ス ケ ッ チ ト ラ ベ ル THE SKETCHTRAVEL  ひとりの若き日本人イラストレーターの手を離れた 1冊のスケッチブックが 世界の名だたるアーティストからアーティストへと 4年半の歳月をかけ 「手渡し」で回されていきました。 アーティストたちは、その赤いスケッチブックに 思い思いの作品を、描いてゆきました。 フレデリック・バック、ビル・プリンプトン、 グレン・キーン、ジェームス・ジーン‥‥。 この「スケッチトラベル」というプロジェクトに 参加したアーティストは、総勢71名。 日本からは、寺田克也さん、松本大洋さん、森本晃司さん、 そして世界的に有名な、あの‥‥。 ピクサー・アニメーション・スタジオに勤務し 『トイ・ストーリー3』の アートディレクターをつとめた堤大介さんが この壮大な「あそび」をはじめた張本人。 なぜ、いったいどういう動機で?  糸井重里が、堤さんにお聞きしました。 なお、この「旅する美術館」とも言うべきスケッチブックは 日本時間の10月18日、 ブリュッセルでチャリティ・オークションにかけられます。 堤さんの目標は「ラオスに図書館を建てる」こと。 この連載中に、結果をお伝えできるかもしれません。ス ケ ッ チ ト ラ ベ ル THE SKETCHTRAVEL  ひとりの若き日本人イラストレーターの手を離れた 1冊のスケッチブックが 世界の名だたるアーティストからアーティストへと 4年半の歳月をかけ 「手渡し」で回されていきました。 アーティストたちは、その赤いスケッチブックに 思い思いの作品を、描いてゆきました。 フレデリック・バック、ビル・プリンプトン、 グレン・キーン、ジェームス・ジーン‥‥。 この「スケッチトラベル」というプロジェクトに 参加したアーティストは、総勢71名。 日本からは、寺田克也さん、松本大洋さん、森本晃司さん、 そして世界的に有名な、あの‥‥。 ピクサー・アニメーション・スタジオに勤務し 『トイ・ストーリー3』の アートディレクターをつとめた堤大介さんが この壮大な「あそび」をはじめた張本人。 なぜ、いったいどういう動機で?  糸井重里が、堤さんにお聞きしました。 なお、この「旅する美術館」とも言うべきスケッチブックは 日本時間の10月18日、 ブリュッセルでチャリティ・オークションにかけられます。 堤さんの目標は「ラオスに図書館を建てる」こと。 この連載中に、結果をお伝えできるかもしれません。


あれ? 何かがおかしい。 2013-06-27
スケッチトラベルがあろうと、なかろうと。 本日更新




── カンボジアでは、いかがでしたか。
穏やかだったスリランカとはちがい、
プノンペンの街には、
ものすごいエネルギーを感じました。

近代化された首都から少し走った田舎では
巨大な毒グモの唐揚げを食べました(笑)。
── え‥‥。
みんなに「何で食べたの?」って聞かれたんですが、
なんというか‥‥
『なるほど・ザ・ワールド』的なノリで(笑)。
── そんな懐かしいノリで‥‥。
到着の翌日には
プノンペンから6時間ほど泥道を走った先にある
ちいさな村へ、図書館を見に行きました。
── どのような図書館でしたか?
まず、スリランカのときと同じように、
子どもたちが、あたたかく歓迎してくれました。

ここの図書館も、とてもちいさな空間でしたが
みんな、率先して授業に参加しています。

授業が終わったあとも、本を読み続けているし、
お絵描きだって、みんな「本気」なんです。
── ちいさいけれど、熱気にあふれていた。
先生がたに頼まれて
図書館の壁にスケッチトラベルの絵を描きました。

「この図書館は、子どもたちにとっての希望です。
 その希望が
 スケッチトラベルというプロジェクトによって
 建てられたということを
 ずっと、覚えておきたいから」って。
── それは、うれしかったでしょう。
涙が出るほど舞い上がりました。

でも、うれしい反面、
ずっと感じていた「イガイガ」や「ゴリゴリ」が
さらに大きくなっていって‥‥。
── 本当に、大きなジレンマだったんですね。
その夜、食事をしているときに
「Room to Read」のカンボジア支部長が
こう教えてくれました。

「これまで、この学校の子どもたちには
 年間3冊の本しか、与えられませんでした。
 だから、その3冊を
 何度も何度も読んで暗記するんです。
 でも、暗記することだけでは
 学ぶことにはなりません。
 学ぶというのは、
 感じたり、考えたりすることですよね。
 暗記することしかできなかった子どもたちは、
 図書館ができて、
 いま、本当の意味で学ぶことができます。
 子どもたちはみな、
 本を読むことの楽しさを噛みしめています」

