼女、ベロニク・ジョフレというんですが、
このカップル、
ページがとなり同士なのを利用して、
ページに穴を開け、
「お互いのキャラクターが
 お互いの絵の中に入り込む」という
試みをしてくれました。

Veronique Joffre
糸井 はぁー‥‥。
そうそう、このピーター・デ・セヴなんかは
いくら待っても、
なかなか描いてくれなかったんです。

Peter De Seve
糸井 へぇ、そうなんだ。
3度くらいチャンスをお渡ししたんですが、
描いてくれなくて。

だから、3度目のときに、
「もう、いいです。
 あなた以外のかたにお願いしますから」と言ったら、
その数日後に、描いてくれました。
糸井 やっぱり描きたかったんだね(笑)。
彼は、大学のイラストレーションの歴史の授業に
出てくるくらいの大御所で、
もう、絶対に描いていただきたかったんですが‥‥
個人的に仲も良かったので、
ちょっぴり、おどかしたんです(笑)。
糸井 ワナだね(笑)。
そう、だから
「ネズミがワナにひっかかりそうになってる絵」を
描いてますでしょ?
糸井 あ、ほんとだ! へぇー‥‥。

ちなみに、
ひとりにつき、どのくらいの期間で
描いてもらったんですか?
だいたい、スケッチブックを渡してから
1週間くらいですね。
糸井 ふぅん‥‥。
で、松本大洋さん。
糸井 はい。

松本大洋
もちろん、ご存知だとは思うんですけど、
ぼくがもう、
本当に大好きな日本の漫画家さんです。

どうしても参加していただきたくて、
でも、なかなか
連絡をとることができなかったんですが、
ツテのツテをたどって、ようやく‥‥。
糸井 描いてくれたんだ。
いまでは、
日本に帰ってくるたびにお会いしている、
とてもいい友だちになりました。
糸井 いいですね、そういうの。
結局、このプロジェクトで得たものって、
「人とのつながり」なんです。
糸井 お話を聞いていると、そうみたいですね。
作品は、本当にその「記録」なんですよ。
糸井 うん、うん。
日本からは、この他にも、寺田克也さん‥‥。

寺田克也
糸井 ええ。
アニメーターの森本晃司さん‥‥。

森本晃司
糸井 ええ、ええ。
アメリカで、とても人気のある、
グレン・キーンという
有名なアニメーターも参加してくれました。

Glen Keane
糸井 ‥‥これ、完全に「旅するミュージアム」だね。
そうそう、そうなんです。

だから、途中からは
運ぶこと自体がちょっと怖いといいますか。
無くしちゃったらどうしようと。
糸井 本当ですよね。
で、これが、ぼくの作品です。
糸井 ほー‥‥。

堤大介
あそびではじめたプロジェクトですけど、
やはり、
これだけのアーティストが参加してくれたので
ものすごくプレッシャーを感じていて‥‥。

だから、他のアーティストのページをコピーして、
モンスターの姿の切り絵にしたんです。
糸井 モンスターの前にいるのは‥‥。
ぼく。
糸井 「どうしよう」って?
はい。

‥‥そして、フレデリック・バックさん。

モントリオールのアーティストで
80年代に
『木を植えた男』というアニメーションで
アカデミー賞を取った人です。
糸井 ええ、ええ。

Frederick Back
アニメーションの世界では、
もう、神様みたいな存在の人なんです。
糸井 はい。
ぜひ、参加してほしいと思っていたんですが、
86歳とご高齢ですし、
絶対つながらないよなぁと諦めてたんですが‥‥。
糸井 うん。
彼が、たまたま『トイ・ストーリー3』の本を
見てくれて、
ぼくの絵を褒めてくれたってことを、
人づてに聞いたんです。
糸井 ‥‥絵を描いててよかったねぇ!(笑)
はい、本当に(笑)。

それでもう、
今しかないと思って連絡を取りました。
糸井 1冊のスケッチブックのまわりで、
本当に、いろんなことが、起こったんですね。
実際、お会いしてみたら
本当に本当に、チャーミングなかたでした。

