前回に続いて、「そり」、「むくり」「てりむくり」
のあるものを紹介していきましょう。
「そり」のあるものとしては、
日本刀が分かりやすいと思います。
日本刀が緩やかな「そり」をもつようになったのは
平安時代後期といわれています。
それまでは直刀で両刃の、
いわゆる「剣(つるぎ)」でした。
古墳から出土された剣、
といえばイメージしやすいでしょうか。
この変化は、
騎馬戦において、馬上から刀を振り下ろす際の
破壊力を増すための工夫といわれています。
刀はその後、研磨の技が発達し、
刀身の美が認識されるようにもなりました。
西洋における貴重な剣、宝剣とは
柄や鞘に、宝石が埋め込まれたり、
さまざまな装飾が施されたものであり、
刀身そのものの美しさを追求したのは、
日本だけといいます。
ちなみに、日本と西洋の同じような違いは
さまざま面でも見られます。
日本刀は「そり」を持った片刃であるため、
「引いて」使うという動作になります。
同じく、和包丁や日本のノコギリも
「引いて」切るというものです。
スポーツでみても、日本発祥の相撲や柔道は
いずれも「引く力」が重要なものです。
このように、日本では「引く力」を重視した傾向にあります。
一方、西洋ではその逆です。
西洋の剣は、突いたり、叩きつけたりと、
「押して」使うという動作です。
西洋包丁は押して切るものですし、
西洋のノコギリも、刃の向きが日本とは逆で、
押して切るものです。
西洋生まれのスポーツ、
例えばボクシングやアメリカンフットボールでは
押す力が重視されます。
実際に人体の筋肉としても、
日本人は、引く力を生む上腕二頭筋、
いわゆる力こぶをつくる筋肉のほうが発達し、
西欧人は、押す力を生む上腕三頭筋、
腕の外側の筋肉が発達している傾向にあるそうです。
話をもとにもどして、
「むくり」のあるものとしては、
法隆寺の、中央部がふくらんだ柱が分かりやすいです。
同様に、円柱の中央部に膨らみをつけることで、
下から見上げたときに柱が真っ直ぐに安定して見える
という視覚効果をもつ
エンタシスという技法がギリシャ建築にあります。
「法隆寺の柱はエンタシスがギリシャから伝わったもの」
という説は、
築地本願寺などを設計した建築家・建築史家の
伊東忠太によるものです。
実は、この説は学問的には立証されていないのですが、
和辻哲郎の『古寺巡礼』(岩波書店、1919年)などで広まり、
いまでも耳にする説になっています。
いずれにせよ、洋の東西を問わずに考えだされた形状です。
その他、「むくり」のあるものは、
古いものでは古墳のかたちもそうですし、
土まんじゅう形のお墓もありました。
玉手箱や硯箱の蓋もわずかなむくりがあります。
これは、蓋が平らなままだと
逆に凹んだように見えてしまうのを
補正するための工夫、
ふっくらとした柔らか味を出す工夫
と考えられています。
また、機能的な意味が大きいのでしょうが、
被り笠もそうです。
いまも日常的に使っているものでは、
お茶碗などの器の形にも見ることができます。
前回紹介した「てりむくり」は、
日本独自の形状であり、
神社仏閣の唐破風(からはふ)、神輿の屋根が典型です。
日本建築のお風呂屋さんの玄関屋根にも見られます。
「てり」がいつのまにか「むくり」になっている、
相反するものがひとつのものとなっていることから、
「てりむくり」を、異なるものと折り合いをつける
共存のシステムの図式として、日本文化の深層を読み解く
『てりむくり』(立岩二郎著、中公新書、2000年)
という本もあります。ご興味があればご一読ください。
なお、今回の解説では
本書も参考にさせていただいています。
この、「てりむくり」が日本独自の形である
という論から見れば、
東京スカイツリーの形状は、
「そり」と「むくり」が3次元的につながった
「てりむくり」の一種ともいえ、
そのことは、「現代の日本オリジナルな形」と、
見立てることもできそうですね。
と、わき道にそれることが多い小ネタ集になりましたが(笑)、
いろいろあるもんだ、とでも思ってもらえれば幸いです。 |