「大虐殺が行われたポルポト政権のとき、
 この国は、人口の4分の1を失いました。
 おそろしい数の人が死んだんです。
 都市は復興しているように見えますが、
 傷が本当に癒える日は、まだまだ遠いでしょう。
 国のいちばんの財産は何でしょうか。
 お金でも資源でもない。人です。
 この国は、あまりに多くの人的資源を失った。
 インテリ層は、とくに一掃されました。
 だから、この国では
 教育にこそ、いちばんのプライオリティが
 置かれなければなりません」
── 重い言葉ですね。
はじめは穏やかだった支部長の目は
こちらが食事の手を止めてしまうほどの迫力でした。

そして、そんな彼の情熱がヒシヒシと伝わってきて
ぼくは「恥ずかしく」なったんです。
── ‥‥と言うと?
子どもたちのために図書館を建てることは
いいことかもしれないけど、
現地の人にとっては、そこで終わりじゃない。

建てられた図書館は
しっかり管理・運営されなければならないし、
その先には「教育の確立」があり
そのさらに先には「国の復興」があります。

ただ図書館を見て感動しただとか、
あの「あそび」の意味を見い出そうとしていた
自分が、恥ずかしくなったんです。
── ‥‥なるほど。
次の日、半日アンコールワットを見学して
プノンペンに戻りました。

翌朝から、カンボジアのアーティストたちと
絵本のワークショップがはじまりました。
── スリランカのアーティストたちとくらべて
何かちがいって、ありましたか?
いちばんは「年齢層」ですね。

スリランカは年齢層が幅広かったんですが
カンボジアの絵本アーティストは
若い人ばかりでした。

そのときには考えが至らなかったのですが
じつはここにも、
カンボジアの歴史が反映されていたんです。

つまり、ポルポト政権では
知識層とともに
アーティストたちが一掃されていたんです。
── つまり、ある世代のアーティストが
すっぽり、いない?
はい。特定の年代にアーティストがおらず、
そして、本来ならば、
「その年代の影響を受けるべき次の世代」にも
アーティストが育っていないんです。
── ‥‥そんなことが。
だから、カンボジアでのワークショップもまた、
たいへん思い入れのあるものになりました。
── そうでしょうね。
ひとり、気になるアーティストがいました。

彼は、コサルという名の小柄な男性で、
あまり英語ができないからか、
ほとんど発言もせず、
つねにムスっとした感じに見えました。

何度か話しかけたんですが、反応もイマイチ。
絵が上手だから褒めても、ニコリともしない。

スリランカのヒゲ面のおじさんともちがって、
なんだか、つねに緊張しているような‥‥。
── へぇー‥‥。
ワークショップは2日間だったんですが、
はじめはシャイだったアーティストたちとも
いっしょに絵を描くと
あっと言う間に打ち解けあえるんですね。
── でも、コサルさんは、ムスッと。
最終日の午後の休み時間、
ぼくがひとりでバルコニーに座っていると、
となりに、
ちょこんと座ってくる人がいました。

無口のコサルでした。

みんなが打ち解けあって楽しんでいるなか、
コサルだけは
まだ、あまり表情を見せていませんでした。

だから、彼が、いきなり隣に座ってきたので
正直、戸惑ってしまいました。
── ええ、ええ。
ぼくは「どうしたの?」と聞いたんですが、
彼は黙ったままです。

「ワークショップ、役に立てているかな?」
とか、気まずい雰囲気なので
なんとか話題をつくろうとはしたんですが
あまり反応をしてくれません。

そのうちに、休み時間が終わりました。

そのとき、教室に戻ろうとしたぼくに、
コサルが急に、日本の、ノンプロフィットの
チャリティ団体の名前を口にしたんです。
── はい‥‥日本のNPOの名を。
午後のプログラムがはじまる時間でしたが、
彼は、たどたどしい英語で
次のようなことを
本当に一生懸命に話してくれました。

「ぼくはとても貧しい農家に生まれました。
 きょうだいは8人いますが、
 ぼく以外の誰も高校には行っていません。
 ぼくが中学を卒業したときも
 進学という選択肢はありませんでした。
 でも、そのとき、
 ある日本の福祉団体がスポンサードしてくれて、
 高校に行くことができたんです。
 小さいころから絵を描くことが好きだったので
 高校で絵を習いはじめ
 こうして、夢に見ることさえもなかった
 絵本のイラストレーターになれたんです」

完全に理解できたわけではないと思いますが
彼は、そんな話をしてくれました。
── へぇー‥‥。
「I WANTED TO TELL YOU THIS.」

そのことを話せてスッキリしたのか、
この2日間、
ずーっとムスっとして無口だったコサルが
はじめて笑顔を見せてくれたんです。
── 日本人の堤さんに、伝えたかったんですね。
その団体とは、ずっと連絡を取っていないって
コサルは言っていました。