実は彼、もう20年以上も前に
スプレーが入って、右目を失明してるんです。
糸井 え、そうだったんですか?
アカデミー賞を獲った『木を植えた男』も、
片方の目だけで
5年もの歳月をかけてつくった作品なんです。
糸井 ‥‥何を、話したんですか?
バックさんが、ぼくに言ってくれたことで
いちばん印象に残っているのは‥‥。
糸井 ええ。
「アートというものは、
 美しいものを描いてるだけではダメだ。
 やはり、
 少しでも世のなかをよくしようという
 気持ちがなかったら、
 アートには、何の意味もないだろう」
糸井 ‥‥。
もちろん、そう思っているアーティストは
たくさんいます、ぼくのまわりにも。

でも、なかなか口に出して言えないことを
率直に語ってくれたことが、
本当に‥‥もう、感動しまって‥‥。
糸井 このプロジェクトやって、よかったですね。
はい、本当に。
糸井 ‥‥ねぇ。
で、フレデリック・バックさんからつながるのが
最後のページの、宮崎駿さんなんです。
糸井 はい。
‥‥引き受けていただければ。
糸井 うん。
バックさんの次、オオトリをつとめられる人は
宮崎監督以外には考えられません。

もし、引き受けてもらえなかったら
ブランク(空白)にしようって話してますから。
糸井 宮崎さん、やってくれると、いいなぁ。
はい‥‥本当に。

宮崎駿


チャリティで、何をするのか。

4年半、世界のアーティストの元を旅した
赤いスケッチブックは、
10月17日(日本時間18日未明)に
ベルギーのブリュッセルで
チャリティ・オークションにかけられました。



その結果、参加アーティストのサインの入った
スケッチトラベルの書籍など
他の出品物も含め、
合計で「76,000ユーロ」という金額で
落札されました。

これは
日本円にして「800万円」を超える額。

「ラオスに図書館をひとつ建て、
 現地のアーティストによる絵本を1冊、
 出版する」
ための目標額の2倍を超える金額でした。

「正直いって、最後の最後まで
 どうなるか、まったくわかりませんでした。
 世界は不況ですし、
 目標の額に届かない可能性もあると
 言われていました。
 でも、最終的な落札金額は
 そういう心配を
 すべて吹き飛ばしてくれるものでした。
 結果にこだわりすぎないようにと
 決めていたのですが、
 この数字は
 プロジェクトを支えてくれた
 すべての方々へ、
 きちんとした報告ができると言う意味で、
 本当に大きな意味があると思います。
 ‥‥図書館、
 もう1軒、建てることができるかも‥‥」
(堤さん)

ブリュッセルにいる堤さん、
ラオスだけでなく
カンボジアにも図書館を建てられないか、
さっそく調査を開始したとのこと。





なお、今回オークションハウスへの手数料は
落札金額以外に負担してもらい、
参加アーティストの
ブリュッセルへの旅費・宿泊費など経費も
「あそびだから」という理由で
すべて「自分持ち」にしたため、
「76,000ユーロ」全額が寄付されるそうです。
(そうじゃない場合も、けっこうあるとか)

ともかく目標額の2倍を超えた収益金を
どのように使うかなど
いまの時点で
まだ決まっていないことについては
今後も、追ってお伝えしていきたいと思います。

また、現在はフランス語版のみで発売されている
書籍版スケッチトラベルですが、
日本語バージョンの発売も予定されているとか。
こっちも楽しみに、待ちたいですね。


宮崎駿監督にスケッチブックを手渡したときのようす

最後に、堤さんから、うれしいプレゼント。

本業であるピクサーのお仕事、
そして、この「スケッチトラベル」という
壮大な「あそび」、
その、ものすごーい合間をぬって
堤さんは
1本のアニメーション・ムービーを
ほぼ独力で、つくっていました。

スケッチトラベルを紹介する短編アニメで
「堤大介初監督作品」となるこのムービー、
とーっても、すてきなんです。

提供していただいたので、公開しますね。

「それにしても、疲れました。
 いままで、ずぅーーーっと走り続けてきた
 マラソンのような数ヶ月を思うと、
 やっとゆっくりできそうです」

堤さん、おつかれさまでした。

「でも、すでに
 次のプロジェクトを考ているんです」

‥‥楽しみにしてます!




2011-10-19-WED  



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