たぶん、コサルの進学をサポートした人は
自分のお金の行き先を、知らないかもしれない。

勝手な想像ですけど
スケッチトラベルの寄付金みたいに
「気まぐれな寄付」だった可能性もあると思う。
── はい。
でもコサルは、こうして立派になっている。

カンボジアの若きイラストレーターとして、
子どもたちのために、絵本を描いています。
── ええ。
コサルの絵本を読んで、絵本のたのしさを知り、
なかには
彼のようにイラストレーター を目指す子たちも
出てくるでしょう。

だから、コサルが受けとった寄付金は
コサルひとりじゃなく
この国の将来へつながる道を開いたんだと思う。

そう思ったら、
ずっと感じていた「イガイガ」「ゴリゴリ」が
シュワーっと消えていくような気がしたんです。
── なんだか、わかります。
訪問を終えると「Room to Read」のスタッフが
空港まで送ってくれたんです。
── ええ。
そのとき、
「世界には、助けの必要な国がたくさんあります。
 でも、こうしてカンボジアに来てくれた。
 今すぐではないだろうけど、
 あなたたちが数日間、来てくれたことは
 カンボジアの将来に
 大きな意味をもたらすと信じています」って、
そんなことを、言ってくれました。
── たまたま、だったのに。
そう、ぼくたちは、たまたまカンボジアに行った。
決して「選んで行った」わけじゃありません。

でも、たまたま行ったあの国で
「Room to Read」の支部長やスタッフたちは、
人生を捧げて、
カンボジアの未来のために、闘っていました。
── はい。
その活動に捧げられた情熱や信念は、
ゆたかな先進国で暮らすぼくたちにとって、
まぶしい光を放っていました。

まさに「ライフワーク」だと思いました。
── ひとつの世代では決着のつかない問題だって
たくさんありますものね。
でも、彼らの「ライフワーク」は
スケッチトラベルの寄付金があろうとなかろうと、
そんなことと関係なく、
軸がぶれることなく、着々と続いていくでしょう。

だから、自分たちの意図がどうだとか、
彼らの感謝に値するのかとか、
そういうことに悩んでいた自分は
なんて、ちいさいんだろうと思いました。

どうして、彼らの「ライフワーク」に
参加させてもらったことに
素直に感謝できないんだろうと、そう思ったんです。
── なるほど。
スケッチトラベルにも参加してくれた
フレデリック・バックというアーティストがいます。

ぼくがいま、もっとも尊敬する人なのですが、
彼は
「自分の才能を
 世の中に光をともすために使いなさい」
と言いました。

そして、今回の旅のあいだにも
バックさんみたいに「光を灯し続ける人たち」に
たくさん出会うことができました。
── スリランカや、カンボジアで。
はい。

彼らは、スケッチトラベルなんかなくたって
何度も諦めることなく、
力強く光りをともし続けるだろうと思います。

ぼくらの寄付金がなくたって、
どうにかして、図書館を建てたにちがいない。

そんなふうに、思いました。
── 堤さんの考えが、めぐりめぐって
そういうところにたどり着いたってことが
すごくおもしろいな、と思います。
7年前、パリではじまった
ぼくたちの「あそび」は
行き当たりばったりを繰り返して
幸運にも、彼らの「ライフワーク」に
間接的に参加することができました。
── はい。
だから、スケッチトラベルって
そういう「あそび」だったんじゃないかなあと
いまは、そう思っています。
<おわります>

2013-06-28-FRI









チャリティで、何をするのか。



2013年6月26日(水)から7月7日(日)まで、
スケッチトラベルの展覧会が
渋谷ヒカリエの8階で開催されています。

これは、オリジナルのスケッチブックに描かれた
71の作品を、今回の展覧会のために
それぞれ「1点のみ」複製し、展示販売するもの。

作品の収益金は、アフリカの子どもたちのために
図書室を建てる費用に充てられるそうです。

なお、作品は、こちらの専用ページにて
オンライン購入も可能だそうです。
「6月27日正午より先着順にて販売開始」とのこと。

絵のワークショップはじめ
関連イベントもいろいろあるみたいなので
気になるかたは、公式ホームページを。



チャリティで、何をするのか。

会期:2013年6月26日(水)〜7月7日(日)
時間:11:00〜20:00
   ※初日(6月26日)は17:30閉館、
    最終日(7月7日)は17時閉館。
入場:無料
会場:渋谷ヒカリエ8F「8/ CUBE 1,2,3」
住所:東京都渋谷区渋谷2ー2ー1 8F






 


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